おしゃれな東京ミッドタウン
サラリーマンをしていた頃、会社の事務所が、
できたての東京ミッドタウンにあった。
10年くらい前か。
テレビでも連日オープンのニュースをやっていて、僕もこの新しい複合オフィスビルを、お昼休みに歩いたりしていたが、とにかくこの最先端のビルディングはあらゆるものが高かった。
小指の爪くらいの大きさのチョコレートが一粒500円したり
アフターヌーンの紅茶が3400円したりしていた。
僕は「へっ、てやんでえ。気取りやがってよ」と思った。
誰も入ってない閑散としたおしゃれ服屋には、「選ばれた人だけが来ればようござんす」と言った風のすました顔の姉ちゃんが立っていて、アップルストアのようなシンプルな店内に並んでいた薄手のニットは10万円以上していた。
「いやだね~都会の真ん中で高級ぶっちゃってよ」
「お互い札束の褒めあいでもしてろよ、てやんでえ」
ってなもんで、僕はこの場所を毛嫌いした。
ある土曜日、休日出勤でこのお高くとまったビルディングに来た時、ビルの中庭のようなところで夏祭りをしていた。
「はいはい、一歩先行くおしゃれな夏祭りでも催してろよ」
と思って通り過ぎようとしたら、通りには打ち水がしてあった。
昔懐かしい出店でお面が並んだり、金魚すくいがあったり、地元のおっさんらしき人が飲み物をくばったりしていた。
僕が子どもの頃に見たような、神社の前のお祭りに比べれば、やけに小さくこぢんまりとした祭りで、東京ミッドタウンの敷地内だから床はおしゃれな石だし、周りは40階建てのビルで囲まれていたけど、
雰囲気はすごくよかった。
親に連れ添われた子どもが浴衣を着ていた。地元らしかった。お面とか綿菓子を前に目を輝かせていた。
まあ結論から言うと、東京ミッドタウンて、お高くとまってるどころか、地元に寄り添うビルディングだったんだよね。少なくともそうであろうと努めていた。何かの時期には、こぢんまりとしながらも、地元の人が楽しめそうな催し物を開いていた。
そうだよな。俺にとってはオフィス街でも、この辺に住んでる人もいるんよなと思ったりした。
むしろ僕の方こそが招かれざる客のような気がした。
自分の偏見と、ある意味での差別をしていることを感じた瞬間だった。
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