令和4年 司法試験 知財 著作権

第1 著作権
 漫画家であるⅩとYは、甲を主人公とする漫画(以下「漫画α」という。 )を共同で制作した。 漫画αのストーリーの大筋は二人が話し合って決定し、 Ⅹが脚本形式の原稿を制作し、 Yが原稿を ネーム(注)に起こし、 Xと協議してネームを確定させた。漫画αの作画については、甲を含む人 物のイラストをⅩが、背景をYが担当して制作し、互いに意見を出し合いながら、適宜修正を加え つつ、完成させた。
 この事実から,漫画αは相互の創作性への寄与が認められ,寄与を分離して個別的に利用することができず,共有著作物,XとYは共有著作権をもつことになります。この点は問題あないかと思われます。また「美術の著作物」であることも確認しておきましょう。

問1 支分権該当性
 Bの行為を分割していきましょう
 大学Aの美術部に所属している学生Bは、
① 美術部の企画に係る学園祭用の展示物として、甲の模型(以下「模型β」という。 )を作成し、これを所有している。模型βは、漫画αに描かれた 甲の特徴を忠実に再現しつつ、衣装やポーズに独自の工夫を凝らして制作されたものである。
→ 本質的特徴を感得しつつ,新たに創作性を付与しているので「翻案」に該当し,二次的著作物として「美術」の著作物。翻案権侵害にあたります。

② 学園祭の間、美術部の展示室に設置され、一般の観覧に供された。
 次に,学園祭の間,美術部の展示室に設置されていることから「展示権」との関係を論ずることになりますが,「公衆」の定義を引用しつつ,支分権該当性を検討することになります。展示権侵害にあたります。

 なお,この点,模型の作成に関して,翻案に係る私的利用の検討が必要かと思われます(法四十七条の六 第1号,第三十条)「私的使用」といえるかは,趣旨を考慮すると,不特定多数の閲覧者を想定していますので、難しいかと思われます。また35条に関しても文化祭ですので不適用かと思われます。

③ Bへの模型βの譲渡

 ②の段階で複製物に変わっていますので,譲渡権の検討に入ることになりますが,Cは特定少数にあたり,譲渡権侵害の検討は必要になるかと思われます。同様にみなし侵害も検討することになりますが、「公衆」の点からこちらは権利侵害は認められないでしょう。

2 Cの行為

 同じくCの行為についても,二次的著作物について原著作者がどこまで権利を持つかという点に触れ,取得した行為と販売した行為についてそれぞれ検討を加えることになります

取得し、所持し、販売した行為については,みなし侵害(103条1項2号)と善意者の特例の検討が必要になるでしょう。併せて譲渡権侵害(こちらは消尽していないことに注意が必要です)の点も検討することになると思われます。

3 請求権

 いずれも著作権侵害が認められると思われますので、差し止め、損害賠償等を求めていくことになります。この点学生Bに関しては、既に差し止めの効力はなくなる可能性を踏まえ、将来的な差し止めの論点、損賠は損害の点が救済を得られにくいこと指摘すると合格点を超え、裁量点が加点されているかと思われます。

 一見この小問は簡単そうに見えますが、虫の目と鳥の目の両方が交錯して、著作権法の複雑な条文も引用することを踏まえると、実力が分かれやすい問題だったかと思います。ここを適切に処理できた方はほぼ合格点には達しているかと思われます。

第2 共有著作物の正当な理由

 65条3項には, 前二項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。とあり「正当な理由」が問題となります。この点,裁判例では比較衡量を行っています。考慮要素としては,著作物の種類・性質,著作物に対する社会的需要,作成時からの社会事情の変化,各共同著作者同士の関係,作成経緯,各共同著作者の貢献度,権利行使になります。

 よくわからなかった場合,問題文の事情を抽象化した言葉を規範で作文するという方法もあり,本問を知らない人も対応は可能だったかと思われます。問題文の事情を「評価」したうえであてはめてもらえれば,合格点には達するかと思われます。この問題は現場思考、百選を知っていた等で対処可能ですので、落としたくない問題かと思われます。

第3 漫画教室

 いわゆる音楽教室事件をモデルにしていると思われます。漫画教室は美術の学校等へ進学する方が予備校として通っていたりもするので,その点をイメージしながら解くと解きやすいかもしれません。
 Fは、民間の漫画教室を主宰する者であり、インターネット上に開設したホームページで教室の宣伝を行って受講生を募集し、有料で作画の指尊を行っている。 

Fは、漫画αの出版物を1冊購入し、そこから作画の練習に最適と思われるコマ絵を十数枚程度選び出してコピーし、当該コピーを用いてコマ絵を一つ一つスライドで映し出して、キャラクターや背景の描き方、構図、コマ割りなどの作画のポイントを詳細に説明し、また、コマ絵を4倍の大きさに拡大したコピーを受講生に配布し、コマ絵の模写を行わせ、生徒の模写の出来栄えを評価するなどしている。
(1) Fが漫画αのコマ絵のコピーを作成する行為、当該コピーを用いてコマ絵をスライドに映し出して受講生に見せる行為、漫画αのコマ絵の拡大コピーを受講生に配布する行為は、 

 まず,コマ絵の著作物性が重要になるでしょう。すなわち,漫画の著作物性はどこにあるかという点ですが,基本的にはコマ絵が「美術」の著作物として把握されます。したがって,これをコピーすれば複製権侵害,受講生に見せる行為は展示権侵害,拡大コピーは翻案権(「変形」権)侵害にあたるかと考えられます。

 なお消尽の可否は否定、35条第1項も否定ということになるかと思われます。


(2) Ⅹが、 Fに対して、 Fの主宰する漫画教室において、受講生に漫画αのコマ絵の模写を行わせることに関して差止めを請求する場合、 Xはどのような主張をすべきか。 Fはそれに対してどのような反論をすることが考えられるか。それぞれの主張の当否についても論じなさい。

 この点については,音楽教室と同様で,模写を行っているのは「生徒」になります。そのため著作権侵害の主体が異なるため,何らかの法的構成によって差止め(この「差止め」は許されるかという論点を想起してもらうため,あえて「差止め」のみ問われています)ことになります。論点としては有名な主体性の議論になります。

 もっとも慌てて論点に突入することなく,まずは生徒が模写している点が複製権侵害であることを指摘しましょう。もっとも生徒自身は私的利用といった点も指摘できます。じっさいは反論で用いるもよし(抗弁の援用)もできますが,主体性の議論で論じてもらってもよいと思います。

本件は,適法に購入した漫画から,生徒自身に購入させるのではなく,先生が示して生徒が模写するものであり,差止めとなる可能性はあります。

 実務的な視点をお持ちの方はこのあたりから、差止めとすることはいいが、いったいどのような差止めが可能なんや?の議論も展開できたことでしょう(どのような不作為義務を負わせればいいのか?、生徒の模写を特定区域内の漫画教室で禁ずるということか?営業時間で区切るのか?、実効性の担保は?等)。このあたりを考慮の上,損賠で終わらすか,差止めを認めるかといった点を論じてもらえれば,結論はいずれでもよいと思います。

 音楽教室では演奏権が「公衆」を要件としているため争点となりましたが、本件の模写は「複製」にあたるので、すんなり解答できるかと思います。

 なお,学校教育の点は一言触れてもいいと思いますが,反論としては厳しいので,あっさり認められないと2行程度で書くぐらいが良いかと思われます。


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