【知財法務入門 基礎からわかる知財② 知財と契約編①】

第1 知的財産と契約

 一般的な弁護士でも関わりが深い契約分野での知財について書いていこうと思います。知的財産契約には形式的には

1 知的財産本体を対象とする契約(共同開発契約,OSSライセンス,ライセンス契約,クロスライセンス等)

2 基本取引契約書の条項に知財条項を加える

という2タイプがあると考えられます。

1は特に知的財産を中心として動いている契約にあり,2は業務委託や秘密保持契約(NDA)等に付随して派生物,成果物が生じうる可能性がある場合に補足的に追加する場合が多いかなという実感があります。2に関しては国際取引で通常使用されている英文契約の方式を借用・追加していき現在の日本国内に伝播したのかと思われます(だから「ライセンス」という用語を使用するのが一般化したのかと思われます。M&Aやファイナンスの用語,契約も英文との近似性があります。)

 英文契約書では「Intellectual Property Rights(知的財産権)条項」となります。「Sales Contract」等一般的に知財と関係ないといったものにもこの条項が追加している場合があります。


第2 知的財産契約の種類

1 代表例

 1の代表的なものとしては,共同開発契約,ライセンス契約,クロスライセンス契約,ノウハウ契約といったものかなと思われます。これらの契約は複合する場合もあります。例えば,「共同開発契約」にノウハウ条項や秘密保持条項(NDA)条項が追加されていくといったものです。

 ここでは共同開発契約を取り上げようと思います。

2 共同開発契約

 ア 契約の背景,当事者

① メーカー同士がそれぞれの得意分野を相互補完する

② 一方が資金力(銀行,商社等)をもち,他方が技術力のみ持つ場合

です。

 イ 条項のポイント

 条項としては①開発段階を規律する条項,②開発後の成果物の帰属や配分の条項ほとんどで,主要なポイントは①開発コスト,期間,役割分担,②成果物の帰属です。

 ②に関しとりあえず公平に「共有」にするというやり方がありますが,デメリットも多いので,何らかの帰属を明確にする場合も多いです。例えば「一方に成果物を帰属させ,もう一方は無償独占通常実施権」といったことも考えられます。

 後者の場合はそれはそれで破産法やM&Aに波及する論点(当然対抗制度の導入によっても,この点は未だ論点になるかと思います)のリスクが存在しますので,難しいところです。

 前者の場合,「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」(特許法73条第2項)とあって,同意なく実施できるのですが,いざ特許出願となった場合,「共同名義」「出願費用」「年金(特許維持に係る費用をさします」といった点,権利侵害の執行のコストや通知をどうするかといった部分が問題となっていきます。

 さらに,特許のみならず,他の著作権,商標,意匠,実用新案も発生する場合もあり,その帰属も(概括的に)定める必要があります。

ウ その他

 その他に秘密保持条項,改良発明条項,解除・損賠条項も定められることが多いです。また,「ソフトウェア」の部分ではOSS(オープンソースソフトウェア)のGPLライセンス(巷では「GPLVirus」といわれますが,コンピュータウイルスではありません笑)にも留意する必要があります。

第3 ところで「契約書」は知的財産権の内容になるのか?

根本的に「契約書」自体著作権の対象にならないのか?という疑問が浮かぶ方は多いとは思います。

 こについて以下の裁判例の判断があります。

東京地裁昭和40年8月31日判決は、船荷証券の用紙について、「被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示にすぎないのであって、原告の意思はなんら表白されていないのである。従って、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない」と判示しています。

東京地裁昭和62年5月14日判決は、土地売買契約書の案文について、「『思想又は感情を創作的に表現したもの』であるとはいえない」と判示しています。

 「契約書」自体は著作物の対象にはならないと考えられます。(特許はそもそも「発明」該当性,商標も該当性がないといえるでしょう。不正競争防止法の営業秘密に関しては別論かと思います。)

第4 小括

 次回の「知的財産契約」として「ライセンス契約」を考えていきたいと思います。ライセンス契約も国内であれば基本的に主要な部分は変わりませんが,海外まで視点を広げると,現在のAI・ロボット技術の進展,米中貿易戦争・米中対立の余波から両国の安全保障制度(国防権限法2019,技術輸出入契約登記等)も関連してきますので奥が深いものと変貌しています。


 

 

 


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