国境の南(3)

あらすじにダーヴィドは高級住宅街に住んでいると記した。物語中に具体的な地名は出てこないのだが、ストックホルムの Östermalm と呼ばれる地区だとみなされている。同地区は現在においても人口が多く、またスウェーデン国内で最も住宅費が高いお金がかかる町だという。ダーヴィドが<太っちょ>の家で語るところによると、彼が住むフラットには部屋が8つもあり、そこには両親とメイドがいるだけだ。物語内ではさらに田舎の家の存在に何度か触れており、おそらく別荘も所有している。父親が弁護士であるのはすでに明かされているとおりで、ダーヴィドがいわゆる upper-middle 上位中産階級に属するのは間違いないだろう。

いっぽう彼が冒険に向かうのは南側に位置する Södermalm という地域だ。これについても地名の明記はないが、そうだとされている。地図を見ると水路に浮かぶ島がその中心になっている。水路を隔てた島の南側にも区域が存在するが、どうやらこれは2000年代になってからの再編によるもので、もともとは基本的に Södermalm という島がそのままひとつの地区をなしていたらしい。また、北側の小さな島は有名な Gamla stan ガムラ・スタン(旧市街)である。王宮やノーベル博物館などが所在するここも現在は同じ地区となっている。現在の Södermalm (Södermalms stadsdelsområde)と、旧来のあるいは島の Södermalm があって紛らわしいが、本稿では後者を指す。したがってガムラ・スタンなどは考察の対象に含まない。

Google map の縮尺を変えるとすぐにわかるとおり、ダーヴィドが住む Östermalm と Södermalm は意外と近い。直線にして2キロメートル離れているかどうかといったところだ。大人ならば自転車や徒歩でも移動できる距離だろう。現在の Södermalm は再開発によってしゃれたウォータフロントといった体で人気のある場所になっているようだ。カフェや、若い芸術家の作品を展示したギャラリーなどが並んでいるという。先ほどから伝聞形ばかり使用しているのは、スウェーデンに行ったことが無いどころかパスポートさえ持っていない身なのでそこは許してもらいたい。

では本作が発表された1953年頃の Södermalm はどのような場所だったのだろうか。今しがた再開発という言葉を使った。ということはもちろんそれ以前の姿があったわけだ。まずは物語内の記述を拾うことから始めよう。

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