東美濃ナンバーはナゼ失敗したのか?後編「民意軽視と悪あがき」
後編では東美濃ナンバー推進派の代表組織「東美濃ナンバー実現協議会(以下、協議会と表記)」の問題点を中心に取り上げていきます。
1.第1回住民アンケートは反対多数に
2018年1月18~31日にかけて、協議会は東美濃ナンバー導入の是非を問う住民アンケートを実施しました。
対象となったのは7市町に住む18歳以上の住民の中からランダムに選ばれた1万人で、対象者にはアンケート用紙が送付されます。
特に問題は無さそうに思えるこの住民アンケートが、後に起こる様々な騒動の引き金となりました。
このアンケートが抱える「爆弾」の危険性をいち早く指摘したのが中日新聞でした。
問題点として初めに指摘されているのが、回答に含まれる「どちらでもよい」という選択肢です。
中日新聞は「どちらでもよい」は不必要であると論じ、その理由として「中立的な意見が賛成に組み込まれる(推進派=協議会に有利な結果にされてしまう)」可能性を挙げています。
不安感はありますが、協議会の良心を信じ、そんなものは杞憂だと一蹴することも出来ます。
しかし、その次に指摘されている問題点は協議会の良心どころか常識を疑うような内容でした。
反対が半分以上でも「導入見送りになるとは限らない」
「反対多数でも導入を進める場合、住民に根拠を示して理解を得ることに努める」
これでは「我々はアンケートの結果を無視するつもりですよ」と言っているようなものです。
じゃあアンケートを採る意味無くないですか?
まさか「住民の意見を(一応)聞きました」と言い訳するためのアリバイ作りのためのアンケート……なんてことはないですよね?
様々な疑惑が深まる住民アンケートですが、結果は予想通りでした。
賛成+どちらかといえば賛成
→32%
反対+どちらかといえば反対
→44%
反対多数ではありますが、前評判の悪さを考えればかなり健闘したほうかもしれません。
しかし、公正なアンケートで反対多数になってしまったのもまた事実。
というわけで、これにて東美濃ナンバー導入計画は終了です。めでたし、めでたし。
とは、なりませんでした。
2.事業者アンケートのカラクリ
協議会は住民アンケートと同時に「事業者アンケート」なるものを実施していました。
そして、こちらも住民アンケートに負けず劣らず巨大な爆弾を抱えていたのです。
問題の焦点はアンケートの対象者です。
協議会の公式HPによれば
以上のメンバーが事業者アンケートに参加するとのことですが、はっきり言って問題点しかありません。
何故なら、対象者に当然のように含まれている商工会議所と商工会は協議会の関係者だからです。
要するに、共に東美濃ナンバーを推進する立場にある仲間をアンケートに参加させているわけです。
ランダムに選ばれた住民が対象の住民アンケートと違って公平性の欠片もありません。
事業者アンケートは各商議所に加えて7市町に所在する事業者(企業)も対象としていますが、こちらも商議所を通じて間接的に協議会と関わっていますから、実質身内と呼べる関係性です。
このような、控えめに言って不正としか思えない状況で採られたアンケートの結果がどうなるかは明白ですよね。
賛成+どちらかといえば賛成
→56%
反対+どちらかといえば反対
→31%
そりゃそうなるに決まってるだろ。
まぁでも、ここまで有利な条件を揃えておいて賛成が60%に届いてないのも衝撃的ではあるけれど。
3.導入強行を決めた協議会
ついに、恐れていた事態が現実のものとなってしまいました。
2018年2月19日、協議会は会合で住民・事業者向けアンケートの結果を報告し、両方で「反対意見が過半数を下回った」ことを理由に導入計画の継続を決定したのです。
協議会が下した「反対意見が過半数以下なら支持は十分得られている」という判断はあまりにも常識から大きくかけ離れており、もはや衝撃的と言うほかありません。
確かに、2つのアンケートでは反対意見が過半数を下回りました。
しかし、それは回答者の一部が「どちらでもよい」という選択肢に流れた結果起きたもので、中日新聞が指摘していた「中立的な意見(どちらでもよい)が賛成に組み込まれる」という懸念が的中した形になります。
参考までに、選択肢を「賛成」と「反対」の2つに絞って行われた岐阜新聞の独自アンケートを紹介します。
こちらは反対派が6割となっており、今回「どちらでもよい」を選んだ住民も2択であれば東美濃ナンバーに否定的な意見に回る可能性は非常に高いのです。
また、前述の通り事業者アンケートは対象者の選考に重大な問題があり、民意を正しく反映しているとは言い難いものでした。
これらの事実から導き出される結論は唯一つ
協議会は初めから民意を尊重する気など無かった
