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東美濃ナンバーはナゼ失敗したのか?前編「東美濃が抱える諸問題」

2006年から導入が始まり、2021年4月現在では25都道府県46地域にまで広まったご当地ナンバー。

地域おこしへの利用や現行の地名表示への不満等を背景に全国各地で新規導入を目指す動きがある一方で、中には地元住民から強い反発を受けた事例も複数存在します。

導入決定に至るまでのプロセスや個人情報保護の観点から計画を問題視する声が高まり、訴訟問題にまで発展した東京都の世田谷ナンバー騒動はご存知の方も多いのではないでしょうか。

しかし、東京から遠く離れた岐阜県東濃地方でもご当地ナンバーを巡る攻防戦が繰り広げられていたことは残念ながらあまり知られていません。

この記事では、今からおよそ3年前に起こった異例尽くしのご当地ナンバー導入計画「東美濃ナンバー騒動」を振り返ります。


1.騒動の始まり

東美濃ナンバー導入計画は2017年9月に何の前触れもなく始まりました。

岐阜県南東部にある6つの市(中津川市、恵那市、瑞浪市、土岐市、多治見市、可児市)の商工会議所が、各市の首長や市議会議長に向けてご当地ナンバー導入の要望書を提出したことが新聞報道で明らかになったのです。

岐阜県には2種類のナンバープレートがあり、北部の飛騨地方が飛騨ナンバーを、南部の美濃地方が岐阜ナンバーを使用しています。

商議所の計画は岐阜ナンバー管轄地域のうち、県南東部のみを対象として地名表示(ナンバープレートの地名)を変更するというもので、実現すれば岐阜県初のご当地ナンバー導入となります。

そして、この時に発表された岐阜ナンバーに代わる新たな地名「東美濃」が後にあらゆる問題を引き起こすこととなるのです。


2.「東美濃」はダサい?

こうして突如として始まった東美濃ナンバー導入計画は順調に進行し、計画発表の翌月には「東美濃ナンバー実現協議会(以下、協議会と表記)」が設立。

協議会には可児市と関係が深い御嵩町も加わり、7市町の住民の代表かつ東美濃ナンバー導入推進派の中心的な存在として活動を開始しました。

……が、肝心の地元住民の反応はお世辞にも良いとは言えませんでした。

そもそも、今までこの地域にはご当地ナンバー導入を望む声がほとんど存在しなかったのです。

東美濃ナンバーと同時期に計画が発表された千葉県の松戸ナンバーは、それ以前に使用されていた野田ナンバーへの反発や、同様に野田ナンバーを使用していた近隣の柏市が柏ナンバーを導入したこと等が影響し、地元松戸市民から「松戸にもご当地ナンバーを」という熱烈な要望を受けて誕生しています。

対する東美濃ナンバー導入計画は商議所や行政が一方的に立ち上げただけで、地元住民の意思を反映しているとは言い難いものでした。

そして、地元住民がこの計画に乗り気になれなかった最大の理由が「東美濃」という地名。

では何故「東美濃」は地元住民から受け入れられなかったのか。

2018年2月17日付の中日新聞東濃版に掲載された記事にその答えが書かれています。

会合では事務局の多治見商工会議所に寄せられた意見が紹介され、静まりかえる一幕があった。

「田舎者丸出しでダサい」

「子どもや若者のためにもやめてほしい」

「画数が多く分かりづらい」

「東美濃」への忌避感の理由として最も大きかったのが「印象の悪さ」でした。

下らないと思うかもしれませんが、先ほど紹介した松戸ナンバーと柏ナンバーも「従来の野田ナンバーがダサいから変えたい」という地元住民の要望が作り出したご当地ナンバーですし、愛知県では尾張小牧ナンバーへの不満から一宮市と春日井市がそれぞれ独自のご当地ナンバーを導入しています。

