令和4年 予備試験 知財(著作権法)

第1 予備試験 選択科目
 司法試験に続いて,予備試験でも選択科目が試験科目に加わり,知的財産法はどのように出題されるか注目されましたが,今回は特許法ではなく,著作権法でした。以下,検討してみたいと思います。やや難という印象でした。

第2 問1から問3までの検討の中心ー著作物性
 いわゆる「著作物性」は近年の裁判例や実務でも一大テーマになっており,3問ともこれらの議論を中心に問われている印象を受けました。一行問題でもよさそうですが,あえて事例問題と問3つに分けるような問題にしたのかなという印象です。さらには編集著作物,データベースの議論の相違等,近年のゲームの事案でもよく見かける検討項目でもあります(いわゆる選択の幅の見解とも併せて検討できそうです)。モデル裁判例としては,東京地裁平成12年3月17日「タウンページデータベース事件」や東京地裁判決平成14年3月28日「自動車DB事件」が関連しそうかなと思いました。またここで重要なのは汗をかいただけでは著作物性は認められない(しかし不法行為では保護の余地あり)というものです。

第3 問1 (普通orやや難)
「Xデータベースは、建売住宅についてこれまで存在していなかったものを、Xの従業員が多大な労苦を重ねて建売住宅の情報を収集して制作したものであり、建売住宅の選択、住みやすさ等の独自のデータ項目の選択及びそれらの画面表示上の順序に独自の工夫が凝らされているも のであって、著作物性を有する。」と主張している。 Xの上記主張の妥当性について論ぜよ。

 まずは著作物性の基準を示すことになり,種々見解がありますが,「個性」「独自の工夫」「他の表現と比較してありふれているか否か」といった個性やありふれた表現かといった点から検討することが一般的です。
 そのうえでデータベースは従来からある編集著作物の概念を電子的表現し条文に例示していることから,当該条文を基に判断することになります。
「素材」=「データor項目」となりこれ自体は著作物性がなくてもよいが,その「選択」「配列」「体系的な構成」等に創作性が認められるかといった点が重要になってきます。
 この点については裁判例でも言及されていることから,裁判例の規範を用いる方法でもよいでしょう。
 肯定した裁判例としては「・・・職業分類体系は,検索の利便性の観点から,個々の職業を分類し,これらを階層的に積み重ねることによって,全職業を網羅するように構成されたものである。原告独自の工夫が施されたものであって,これに類するものが存するとは認められないから,そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した・・・」
 
本件について検討すると,人気エ リアであるA県内に実在する全ての2階建ての建売住宅約3万件が選択され、そのデータ項目とし て、販売開始年月日、坪単価、床面積、間取り、販売状況、住みやすさという各項目が選択され、 これらの各項目がその順序で端末の画面上に表示されるように構成されていた。→これではなありふれた選択,配列といえるでしょう。

「住みやすさ」という項目は、駅からの距離、治安の良さ、公共施設の存在、買い物のしやすさなどを基に、実際に情報収集に当たったXのベテラン従業員のセンスと感覚により、社内での検討を経て、 居住した場合の主観的な満足度の予想を5段階にランク付けしたものであった。
→この点が評価を分けそうな事情になるかと思われます。ここを汗をかいただけと評価するか,選択の幅があると評価するかによります。主観的な満足度は社内の人たちの(感覚的な経験値,主観的ではあるが統計的な重みづけ)を得ているので,選択の幅があると評価することもできますし,5項目のランク付けの選択の幅は限定されえる(情報の選択と構成はだいたい一緒になる)という点もいうことはできます。難しいところゆえに,いずれかの評価をしてもらい,結論を示してもらいたいなと思います。

その他,「これらの建売住宅が画面上に販売開始年月日の新しい順に表示されるように構成されたも のであった」はありふれた表現と思われます。

そしてこれらを組み合わせた情報の体系化に創作性があるかも検討することになりますが,「住みやすさ」という項目の評価如何によっては創作性ありと評価されえる余地もありますが,個人的には創作性はなく,したがって上記主張は妥当ではないという結論もあるかなと考えています。

