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JAM「そばかす」歌詞徹底解析・後編

 ありがたいことに、意外と読んでくださる方がおられるため「そばかす」の歌詞後半も解説させていただく。

 前半の歌詞は「主人公の孤独な闘いの記録」であると述べたが、その闘いがどのような結末を迎えたのか早速Aメロから見てみよう。

「こわして なおして わかってるのに

それがあたしの性格だから」

 ここで主人公の新たな性格に関する情報が提示されてきた。皆さんの周りには「俺って〇〇なタイプだから」とか「私って〇〇な人じゃん」などと自分自身の性格や属性、特性について客観的な目線で申告してくる人がいるだろう。

 多くの場合、自己申告された内容は事実とは異なり、「私は〇〇な人に見られたい、なりたい」という願望の報告にすぎない。

 「私ってサバサバしたタイプなんだよね」というアラサー女性が本当にサバサバしていることは極めて稀である。更に言えば、サバサバとは真逆の高い粘性を持ったタイプである事が大半である。

 「俺、全然怒ってないから。怒らないタイプだから」と言ってる奴は、かなり怒ってるし、またすぐ怒る。これは私が普段からとてもお世話になっている水道橋博士の事ではない。それだけはしっかり申し述べておきたい。断じて水道橋博士の事ではない。

 つまり、ここで主人公から申告された「こわしてなおして 分かってるのに」というのは、本当は全然分かってないという意味である。

 相手との関係を壊して、それでもまた仲直りして、それを繰り返してしまっているのだが、主人公は本来はそんな事したくないのだ。したくないのにしてしまっている。そんな自己矛盾に悩むせつない気持ちが吐露されている。

 もう一つ着目すべきは「あたし」という表記である。あえて「私(わたし)」と書いていない。この歌において、ここで初めて一人称が登場しており、かつそれが「あたし」である。これにはどのような意味が含まれているのだろうか。

 それは「〇〇なタイプだから」という自己矛盾に対する強調である。一人称が「あたし」である人物というのは、自己申告と本来の性質が極めて大きく乖離している事は広く社会で知られている。皆さんも経験上から納得できるのではないだろうか。

 「あたしって、サバサバしたタイプじゃん?」

 この表記を見るだけで、あなたの周囲にいる粘性が高いタイプの人物が思い浮かんだ事だろう。

 さて、続いてAメロ後半をみてみよう。

「もどかしい気持ちで あやふやなままで

それでも イイ 恋をしてきた」

  Aメロ前半の「それがあたしの性格だから」は、この後半部分にも掛かってきている。つまり、この申告についても虚偽であるという事だ。

 主人公は、もどかしい気持ちであやふやな関係の恋など一切したくない。唾棄すべき対象であると思っているのだ。

 しかし、それでも「イイ」と必死に思い込んで恋をしてきたのだ。もう、そのけなげで必死な思いは、こちらの胸まで切なくするではないか。

 主人公は、これまで自分を偽り、現状を幸せと思い込ませるように恋をしてきた。しかし、今回のヘヴィ級の恋の破綻によって、このまま自分を誤魔化し続けることはできない、自分自身まで破綻してしまいそうな危機的状況にある事をやっと認識したのだ。

 その理由がBメロにある。

「おもいきりあけた左耳のピアスには ねぇ
笑えない エピソード」

 この部分は省略されている語句があるため意味を取り違えている人が多い。みなさんは、ピアスの穴を一つしかあけていないと思っているのではないか。違う。

 「おもいきりあけた」というのは「おもいきりたくさんあけた」という意味なのだ。

 ついつい「失恋したから髪を切る」的な意味でのピアス穴だも思ってしまうのだが、そうだとするならばわざわざ「笑えない エピソード」などと当たり前の説明などしない。

 つまり、主人公はヘヴィ級の恋の過程において、笑えない理由によりピアスの穴をあけたのだ。ピアス穴をひとつだけ開けるなら、思い切る必要もないし笑えないエピソードが込められるはずもない。

 しかし、左耳だけにバキバキにピアスがついている思春期女子がいたら、皆さんはどう思うだろう。まず最初に「質が悪い男と付き合ってるんだろうなぁ」という予測を立てないだろうか。

 世間では、このような予測に対して「偏見」だの「差別」だのと言う風潮があるが、それこそ偏見であり差別である。

 経験上、無意識の統計上そのような可能性が高いと予測したに過ぎず、決めつけてなどいない。しかし、大半の場合そうであろうという予測をするのは人間の危機管理本能としてはむしろ極めて自然な行為なのだ。

 このようなケースで差別うんぬんを騒ぎ立てる奴ほど、本質が差別主義者なので気をつけなくてはならない。これは予測ではなく事実である。

 つまり、ここで言う笑えないエピソードとは、バキバキに開けたピアスだらけの左耳のことなのだ。本来はピアスなど開けたくないのに、自分を偽って「私はピアスをバキバキに開けちゃうタイプ」として振る舞っていた事など、笑えるはずがない。