また、埼玉県さいたま市では現在、市内全域で旧大宮市(現・大宮区)の名を冠した大宮ナンバーが使用されていますが、大宮区と長年ライバル(?)関係にある浦和区民からは浦和ナンバーの新設を望む声も挙がっています。

このように「地元住民のプライド」はご当地ナンバー導入の是非を決定づける大きな鍵となりうるのです。

そして、そのプライドは必ずしもご当地ナンバー導入を推進する方向に動くわけではありません。

ご当地ナンバーの導入計画を巡って反対派が訴訟を起こした東京都世田谷区は、もともと品川ナンバーを使用する地域でした。

品川ナンバーは千代田区、港区、渋谷区等の東京都心部を管轄としていることから「高級」「カッコいい」といったポジティブなイメージが強く(参照)、最早ブランドとすら呼べるほど。

それに誇りを感じている層からすれば、せっかくのブランドを捨ててまで世田谷ナンバーを導入する理由がありません。

地方の人間からすれば「世田谷だって十分ブランド地名じゃないの?」と考えてしまいますが、そこは地元住民にしか分からない微妙な感覚が絡んでくる話なのでしょう。

もっとも、反対派の意見には世田谷も品川と同じく「高級」なイメージを持たれるブランド地名であることを前提にした「(世田谷ナンバーは)車上荒らしの標的にされかねない」といったものも存在します。

本題に戻りますが、今回の主役「東美濃」も地元住民に違和感を覚えさせる地名であり、それが「ダサい」「やめてほしい」といった強い忌避感の原因となっていたことは間違いありません。

ここからは、生まれも育ちも県南東部の人間が勝手に住民を代表して「東美濃」に対して抱いた違和感について解説していきます。

3.「東美濃」は馴染みが無い?

まず、東美濃ナンバーの導入が計画されていた地域についておさらいします。

東美濃ナンバーはその名が示す通り、岐阜県美濃地方の東部を対象とするご当地ナンバーです。

岐阜県美濃地方東部とは具体的には

多治見市
土岐市
瑞浪市
恵那市
中津川市
可児市
御嵩町

これら7市町のことを指します。

このうち、多治見市から中津川市までの5市は通称「東濃(とうのう)」と呼ばれる地域に属しています。

政治に興味がある方には衆院選選挙区の「岐阜5区」と表記したほうが分かりやすいかもしれません。

鉄道ファンには「中央西線」や美乃坂本駅周辺に建設予定のリニア新駅、Twitterのフォロワーの皆様方には「新首都は東京から東濃へ」のスローガンが馴染み深いかと思われます。

そして、残る可児市と御嵩町は「中濃(ちゅうのう)」と呼ばれる地域の一部です。

中濃は衆院選選挙区では北部の飛騨地方と共に「岐阜4区」に分類され、鉄道事情も東濃とは異なり名鉄が走る地域です。

つまるところ、中濃はいずれリニアと首都機能がやって来る東濃とは明確に別の地域ということです。


多治見市、土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市は東濃。

可児市、御嵩町は中濃。


では、肝心の「東美濃」はどこにあるのでしょうか? 

結論から言うと、正式に東美濃と呼ばれている地域は存在しません。


東濃と中濃は地元住民にも行政にも正式な地名及び地域区分として扱われていますが、その一方で東美濃は範囲すら曖昧で認知度も微妙な上、地名としても定着していないという数々の問題点を抱えています。