これは、住民アンケートが開始された時点で既に協議会関係者から「(反対が半分以上でも)導入見送りになるとは限らない」などという暴言が飛び出していることからも明らかです。
ですが、協議会のこうした横暴かつ反民主主義的手法は多くの住民の怒りに触れ、「反対派住民 vs 協議会」の構図は揺るぎないものとなりました。
元来「東美濃」に対する諸々の不満(前編を参照)から導入計画に否定的な空気が強かった世論が強硬な反対派に回ったことで、協議会は徐々に追い詰められて行きます。
4.止めた県、足掻く協議会
2018年2月、反対多数となった住民アンケートと、賛成多数になるよう仕組まれた事業者アンケートの結果を都合よく解釈して「(導入計画への)理解を得た」と結論づけた協議会は、岐阜県知事に東美濃ナンバー導入の申請を行いました。
この暴挙に対し、住民も反撃を開始します。
県の公式サイトから県知事に宛てて東美濃ナンバーや協議会が抱える問題点を列記したメールを送り、申請却下の請願を行ったのです。
すると、翌月になって協議会は「導入申請を延期」することを発表します。
理由は「反対意見の考慮」。
住民アンケートの結果を無視して計画を進めていたくせに何を今さらという感じですが、どうやらこの決定には「住民の合意形成が図られていない」ことに懸念を示していた県の姿勢が少なからぬ影響を与えたようなのです。
住民がメールを送った甲斐があったのか、それとも単純に協議会の主張がめちゃくちゃ過ぎて理解されなかっただけなのかは不明ですが、どちらにせよ協議会の計画は行き詰まりました。
否、行き詰まる“はず”でした。
3月中の申請を諦めた協議会は次なる一手として、前代未聞の行動を起こしたのです。
導入申請期限の延期を要望
これは、ご当地ナンバー制度が始まって以来、初の試み……いえ、悪あがきでした。
ご当地ナンバーを導入するためには県と国交省への申請を行う必要がありますが、前段階の県への申請でつまずいた協議会は本来の申請期限である2018年3月中の申請を諦め、期限を半年間も延長するよう国交省に求めたのです。
はっきり言って、これは異常です。
同時期にご当地ナンバーの導入を計画していた他の地域では賛成多数なら導入申請を行う、反対多数なら断念して次回を待つというように、期限の3月までには各々で結論を出していました。
中には、住民アンケートが賛成多数になったにもかかわらず、反対意見を考慮して導入を見送る決断を下した地域すらありました(参考)。
ご当地ナンバーをつけて走る車のほとんどは地元住民の自家用車ですから、その持ち主が「東美濃ナンバーはいらない」という意思表示をしたのなら、協議会はそれに従うのが当然です。
「1度目の住民アンケートで反対多数になったから賛成多数になるまで待って欲しい」などというワガママを言っているのは東美濃ナンバーだけ。
地域の恥をさらしているも同然です。
しかも、協議会が期限延期申請の理由として挙げたのは
「4月から朝ドラ(半分、青い。)の放送開始が始まる。東美濃市(架空の地名)が登場すれば東美濃という単語が定着してご当地ナンバーにも理解を示す住民が増えるはずだから朝ドラが終わるまでは待って欲しい」
というもの。
住民を舐め腐っているとしか思えません。
そして、国交省も国交省で協議会のワガママを聞き入れて9月末までの猶予を認めてしまったのです。
こうして、東美濃ナンバー騒動は当初の予定より半年間も長引くことになりました。
5.第2回「誘導尋問アンケート」
延期申請から5ヶ月後の2018年8月、第2回住民アンケートの内容が発表されました。
この記事では端折ってしまった5ヶ月の間に何があったのかについては東美濃ナンバー反省会の第6回と第7回をご覧ください。
反対派住民の5ヶ月間の闘いと努力が実を結び、第2回アンケートは幾つかの改善点が見られました。
最も重要な変化は協議会にアンケート結果を尊重すると約束させたことです。
協議会は「反対意見が過半数を下回ればOK」という屁理屈を撤回し、
「賛成意見が反対意見を上回った場合、住民の合意形成が図られたと判断する」
という至極真っ当な見解を示すようになったのです。
計画開始から約1年経って、協議会はようやく「民意を無視してはいけない」という常識的な感覚を理解してくれました。
それにしても、何故こんな当たり前のことを決めるのにこれほど時間がかかったのか……初回アンケートの時点でそうしていれば、申請期限を延長する必要も無かったのに……。
なにはともあれ、反対派の声を無視出来なくなった協議会が半年間で成長した……というより改善を迫られて実行に移すようになったことは確かです。
例えば、第2回アンケートは前回の反省を活かし、回答の選択肢を「賛成」と「反対」の2択に絞ることも明かされました。