 ヘヴィ級の恋を角砂糖と一緒に飲んだ結果、若干の冷静さを取り戻した主人公は、過去の激イタエピソードを思い出して更に後悔と恥ずかしさが込み上げてきている状態となっているのだ。時系列で主人公の心情が語られている歌だとここまでで判明した。

 今気がついたのだが、この私の文章を岡田斗司夫の口調で再生してみてはどうだろうか。しっくりくる気がする。

 閑話休題。二番のサビをみていこう。

「そばかすの数をかぞえてみる
汚れたぬいぐるみ抱いて
胸をさす トゲは 消えないけど
カエルちゃんも ウサギちゃんも
笑ってくれるの」

 ここで主人公が冷静さを取り戻した事が分かる。そばかすの数をかぞえはじめたからだ。歌の最初では、ひとなでする余裕しかなかったが、ここになって平常時の落ち着きを取り戻し、そばかすを気にしはじめたのだ。

 しかし、汚れたぬいぐるみを抱いている。ちなみに、その汚れたぬいぐるみがカエルちゃんとウサギちゃんなのは言うまでもない。

 ではなぜ汚れたぬいぐるみを抱いているのか。汚れているという説明により、幼少期から愛用しているぬいぐるみである事がわかる。ちなみに筆者はJAMの楽曲「小さな頃から」において叱られた夜においても、このぬいぐるみを抱いていたのではないかと睨んでいる。

 一番で言及されていたトゲは、星占いでもぬいぐるみでも抜くことは叶わなかった。がしかし、主人公は冷静さをかなり取り戻してきている。そして大サビを見てみよう。全ての謎が明らかになる。

「想い出はいつもキレイだけど
それだけじゃ おなかがすくの
本当はせつない夜なのに

どうしてかしら? あの人の涙も思いだせないの
思いだせないの Wo…
ララララララ
どうしてなの?」

 まずは大サビ前半。こちらは一番のサビと同一の表記であるため、一見すると主人公の心情は変化してないのではないかという誤解をしがちである。

 しかし、ここで全ての答えを導く言葉が出てくる。「あの人の涙」である。

 一番ではあの人の「笑顔」だった。つまりその時点では楽しかった頃の記憶を思い出そうとしていた。つまり悲しい感情に支配されていたのだ。楽しかった記憶だからこそ、これを失った時の悲しみ、絶望感は大きい。主人公はその悲しみと向き合う事で辛さを乗り越えようとしていた。しかし、その悲しみが深すぎるが故に脳の防衛機能が発動して思い出す事ができなかったのである。

 ところが、ここでは涙を思い出そうとしていた。そして、ここでもまた「思い出せない」と再び発言してるが、これは虚偽である。それは、直後にもう一度「思い出せないの」といいながら、「ラララ〜」とのんきに歌っている事から明らかである。

 では、なぜ主人公は「あの人の涙も思い出せない」などと嘘をつく必要があったのか。ここがこの歌における最大の謎であり、核心である。

 解決の鍵は、最後の「どうしてなの?」と尋ねている部分にある。主人公は誰に問いかけていたのか。それは、「あの人」に対してである。

 皆さんには、以下の情景を思い浮かべて欲しい。

分かれたカップルの片方が「あなたの涙(泣き顔)が思い出せないんだよねぇ。なんでだろうねぇ。」ともう一方に告げている。

 もうお分かりだろう。主人公は別れた相手を挑発しているのだ。

「お前のことなど思い出せやしない。なんでか分かるか?お前など私の記憶からほとんど消えつつあるからだよ。」

 凶々しいまでのオーラだ。好きな反対は無関心とはよく言ったもので、あれだけ想い出だなんだと言っておきながら記憶を消去しつつあるのだ。

 ここでもう一度サビの歌詞を思い出して欲しい。「想い出はいつもキレイだけど」のキレイは、「想い出がキレイである」と言っているのではないのだ。

 主人公のこの発言は「私の記憶の想い出コーナーはいつもキレイさっぱり片付いている」ということを意味している。胸のトゲが抜けないとか、チクッとして痛いとか言っているが、結局はあまりの激イタエピソードを思い出した結果、今回の交際を「黒歴史」に認定して光の彼方に消し去ったのだ。

 「そばかす」の歌詞の意味を総括する。

 激イタな相手と激イタエピソードだらけの交際をした結果、自分自身が恥ずかしくなって別れた。冷静になるとますます恥ずかしさが込み上げてくる。もう、想い出だとかどうこう言う前に、全て忘れてしまおう。無かったことにしてしまおう。よしもう忘れた。お前のことなんて顔さえ思い出せないよ。

 こういうことなのだ。実にハートが強い主人公である。この歌が多くの若者の心を捉えたのも頷ける話ではないか。

 さて、今回はJUDY AND MARYの名曲「そばかす」の歌詞を徹底的に分析してみた。実に多くの新しい発見があった。引き続き様々なヒット曲の歌詞の解析をしていこうと思う。リクエストがあれば、ぜひコメントやTwitterなど各種SNSでお送りいただきたい。

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