試しにGoogleMapで両者の検索結果を比較してみましょう。

まずは正式な地名である「東濃」を検索します。

病院や学校、信用金庫に至るまで幅広い分野の施設が名称に「東濃」を採用していることが分かります。

では「東美濃」はどうでしょうか。

なんと、ほぼ農協です。

これを見て「農協が採用するくらいだから東美濃も地元で十分定着している地名なんじゃないの?」と考えた方は表示されている支店の住所をよく見てください。

実は、名前に東美濃を冠する「JAひがしみの」の管轄地域は、東濃東部の中津川市と恵那市の2市のみに限られているのです。

地元住民にとって「東濃の一部を管轄とする農協の名前」以上の意味を持たない単語だったはずの東美濃。

そんな地名(と呼んでいいのかすら微妙ですが)が突如としてご当地ナンバーの候補にされてしまったわけです。

特に東濃東部から遠く、なおかつ一般的には中濃に分類される可児市、御嵩町の住民からしてみれば、東美濃は日常生活において全く縁の無い地名と言っても過言ではありません。

馴染み深い地名ならともかく、意味不明な地名モドキをご当地ナンバーにする意味が分からない。

地元住民が東美濃ナンバーに対して強烈な違和感と悪印象を抱いたのには、こういった事情があったのです。


4.「東美濃」は朝ドラ便乗?

そもそも、東美濃ナンバーは何故地元で定着している「東濃」を採用せず、問題児の「東美濃」を選んでしまったのでしょうか。

その答えは、推進派が制作した漫画の中にありました。

😎「みなさ~ん、東濃に来てねぇ~!!」
😟「とおの?どこ?」
😕「遠野といえば岩手でしょ?」

「東濃」は岐阜県外では超マイナーだった!!

😎「まずいなぁ~~この地域を象徴する地名が……欲しい!!」

元々、東濃は千300年以上前から続く
美濃国……の東、という意味。
😎「これを、 」
美濃国の東
☝️
😎「こうすると………。」
東美濃国の
☝️

東 美 濃

😎「うん、美しい語感だ!」
😎「いいじゃないか!!」

良くねえよ。


「地元の観光アピールをしたいけど元の地名(東濃)は誰も知らないから無理。でも名前を東美濃に変えればOK」って、何言ってるんですか?マジで。

そのマイナーな地名を世間一般に知らしめるのが観光アピールってもんだろうが!


東濃をアピールしたいのであれば素直に東濃で勝負すべきですし、ご当地ナンバーも「東濃」にすればいいじゃないか。

しかも「美しい語感だ」って何だよ。

地元で定着している「東濃」は美しくないとでも?

地名すら大切に出来ない人達がやる「観光アピール」って何なんでしょうね。

なんだか色々と突っ込んでしまいましたが、気を取り直して先ほどの漫画の続きを読んでいきます。

😎「さらに、この春始まった朝の連ドラの舞台が……東美濃!!」
😎「また、再来年、2020年の大河ドラマの主人公は東美濃出身の明智光秀!」
😎「2027年にはリニアモーターカーもやって来る!!」
「東美濃に追い風が吹いている!!」😎🏊⛵

ここで重要なワードが飛び出しました。

「この春始まった朝の連ドラ」



「半分、青い。」


知らない方向けに大雑把に説明すると、「半分、青い。」は2018年4〜9月にNHKで放送されたいわゆる「朝ドラ」です。
永野芽郁さんが主演を努め、ガッキーの旦那が主題歌を歌っていました。

