みどりいせき感想1

すばる文学賞「みどりいせき」(大田ステファニー歓人)を30ページくらい読んだ。寝る前にきょうの分の感想を書きます。
あとで読み返したいから、忘れないために書く感想なので個人の経験とか思い込みもたくさん書くと思います。

まず、超話題になっている、超越した口語体について。これはかなり凄い。
これは小説なのか?と焦るほど序盤は読みにくい。読みにくい理由はいくつかあって、やはりおしゃべりにしたって聴き取りにくいにもほどがあるくだけた口語体で、「若者言葉」って言葉でくくるのも若者に失礼なほどくだけすぎている。ネットスラングとも違うし、こんな言葉で会話は成立するのか?と思うほどくだけた言葉で話が進む。

しかし、この点についてはすぐ慣れた。冒頭は全く意味がわからないレベルだった文体も、途中から落ち着きはじめるのか、こちらのチューニングが合ってくるのか、かなり読みやすくなる。それと、普段から読んでいる口語短歌と近い部分を感じられて、個人的にはすぐ慣れた。平出奔さんの短歌などと近いように感じた(予防線 個人の感想)。そう思うと、大田ステファニー歓人さんの文体は韻文だと思った。読んでいてとても気持ちがいい。

次の難点は、登場人物を全く説明しないことだ。この点は多くの人が作品の理解を難しくする点として挙げている。登場人物が誰なのか、名前も外見も属性もほとんど説明しない。それどころか、誰がどの性別なのかすら確証が持てないまま話はどんどん進んでいく。

でも、ぶっ飛んだ口語体と相まって、登場人物に設定という枷を嵌めないこのやり方は没入感を高めていると思う。回り道の多い韻律の良い口語体できっちり説明されても冷めるだけだ。しかし、徹底的に説明不足に描かれた人物たちは、必要な時に必要な分に全然足りないくらいの説明をされ、そこに矛盾はない。かなり周到だと感じたし、作者はノリで書いているのではなくとても確かな実力の持ち主だと思い知った。

それと、連発される「言葉」もだ。特に固有名詞がひどい。ペニー、しびでぃ、ワッペ、など、全く説明されること無く使われる言葉たちは、「若者言葉」とくくることもできないほど意味不明なものも多い。

スタンリー・キューブリック監督の時計じかけのオレンジで、ドルーグたちが使っていたナッドサット言葉のように推測して映像や音楽に集中すれば用をなすものもある。また、個人的にはペニーは簡易的なスケートボードだとわかるし、CBDがリキッドだともわかる。ワッペに関しては、「まさか桑田真澄のグローブのワーペ(ワールドペガサス)じゃないよな〜」なんて思って調べたらマジでワールドペガサスのことで、高校生の間でワールドペガサスのカバンが流行しているというとんでもない事実に気づいた。読者個人が、作者と近い経験をしていればリンクする部分も多く、共感しやすいと思う一方、全く意味のわからない言葉を使う人物たちのことを全然説明も何もしないので、疎外感を強めるだけの読者も多いかも知れない。その場合も、ナッドサット言葉とは違ってスマホで調べてみると意味がすぐわかるので少し労力を使えば置いてけぼりにはならないかも知れない。調べてまで読むかはあるけど。

読みはじめたばかりだけれど、この小説ではストーリーや人物の掘り下げよりは、「バイブス」としか言えない空気を味わおうと思った。すでにたくさんの言葉の作る、バイブスに出会えている。

この小説に似ている、というわけではないけど、少年犯罪を描いた小説で記憶にあったのは、第37回文藝賞の「YOU LOVE US(単行本化の際に「メイド・イン・ジャパン」に改題)」(黒田晶)で、そちらもかなりくだけた口語体だった気がする。

メイド・イン・ジャパンには、ドラッグの描写があったかは忘れたけど、主人公グループはみんなスケートボードをやっていた。「みどりいせき」が影響を受けているとは思わないけど、私の中ではこの二作は少し繋がるものがあった。

明日には読み終えられそう。楽しみです。


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