先天的日記帳(短歌連作)

 ひとという群れからはぐれられませんか月は双子の死産した方
 泣くことも同じ明かりの遺伝子で昇らせて昇らせてよ蛍
 小瓶のデッサン 個々に命の名をつけて個々に絶滅できるまほろば
 虹になる雨を誉められない船の模型マストが折れてそれから
 しかも眩暈たとえ遥かな旅路でも星座早見はいつまでも夜
 水汲むと靴もひかりを覚えたので素足はさよならの種明かし
 朽ち果てる観覧車そのゴンドラの中に架空の花抱き留めよ
 銀製の栞を挿しておく価値が蜉蝣に火をつけてわかった
 記憶は地層になれない湖底へと沈めて行方知れずの卵
 はじめての秘密は臍の緒の終点すべては白黒の写真展
 ひとという患いでした骨壺の往くロケットも病窓ですか

 私は、脳死後及び心臓が停止した死後すずらんが咲きます