地元(広義)が舞台の作品ですし、あんまりマイナスなことは書きたくないんですが、東美濃ナンバー騒動の発生及び長期化の原因は、間違いなくこのドラマにありました。

この表現だと誤解を招きかねないため、より正確に書くと

地元の有力者が「半分、青い。」を都合よく利用しようとしたのが全ての元凶

という感じです。


まずはこちらの画像をご覧ください。

「半分、青い。」は主人公が岐阜県出身という設定で、撮影の一部も実際に岐阜県内で行われました。

その中でもメインの舞台となったのが東濃東部に位置する岐阜県恵那市。
それに合わせる形でNHKも当初は舞台を「東濃のとある町」としていました。

しかし

ここで、センスは無いのに暇と金と権力だけはある「地元の有力者」が余計なことを言い出します。

「東濃では理解されない。舞台となる街の名前を東美濃市にしろ」


NHK側も特に断る理由も無いと判断したのか、このゴリ押s……提案を受け入れることとなり、朝ドラには実在しない架空の街「東美濃市」が登場することになりました。

そして、NHKへの東美濃ゴリ押しに成功した有力者達は、さらに余計なことを思い付いてしまったのです。


「ご当地ナンバーを作って名前を東美濃にしよう。そうすれば岐阜の陸運局まで行かなくても地元でナンバーを取得出来るようになるし」


なりません。

まず第一に、ご当地ナンバーを導入しても陸運局は新設されません。
これまで通り岐阜陸運局のお世話になる必要があります。

第二に、これが最も重要なポイントでもあるのですが、我が地元の有力者連中は

地元に定着している地名を捨ててまで、朝ドラに登場させた架空の街の名前をご当地ナンバーにする必要はあるのか?

という、非常に初歩的な疑問点を完全に無視して東美濃ナンバー導入計画をぶち上げてしまったようです。

変える必要の無い地名を変え、導入する必要の無いご当地ナンバーを導入しようとする……この流れ、先ほど紹介した漫画の内容と全く同じですね。


もちろん、朝ドラの放送は観光アピールを画策する人々にとっては絶好のチャンスですから、これを最大限利用してやろうという心意気そのものは否定しません。

しませんが、

朝ドラ放送時の一時的なブームに便乗してご当地ナンバーを作るのはさすがに恥ずかし過ぎるだろ。


黒歴史確定ですよこんなの。

朝ドラとしては空前絶後の大ヒットを飛ばした「あまちゃん」の舞台の久慈ですらこんなことしてませんからね。

朝ドラに夢を見過ぎです。
冷静になりましょう、マジで。


5.「東美濃」はルール違反?

当然と言えば当然ですが、ご当地ナンバーにもルールが存在します。

Wikipediaで内容を確認してみると、こんな記述がありました。

行政区画や旧国名などの地理的名称であり、当該地域を表すのにふさわしい名称であること。また、当該地域名が全国的にも認知されていること。


当該地域を表すのにふさわしい名称であること。



当該地域を表すのにふさわしい名称であること。




当該地域を表すのにふさわしい名称であること。


東美濃ナンバー、いきなりアウトです。

既に記事中でしつこく書いたように、東美濃ナンバーの導入が計画されていた岐阜県美濃地方東部は「東濃」と「中濃」に分けられます。

東美濃ではありません。

よって、東美濃は当該地域を表すのにふさわしい名称ではない、ということになります。


ナンバープレートに表示された際に十分視認性が確保されるよう、原則として「漢字」で「2文字」とすること。やむを得ない理由があるとして例外を認める場合であっても最大で「4文字」までとし、ローマ字は認めないものとすること。


原則として「漢字」で「2文字」とすること。やむを得ない理由があるとして例外を認める場合であっても最大で「4文字」まで


一見、セーフに思えますよね。

ただ、この「やむを得ない理由があるとして例外を認める場合」というのは

苫小牧(北海道)
富士山(静岡・山梨県)
春日井(愛知県)
伊勢志摩(三重県)

等の「元々の地名が3文字以上」のご当地ナンバーに対する救済措置です。

ですから、

地元に定着している地名(東濃)を採用すれば2文字に収まるのに、朝ドラ便乗を狙ったばかりに余計な1文字が加わり3文字になってしまった某地域

は厳密には対象外な気がします。






と、ここまで長々と東美濃ナンバーへの愚痴を書いてきましたが、これらは東美濃ナンバー導入計画が抱える膨大な問題点の一部に過ぎません。

次回は記事の前半で登場して以降一切出番の無かった推進派の代表組織「東美濃ナンバー実現協議会」について扱います。

後編はこちら



今回の内容をより詳しく知りたい方はこちら

東美濃ナンバー反省会 第3回「『東美濃』がご当地ナンバーの名称に相応しくない理由」


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