【閑話休題 R2司法試験を解いてみたー知財】

第1 特許法(難)

採点実感でも異なる可能性があります。あと条文に関しては逐一引用して,文言も引用するとよいと思います(今回はメモ程度なので,省いているところがほとんどです。)

あくまで20分程度で思いついたことをといった方針で記載していますので,他の論点も存在する場合がありますが,あくまでこれぐらいは書くかなといった視点でみてもらえればと思います。

設問1

 1 特許を受ける権利と条文

 33条1項確認。査定前ですので,解除後現原状回復として特許を受ける権利をえます。しかし,特許権者がこのままだとYですので,Xに戻す必要があります。この場合,解除した後,確認請求訴訟を起こすことになります。査定前ですとこれで結構ですが、実際は効力要件ですので届出が必要ですので、当該判決の謄本を特許庁に届出するかと考えられます。(34条4項)

 2 特許権の二重譲渡

 これは1の改正により議論されていたところの新たな課題という問題です。

 いわゆる解除に基づく二重譲渡関係にたちます。この点Yが特許権を取得した後,特許権がZへ移転しています。そしてLへ貸し出し利益を得られています。

 訴訟上どのようなことができるかというと2つありますが,

 この場合74条第1項,123条第1項第6号を用いることになります。こうすれば既に74条2項に基づきXに帰属していたことになりますので,差止め,損賠,不当利得,補償金請求,が通ることになります。

他方,今までの原状回復に基づく請求の場合、二重譲渡関係でかつ,善意であるので,請求できません。この2択があること、第三者保護の必要性から74条制限説も主張されているところではあります(共同出願や冒認や背信的悪意者に限る)。

 といったことが指摘されていますので,いずれの見解をとるにしても,他説を触れて自説を書いていただくとよいかと

 設問2 医療行為と特許法(難 先端医療特許に関わる問題)

 方法Mは診断方法の発明でありますので,医療行為と特許の論点として,「発明」と「産業上利用する可能性」を記載する必要があります。20%の確率で医者が発症を診断することになります。またかなりの確率で副作用が生じます。さてこれは薬?診断方法?という先端医療技術の問題となります。

 まず「発明」は定義を書いてもらい,この類の場合発明該当性を論じてください(ちなみに人工知能でも結構問題になります。これ人間ができることを自然法則か?という論点があるんですが,問題意識だけで結構です)

 さらに「医療行為」は「産業」に含まれないという,医者の負担増,人道上の理由から外されるというのが現在の実務です。診断方法と考えれば「医療行為」ですので含まれないという結論になります。薬っぽくみえますが,方法の発明でとっているので,含まれないということになるかなと思います。

もちろん,医療行為にそもそも配慮する必要がない,手術とかに限定すれば足りるという海外の法制度を受けた反対説も上記の日本の実務に触れていただければ点になると思います。その際は国民皆保険制度に触れたりするとなお良いかと思います。

 設問3 FRAND宣言(難 最近の実務の問題)

 平成26年にアップル,サムスン事件の世界的訴訟のうち,日本も訴訟され,知財高裁大合議(最高裁並に強いです)判決をモデルにした問題です。

いわゆるSEPというのですが,詳しく話すと,ややこしいので,判例百選を参照してください。

 これは標準処理規格というメンバーに加わるのです。皆さんいろいろなデバイスを持っているとおもいますが,たとえば,アップルの充電部分とコンセントのケーブルが他のものに使えないといったことありませんでした?そうなんです別々に特許とっていくと,かえってユーザーが不便を被るので,標準規格を作ります。ここには標準必須特許があり,そんなものにいちいち特許権行使されると面倒なので,チームを作ります。

 そのチームの宣言がFRAND宣言です。みんなに平等に正当にロイヤルティもだいたい一緒でやるでえというものです。(なお,ライセンス交渉がホールドアップ問題,ホールドダウン問題になるのが指摘され,中国,米国共に足並みをそろえ,裁判所は誠実交渉義務につき判断を下しているのが最近の実務のホットな話題です。クアルコム事件もあり経済法とも絡むなかなかホットな話題です。今回は関係ありません)

 以上のようなことを考えると,本件の回答は抽象的に以下のとおりになるかと思います。

 ・差止め

必須宣言特許についてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,FRAND宣言をしている者による特許権に基づく差止請求権の行使を許すことは,相当ではない。(権利濫用,民法1条3項)

 ということで場合分けする必要ありますね。

 ・損害賠償

「ライセンス料相当額の範囲内の
損害賠償請求を許すことが著しく不公正であると認められるなど特段の事情
が存することについて、相手方から主張立証がされた場合には、権利濫用と
してかかる請求が制限されることは妨げられないというべきである特段の事情のない限り」含まれます。

しかし特許権者からしてはいやそれなら違反勝ちやろという反論があるので,

 ・ライセンス料相当額以上につき以下のように裁判例は判断しています。

 「特許権者が、相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない等の特段の事情が存することについて主張、立証をすれば、FRAND条件でのライセンス料を超える損害賠償請求部分についても許容されるというべきである。そのような相手方については、そもそもFRAND宣言による利益を受ける意思を有しないのであるから、特許権者の損害賠償請求権がFRAND条件でのライセンス料相当額に限定される理由はない」

 ここでは事情がないので,少し場合わけして記載するといいと思います。

(まあ難しいのでここまで書いてる受験生は皆無と思っています。差し止め微妙,損賠OKぐらい書いておけば良いかなと思いますw)

