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「絵の中のパパは‟しろいじん”」

 前回のコラムを執筆中に懐かしい記憶がふわっと目の奥に浮かんできました。今回は記憶がある範囲内でおまけエピソードを書いてみようと思います。

4色で描いたパパ

 私は小学校に入る前、保育園に通っていました。
 保育園にいたときのどのタイミングだったかは覚えていませんが、父の日に「お父さんの似顔絵を描いてプレゼントしよう!」と先生がみんなに呼びかけました。

 当時は今より絵を描くのが好きでした。本を読んだりするよりも絵を描いたり、思うままにねんどをこねて好きなものを作ったりするのが好きでした。そんな私は先生の呼びかけにすぐに反応し、大きな画用紙をもらい、クレヨンを自分のロッカーに取りに走りました。

 すっごく昔のことなのに、保育園はさぞかし楽しかったのか小学校のときよりもいろんなことを覚えています。たしか、当時使っていたクレヨンは12色のサクラクレパス。

 幼少期このクレヨンを使っていた方は多いのではないでしょうか?
 保育園に通っていたときの私はこのクレヨン以外の色を知りませんでした。つまり、色を12種類しか知らなかったんです。たった12色のクレヨンであるものないものをたくさん描いていました。
 なので、パパの似顔絵を描くときも、何の違和感もないまま、当然のように「はだいろ」(※1)のクレヨンを使って描きました。まず、髪の毛を「くろいろ」で、つぎに顔を「はだいろ」で、目と鼻を「くろいろ」で、最後に口を「あかいろ」で。
 たった4色だけでパパの似顔絵を描きました。当時の似顔絵が残っていたらお見せすることができたのですが、5人姉妹・兄弟ともなるとわざわざそういった思い出のものを残して保管しておくだけでも大変です。その点はご了承ください。

パパの反応

 周りの子も同じ色で描いていました。目は「くろいろ」、髪も「くろいろ」、口は「あかいろ」か「ピンクいろ」、顔はもちろん「はだいろ」。それが似顔絵だと当初の私は思っていました。先生に描いた似顔絵を見せると「あら、上手にかけたね~パパ喜んでくれるね~」と褒めてくれました。私もパパをそっくりに描けたことが嬉しくて、帰ってパパに見せるのが楽しみでした。

 家に絵を持ち帰って、さっそくパパに似顔絵を見せました。するとパパは嬉しそうに絵を見て「パパの肌が白くなったな~いいね~」と笑っていました。当時の私はパパが喜んでくれた嬉しさとなんとも言えないモヤモヤを感じました。それ以来、パパの絵を描くとき、はだいろのクレヨンと茶色を混ぜようとしたときもありました。しかし、クレヨンというのは絵の具と違って綺麗に混じり合うことはありません。かえって、汚れて見えてすぐにその試みはやめました。やっぱり「はだいろ」で描くことしかできない。その度にパパは「絵の中でパパはしろいじんになれる」と笑っていました。

 今思えば、このセリフは自虐だったのかもしれません。もしくは皮肉だったのかもしれません。パパの肌の色に対する複雑な思いも今ならわかりますが、当時の私にはどうすればよかったのか答えは見つからないままでした。

広がる可能性


 大学生のときから不定期で、着衣固定ポーズのアートモデル(ノンプロモデル)として似顔絵を描いてもらうお仕事をしています。趣味で絵を描くのが好きな人もいれば、美術の先生だったり、美大生だったり、幅広い立場でみなさん参加してくれています。そこではそれぞれが持参した絵の具や鉛筆で描いてくれます。色味をつけず、黒一択で描き上げる人もいれば、忠実に私の肌の色を表現しようと色を混ぜてキャラメル色のような肌の色で描く人や、欧米白人系をイメージした真っ白な肌の色に髪は金色、目は青色といったように自分が描きたい形で私を自由に描く人もいます。

 そんな参加者の皆さんの自由気ままな表現方法を見ていると、本来絵を描くってこういうもんでいいんじゃないかという気持ちがしてきます。選べる色はたくさんあった方がいい。どの色をどう使うかは描く側の自由。ただ、当時保育園にあったクレヨンのように、選択肢がまず少ないと表現できるものも限られてきますし、「はだいろ」と名指されたクレヨンのせいで、これを肌の色に使うよう誘導されています。また、「はだいろ」のクレヨンがひとつしかないせいで「はだいろ」とはこういう色だという固定観念を無意識のうちに植えつけられてしまっています。

 保育園にもっとたくさんの色のクレヨンがあったら、「はだいろ」と書かれたクレヨンがたくさんあったら(もしくは「はだいろ」がなかったら)、そしてクレヨン以外の方法で描くことも選択肢にあったら、父の日には同じような絵ばかりでなく、子どもたちが自由に表現した似顔絵ができるでしょう。当時の私も、また違った方法でパパの似顔絵を描くことができたかもしれないなぁ。

なんてことをふと思い出しました。
以上、おまけエピソードでした。
最後まで読んでくださりありがとうございました!


(※1)当時の記憶をそのまま記述しているため、あえて「はだいろ」という表現をここでは使っています。現在は「うすだいだい」いろ、という表記になっています。


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