問1. 「ひまわり」を描いた画家の名を答えよ

これまで点数計算の話題しか書いてこなかったが、別に麻雀についてだけ語ろうと思ってnoteを始めたわけではない(*1)。そうではなくて、自分が好きなこと、楽しんでいることについて気軽に、できれば適当な話をしたいと考えている。

私はあいにく趣味とまで呼べるほど深い知識や嗜好を持ち合わせないものの、それなりに楽しみながら続けていることはいくつかある。そのひとつが外国語の学習である。何か使うあてがあって学んでいるのではなく、お金をかけずにできるので毎日少しずつ時間を使っている。ほとんど遊びのようなものだ。

さて、そうしていくつか言語を学ぶ、あるいはつまみ食いしている中で今のところいちばん難しいと感じているのがオランダ語である。文法はいわゆるV2ルールがあるなどドイツ語からの応用が効くものだが(*2)、発音がなかなか難儀、特に g の音がやっかいだ。

Er is veel regen. (There is a lot of rain.)という文があったとして、regen の g はIPAの/x/にあたる音になる。ドイツ語の acht や Buch などの ch と同様である。

このように単語の内部に出てくるのならばまだいい。たとえば Zij gaan niet. (They do not go.)のように語頭に g が来るといきなり/x/の音を出さなければならず、汚い話だが「痰でも吐くのかこいつ」みたいな失敗をしてしまう。

しかも正確には/x/ではなく/ɣ/という音でなければならない。有声軟口蓋摩擦音と呼ぶそうだが何をどうすればいいのかわからない。どうも代用はできるらしいということで/x/で押し通している。このあたりが学習とも呼べない、いい加減な取り組み具合を示している。

ともあれ、そうしたオランダ語の発音の難しさが詰まっているのが Vincent Willem van Gogh, すなわち私が大好きな画家のひとりゴッホの名前である。いったい/ɣᴐx/なんてどうすればいいんだ。もはや手詰まりと言ってもいい。

こうした事情のためか、ゴッホの名前表記には注釈が付いているのをよく目にする。「ただしくはフィンセント・ファン・ホーホのような発音である」といったものだ。日本語版Wikipediaにもいろいろ記述がある。

ところが、ある程度オランダ語の勉強が進んだところで疑問が生じた。 Gogh の部分はまあいいとして、はたして「フィンセント・ファン」なのだろうか、と。

以前はオランダ語もドイツ語と同様に v を/f/と発音する、となんとなく思いこんでいた。上に挙げた例文中の veel はドイツ語の viel に相当する単語である。これは/feːl/であろうと予想しながら例文を聞いていると、どうも様子が違って/veːl/と言っているようにしか聞こえない。

その後学習を続けているうちに、どうやら v を/f/と「発音することもある」らしいとわかってきた。らしい、というのは大して頑張っていないからである。しかしいい加減だとはいえ Vincent van Gogh がフィンセント・ファン…なのかという疑いは生じる。

ならば母語話者たるオランダ人がどのようにゴッホの名前を呼ぶのかを確かめなければならない。幸いYoutubeやForvoなどを利用できる時代である。いろいろと聞いてみた結果、私としては次のような結論にいたった。

  • Vincent は英語圏の名前の Vincent と同じ発音である。カタカナ表記するとすればヴィンセントである。

  • Willem はヴィレムのように発音する。厳密には/v/ではなく/ʋ/というこれまた素人には判別しがたい音だそうだ。

  • van はドイツ語の von にあたるもので、ヴァンである。ただし英語の van よりは短い音になるらしい。

  • Gogh は例の難しい音のままである。

もっともオランダ語に限らず方言というものがあるので、地域によって発音が変化する、差異が生じることは考えられる。また人名中の van は/fan/であるという説明も存在しており、これが正解だとは自分でも考えていない。そこまで自信はない(*3)。まじめにオランダ語を学習あるいは研究している人々からすると、愚にもつかない間違った話を連ねているだけなのかもしれない。

ほかにも気になって調べてみたものとしては、艦隊これくしょんや黒井緑のマンガに登場する、あるいは現行のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートの艦名であるデ・ロイテルがある。

オランダ語話者による De Ruyter の発音を聞くと「デ・ラウター」もしくは「デ・ラオター」のように感じとれる。ロイテルという表記は、通信社で有名な Reuter に引きずられたものではないかと推測している(*4)。

ここまででわかる通り、私にとって外国語の学習は何か仕事に役立てるだとか、人生を豊かにする、教養を身につけるといった目的を持っていない。つまらないことに気づいたり、どうでもいいことを調べて遊んでいる。そういう楽しみ方でもかまわないだろうと思っている。

特に落ちや結論はない。強いて言えば「江戸時代のオランダ通詞はすごい」というものである(*5)。

*1 すでに平澤元気やわせりんらが活躍しているレッドオーシャンで、そのような試みなど無謀である。
*2 ドイツ語ができるわけではない。たまたま第三外国語や独習で学んだことがあって、ほんのわずかな知識があるに過ぎない。
*3 Pythonの作者をグイド・ファン・ロッサムなどと呼ぶのは見たことがないと思うがどうなのだろうか。
*4 古い文書にロイテル通信社という表記が見られるようだ。
*5 シーボルトのオランダ語がおかしいのではないか、と気づくほどの力量があった。

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