※2020,8月30日追記

Unwired Platent v. Huaweiの英国最高裁判決がでました。米国,ドイツや中国でもあったりはしますので(広東省深セン市中等裁判所、(2016)粤03民初840号、(2016)粤03民初816号)興味がある方は世界的な判決を追ってみるとよいかと思います。ホールドアップが当初問題視されてましたが,ホールドダウン問題も再燃してきており,SEP側に有利に出ている印象ではあります。


第2 著作権法(やや優)

 設問1 原著作者の権利

 三次的著作物の丙に対し、原著作者はいかなる権利を行使できるかです。

 まず翻案の定義を明らかにし、乙の著作物が甲の著作物であること、乙の著作物が丙の二次的著作物であること、そして甲の三次的著作物であることを条文に基づき確認しましょう。

 ここで本件特徴のない原著作者の差し止めは本件特徴をよくとらえ乙から許諾を得ている権利まで及ぶのかというキャンディキャンディ事件で、条文は28条です。結論的に二次的著作物、原著作物の双方の部分に権利を行使できます。

 判例の理屈は、依拠部分と独自創作部分について区別せずに判断をにすべきかについては特に触れていませんが、この両要素を明確に区別することは難しい事、およびに二次的著作物である以上それを形成する部分で原著作物の創作性に依拠しない部分があるというのは考えにくいからである。

 批判としては、

・いちいち原著作者の許可ていっても、第8次著作物のときとかどないせえちゅうねん。どこにおるねん・・・(取引費用の増加)

・そもそも権利者が努力していない部分に権利行使が可能なのもおかしい。

 という批判があるところかと思います。

 設問2 鑑定証書事件

 これは重要判例ででてきた引用の論点として有名で、私の頃も出るかな?と予想されていますし、実務でも結構ホットです。

 引用の要件は充足しそうなところでありますが、本裁判例は利用する側に著作物性が要求されるかを判断したところにあります。従来の最高裁から下級審は、著作物性を要求していそうにみえていました。

 「すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、」(ちなみに旧法下です)

知財高裁は、「正当な範囲内で利用されるものである限り、社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されること」などを指摘したうえで、鑑定証書それ自体は著作物でないとしても、正当な範囲内での利用であって、「引用」にあたるという判断が妨げられるものではないと判断したことになります。

第3 侵害主体への差し止め、掲示板運営者は侵害主体か、教唆幇助者か(ファイアローグ事件、ウイニー事件、2ちゃんねる小学館事件)

 差し止めが聞かれているので、基本的には侵害主体がどうなのかで結論が決まるかと思います。

 いきなり論点に飛びつく前に原則を確認するとよいと思います。そもそも著作権侵害者はユーザーの誰かです。

※この場合,発信者情報開示やプロ責法を使い(場合によっては米国ディスカバリーも利用することがあります),誰かの情報を得ることになります。得たら二段階目に訴状なりで差止めや削除,損賠を行います。

 しかし,例えばアカウントを作りまくって,いっぱい拡散して広告収入やマイニング(暗号通貨を得られるプログラムを仕込む)を得るところも多く,さらにサーバーの位置を海外にしたり,捜査が及びにくいところにするといった高度な悪質なユーザーは知財ネットの業界ではよく知られています(数年前からFBIの捜査によって根絶が図られています。詳しくは調べてみてください)

  また著作権侵害をよく知らない人たちは自由に利用する発想のもと,過失で行ってる人もいたりします。また判断が微妙なものもあります

 これを前提とすると,はたして著作者の権利の救済として一番いいのはなんでしょうか?

 そう,流出を止めるのが一番となります。ただ場を提供している人を止めていいのか?そもそも場を提供している人は著作権侵害者なのか?という論点がでてきます。まずここまでの流れを簡潔にまとめて論点に突入すると問題の所在を理解していると思うので,goodです。

 この点カラオケ法理から始まる一連の判例を参照にしつつ、行為の内容・性質、管理支配性、利益性等を考慮して決定されるでしょう。

掲示板運営者として当該掲示板に掲載された投稿の最終的な送信停止の権限を有しており,実際にも必要があれば直ちに送信停止を行うことができたことは管理性を肯定します。

 他方

①プロの小説家や漫画家を志す人からの投稿を募る掲示板として始まり,公的機関からも表彰されるなど,良質の掲示板であるとして雑誌等にも紹介され,戊も,当該掲示板に,著作権を侵害する投稿は厳禁とする旨の注意書きを掲載し,送信停止の要請があった場合にも公正な調査を心掛けてその要否を決するなど丁寧に対応していた。

②当該掲示板の人気が高まり,大量の投稿がされるようになるにつれて,戊には,日々数百件もの送信停止の要請が寄せられ,戊はその対応に追われるようになっていた。また,戊は,当該掲示板について,広告収入を得ていたが,掲示板の運営費がかさみ,わずかの利益を得るにとどまっていた。

 上記2事情は反対事情として働きます。

 結論はいずれでもよいですが、個人的には、悪質な掲示板でもないため、侵害主体としては困難な感じもします。しかしはたしてそれでいいのか,権利者からどうしたらいいのか。。。といった悩みもあるとなおgoodです。当該問題を通じて悩みのある問題だからこそ,説得力ある論証や事実の評価を期待しています。そういうところをきちんと逃げずに記載する人は他の科目同様に合格に近い人物かなと模試の採点等をしていて思いました。


・感想


著作権法は全体的には典型的な判例・論点が多く簡単なように見えますが、特許法は受験生の対策が手薄なところ(設問1,2)と、判例百選にも掲載され、実務的に有名だが受験生的にはよく知らない問題(設問3)も出され難易度が高いのではないかと思う。


 


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