創作性は簡単そうで,「事実に対する評価」でかなり答案の評価や点数がわかれそうな問題と感じました。

問2 データベースの翻案とは?(やや難)
 「Xデータベースに著作物性があり、Xがその著作権を有するとした場合、YがYデータベ ースを制作する行為は、Xの著作権を侵害するものであるといえるか。」
 答案としては翻案の定義で創作性がある部分が共通しているかが本件の侵害の成否をわけそうです。
 「Yデータベースには、Xデータベースの建 売住宅約3万件のデータから、販売開始年月日の新しい順に取り出した 1 万件分の建売住宅のデー タが格納されており、そのデータ項目及びその画面表示上の順序は、Xデータベースにおけるそれ と完全に一致していた。Yデータベースには、Xデータベースにはない最新の販売分として建売住 宅500件のデータも格納されていたが、その500件のデータに係る「住みやすさ」の項目は、 空欄になっていた。」
 先ほどの項目と関連しますが,著作物性の翻案のとき,通常であれば創作性ある部分を比較すればいいのですが,データベースのとき素材自体は創作性がないという前提ですすめているので,データベースのときの創作性ある部分の共通とはいったいなんなんだ?という論点があったりします。本件も上記で悩んだ「住みやすさ」の事情がYデータベースで変更されているところを見ると受験生に悩んでほしいような問題文の誘導となっています。
 問1と関連して(創作性を分析的にかつ総合的に検討し),この悩みを見せつつ一定の解答をしている答案は高く評価されるのではないかと思われます。なお依拠性も問題になります。

 翻案の定義はご存知かと思われますが,さらにそこから進んで編集著作物やデータベースの翻案て具体的になんなんだ?みたいな悩みを受験中気づいた方がいて,ぐちゃぐちゃになりながらもある程度検討できた方は高評価になるかと思われます。

問3 不法行為(普通)
 悩みながらきた受験生はさすがに不法行為では保護していいんじゃないか?という価値観になっているかとは思います。
 裁判例においても「人が費用や労力をかけて情報を収集整理することでデータベースを作成し,そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において,そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを,その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成する」
としていることからも認める傾向にあります。
 本問の問題文には「Xデータベースは、開発費用として3億円、開発期間として2年間を掛け、 Xの多くの従業員が関与し多大な労苦を重ねて建売住宅の情報を収集し、その社運を賭けて制作し たものであった。」「実際に情報収集に当たったXのベテラン従業員のセンスと感覚により、」「Yデータベースには、Xデータベースの建 売住宅約3万件のデータから、販売開始年月日の新しい順に取り出した 1 万件分の建売住宅のデー タが格納されており、そのデータ項目及びその画面表示上の順序は、Xデータベースにおけるそれ と完全に一致していた。」「Yデータベースを、Xデータベースが販売されていたA県及びその近郊の地域で、大々的 に広告宣伝し、その販売活動を開始した。」
といったYはXの労力にフリーライドの事情があり,競合していますので,この点を指摘し評価していれば,不法行為の成立は認められるのかと思われます。

問1ー問3で使用する具体的事実をマーカーで引いてもらうとお分かりかと思いますが,ここでほとんど使い切っていると思います。この事実を摘示することも重要ですがこれらをしっかり評価することになrます。

問4 独占的通常利用権者の差止め及び損害賠償
 1 差止め(普通)
 下記の議論からもわるように,ライセンスは債権的な権利ですので,独占的ライセンシ―であれば差止めが可能かという点が議論になり,より重要なのは直接,著作権者の意思を考慮せずに可能かという点です。
 この点は債権である賃借権が物権化した民法とパラレルに論じてもらっても構いませんし,あくまで債権者代位の構成であると言ってもらっても構いませんし,色々な視点で論じれるかと思います。重要なのはあらゆる見解があることを前提に説得的に論じれるかかとは思います。
 なお近年は立法化の動きもあり,注目の論点といえるかと思われます。

 2 損害賠償(普通)
令和2年12月17日東京地判「投資用ソフトウェア」がありこれと認めています。
 認める立場からは,独占的利用権者は、市場において独占的に商品を販売することができる立場にあり、もし侵害者が現れれば、侵害者に奪われた需要の分だけ独占的利用権者の売上げが減少します。独占的利用権者は、本来得られたはずの利益について、侵害者に対して損害賠償を請求することができるでしょうか。もっとも,著作権者と利用権者との間の契約によって定めた条件にすぎず、第三者である侵害者を法的に拘束するものではありません。物権的効力を有し、契約関係にない者に対しても行使可能な利用権である出版権(著作権法79条1項)や同じ効力を有する特許法上の専用実施権(特許法77条1項)とは質的に異なります。
 裁判例において独占的利用許諾契約の成立に加え、独占的な「事実状態」まで求めるものと理解することもできることもあり,この点の要保護性の問題ととらえることができるかと思います(第三者の債権侵害の点を考慮し,侵害者の主観的要件の議論もあります)
 いかなる見解にたとうと上記2点を説得的に論述し,民法の視点等を併せて検討している答案であれば結論がどうあれ高評価と思われます。

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