国境の南(1)
Harry Kullman, "The Secret Journey"
自分が子供だった時に読んで楽しかった本をまた読みたいと思っても、絶版になっていて手に入れるのが難しいことが多い。復刊ドットコムというありがたいサービスはあるが、欲しいものすべてが揃っているわけではない。冒頭に掲げたスウェーデンの作家ハリー・クルマンの作品も、そのような手に入りにくい一冊だ。この本はあかね書房が1965年に『デビッドの秘密の旅』という題で発行したものである。同社が出していた国際児童文学全集の第7巻で、訳者は神宮輝夫だ。後には偕成社文庫に収録されたようだ。私が小学生だった頃に町の公民館にある図書室から借り出して読んでおもしろかった記憶があり、それでこの作品を再び読みたくなった。二、三年前の話だ。
ところが『デビッドの秘密の旅』で調べると高値がついた古書ばかりで、しかもそれさえ品切れになっていたりととても手を出せそうになかった。あかね書房の刊行物に限らず、古い児童文学書にはびっくりするような値段がついていることが多い。いったいどんな人たちに向けて売っているのだろうか。そこで英語版を探すことにした。原著はスウェーデン語だが日本語訳が存在するくらいなのだから英訳もあるのではないか。ならばということで著者名の Harry Kullman でKindleストアを検索したものの、残念ながら電子書籍は存在しないようだ。その時はどうしても読みたい気持ちが強かったのでほかに手がないか考えたところ、英語の古書ならあるいは、と思いついた。そうして AbeBooks という古書を扱うWebサイトにあたると、無事に見つけることができた。価格は6ドルか7ドルだったはずだ。イギリスの Wallingford という町にある古本屋から送ってもらい、送料のほうが高くついた。なぜ日本人がわざわざこの店で買うんだとお店の人は思ったかもしれない。20ドルくらいかけても、日本で古書を買うよりずっと安かったのだ。
そうした経緯でこの本が手もとにある。訳者は Evelyn Ramsden で University of London Press Ltd. が1959年に刊行したものだ。ロンドン大学出版局が児童文学のシリーズを出していたそのうちの一冊だそうだ。価格はどれでも 12s 6d と記載があって12シリング6ペンス、調べたところ現在の物価に換算してだいたい13ポンド、2千円相当らしい。カバーに変色や破れはあるが届いたときからずっと不思議なよい匂いがしている。さすがにこの時代のものなのでバーコードはついていないしISBNの記載さえない。表紙や文中の挿絵は Claes Bäckström によるもので、画家の名前から判断するに原著で使用していたのだと思う。
ところで、である。わざわざイギリスの古本屋から取り寄せた本は、四分の一ほどぱらぱらと読んでそのままにしてしまっていた。決してつまらないからではない。入手できて安心と満足をしてしまうというありがちな現象によるものだ。そうして部屋には手のつかない本が積み重なっていく。もちろんせっかく手に入れたのに放置しているのを気にはかけており、およそ二年の熟成を経てようやく最初から読み直すことにしたのだった。これで本題に入ることができる。
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