「どちらでもよい」が排除されたことで、前回のように反対or賛成が過半数を下回ることは無くなりました。
こうして、様々な改善を施した上で満を持して始まった第2回アンケートですが、新たに別の問題が浮上しました。
どういうことなのか、アンケートの実物を確認してみましょう。
まず、問1は前回も存在した質問ですから問題ありません。
しかし、問2と問3で新たに「特に反対する理由も無い、ほとんどの人が賛成に丸を付けるであろう質問」が2つ追加され、最重要事項のナンバーについての質問がそれに続きます。
アンケートの公開直後から、この一連の流れが「誘導尋問みたい」「深く考えずに"はい"に丸を付ける層を狙ってる」「勢いで3つ全てに賛成するように仕向けているのでは?」と反対派住民から非難され、新聞記事にもなりました。
これに対し実現協議会は「誘導ではない」と回答。
「導入する目的を理解してもらい、ナンバーに限らず今後の広域連携を進めていく上で住民の意向を把握するため」と、一応それらしい説明をしていますが本心は分かりません。
どうもこういった小賢しい、ともすれば卑怯とも言える行動が目立つ協議会ですが、ついに一線を越える事件が起こってしまいます。
6.お願いFAXリーク事件
誘導尋問の件でバッシングを受けながらも第2回アンケートは予定通り送付が始まりました。
前回と同じく、対象者はナンバー導入計画区域の7市町に住む住民の中からランダムに選ばれた1万人です。
40万近い人口の中の1万人ですから選ばれる確率はそう高くはありません
とはいえユーザー数の多いTwitterや5chでは、幸運(?)にも1万人の中の1人に選ばれた住民が現れ、次々と「反対」に丸をつけて送ったことを報告し始めました。
前回のアンケート結果が反対多数だったこともあり、「この調子なら今回も反対派が優勢だろう」との見方が強まっていたのですが、回答期間終了まで残り1週間となった9月13日に5chにこんな書き込みが投稿されました。
事実であれば、協議会が不正な工作を行っていることになります。
誘導尋問どころの話ではありません。
しかし、ソースが5chの書き込みだけでは疑う人のほうが多く、信じるに値する証拠も存在しないためそれほど話題にはなりませんでした。
しかし
翌日になってTwitter(リンク)で動かぬ証拠がリークされてしまったのです。
本文を書き起こします。
差出人の名義が土岐商議所の会頭となっていることからも分かる通り、このFAXは
商議所による事実上の賛成強要です。
しかも、商議所の会頭は協議会の主要メンバーでもあります。
前回は事業者アンケートで身内を利用した協議会が、今回もこのような形で「合意」を無理やり作り出そうとしていたわけです。
本当に、この組織はどこまで腐っているのか……。地元のことながら呆れるばかりです。
7.断念、そして未練
2018年9月24日、ついに東美濃ナンバーの命運を決する第2回住民アンケートの結果発表の日がやって来ました。
導入申請は9月末。
泣いても笑ってもこれが最後のアンケートです。
午前10時58分、東濃ニュースが速報を出しました。
反対 61.1%
というわけで、第2回住民アンケートの結果も無事に反対多数となりました。
しかし、まだ油断は出来ません。
相手はあの協議会。
とんでもない屁理屈をこねて話を「計画続行」に持って行く可能性も十分にあります。
その後、1時間以上も続報が出なかったこともあり、戦々恐々としていた反対派住民でしたが、12時22分にようやく待ちに待った一報が届きました。
この瞬間、約1年間続いた東美濃ナンバー導入計画は終わりを迎えました。
我々反対派住民の完全勝利です。
強行導入、期限延期、誘導尋問、不正FAX……協議会のありとあらゆる悪あがきを乗り越え、団結した住民の声が東美濃ナンバー導入計画を完膚なきまでに叩き潰したのです。
その後も協議会関係者からは「次のチャンスはある」との現実逃避とも思える発言が飛び出したようですが、断念から3年が経過した2021年6月現在、東美濃ナンバーの復活を望む声や機運が高まっている気配は全くありません。
東美濃ナンバーに限らず民意を無視した計画は大抵上手くいかないものですし、強引に達成に導いても必ず将来に禍根を残します。
ご当地ナンバー制度で再び東美濃ナンバーのような失敗が繰り返されぬよう、我々はこの騒動を今後も末永く語り継ぎ、より多くの人々に知ってもらうための努力を続けていくつもりです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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