220718

とある日の、空腹に理性を侵された21時頃、家を飛び出して肉を買ってきた。

すでに私の血肉になった

身づくろいもそこそこに早足でスーパーを目指す。
22時には店じまい、肉を吟味する時間を確保するためにも到着は急がねばならなかった。

手に掴んだ懐中電灯は闇路を照らすためじゃない。
威嚇だ。
夜の一人歩きには、スマホと灯りと殺意を携えていけばなんとかなる。

スーパーの敷地に入る。
広いはずなのになぜか見通しが悪い駐車場を突き進む。

自動ドア開閉即カゴをひっつかんで、消毒液のペダルを踏み、手指を揉みながら早足で精肉コーナーへ。
時間のロスは許されない、肉だけじゃなくタレや米も必要なのだ。
あと急ぎ腹に入れるパンのようなものもほしい。

最初の目当ては数種類のカット肉が寄せ集められた安い焼肉セット。
これさえあれば欲望は十分に果たされるはずだったが、そこへたどり着く前に、田舎のスーパーでは見慣れないような肉が目に止まった。

色つやがよく、しっかり脂の乗った赤身肉。
牛肉であることだけ確認してためらいなくカゴに放り込む。

部位の名称もろくに見ていない。
しかし安かったと思う。
焼肉が食べたい人間の前に、焼肉用のきれいな肉が980円からの二割引で現れたら、買わない選択肢はない。

理性がある昼間には、健康と節約のことを考えて鶏ささみにばかり手を出しているのに、やはり本性はこれなのだ。※

今回野菜はいらない。
家の冷蔵庫には、一人暮らしの身に余る量のトマトがひしめいている。
代わりにインスタントごはんと焼肉のタレを回収し、最後に買ったアイスを袋に詰めたらすぐに店を出た。
帰り道のことは何も覚えていない。

鞄を下ろし、マスクだけ無造作に剥ぎ取ったら、すぐに手を洗ってフライパンを火にかける。
パンの空袋を捨てて本命のラップを剥いた。
さあ肉を焼くか。

熱せられて溶けた脂が泡立ってはじける。
「天国へ行けるなんて考えるなよ」という声が頭の中で反響して終わらない。
私の中の真人間像がくらんでいく。

罪悪感には中毒性があるよなぁと思う。
赤色を失っていく肉を間近で見下ろしていたら、大粒の汗がぼたぼたと胸に落ちていった。



※でもささみも好き。蒸してお野菜と一緒にポン酢で食べるのが好きです。よだれ出てきちゃったな。

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