炭水化物の二重奏
「今日はキックベースやろうぜ」
その誘いは魅力的だった。
キックベースは、簡単に言ってしまうと野球とサッカーが合わさった遊びだ、
少年たちの好きなスポーツが合体しているなんて、なんて夢のある話だろう。
いつもなら、人数が少なく、「3対3」などになってしまう。
だが、今日は「7対7」ができるほど集まるのだという。
下校中は、ずっとニヤニヤとだらしない顔をしていたと思う。
「ただいまーー!」
「なんか元気だね、おかえり」
この日も、すでに母は料理の最中だった。
台所から、焼きそばのスパイシーな香りが鼻をついてきた。
しかし、いつもよりかすかに香りが弱い。
その理由を確かめるべく台所に向かう。
すると、母は焼きそばと米を同じフライパンで一緒に炒めているではないか。
「そばめしって言うんやわ」
母は手早く丸い皿に盛り付ける。
皿と麦茶をお盆に乗せ、居間に向かう道中で考察する。
そばめし、か。
理屈はわかる。
たしかにソース焼きそばをおかずにして白ご飯を食べるのは好きだ。
しかし、何でも一緒にしてしまえばいいというわけではない。
たとえば、麺が残っているラーメンに、白いご飯を入れると足を引っ張り合う。
麺をすするときにご飯粒が付随してきて、麺のチュルチュル感と米のツブツブ感が合わさり、食感がよいとは言えなかった。
居間につき、ちゃぶ台の上に乗せて観察する。
米と麺の割合は2:1といったところか。
この配合率もおいしさに関係してくるであろう。
麺はベビースターラーメンのように短めに切ってある。
「やきそばと白ご飯を混ぜれば、絶対うまいやろww」という安易な考えではないようだ。
米はソースによって茶色に染まっている。
色だけでなく、香辛料の効いたスパイシーな香気もしっかり身につけていた。
この匂いをかくだけで、食欲は5倍ほど増進する。
具は肉とキャベツ。麺と同様細切れになっている。
スプーンですくいあげると、湯気がモワァっと立ち上がった。
口に含むと、まずはアッツアツの熱量を感じる。
やがてソースの甘辛い味が広がり、米のパリパリ感と麺のモチモチ感の違いを楽しむことができる。
そもそも、男子という生き物は炭水化物が好きだ。
焼肉の時、白いご飯は外せない。
給食では、女子から食パンをもらって5~6枚は食べていた。(女子のみんな、アリガトウッッ)
だから「やきそばもライスも、一緒にしてしまえばえーやん」というこのそばめしは、歓迎されるものだった、
僕は何かにとりつかれたかのように食べ続けた。
母が作ったそばめしは、ソースの絡み具合にムラがあった。
だがその濃淡の差異を感じながら食べるのも一興だった。
米、麺、肉、キャベツという単純な組み合わせでも、飽きない。
「そういえば、これを入れるのもおいしいんだってさ」
そういって母が持ってきたのは、生玉子だった。
ソースが濃くなっている部分に割り入れ、黄身をつぶす。
全体にかき混ぜるのではなく、部分的にかき混ぜることで「たまごエリア」を作る。
左手で皿を持ち、皿のふちに口をつけ、スプーンを使って流し込む。
口中がたまご付きのそばめしでいっぱいになったら、下あごをユックリ動かす。
噛むたびに、甘辛いソースと黄身のまろやかな味が混ざり合っていく。
一気に食べ終えると、やっとそこで麦茶を飲んだ。
口に残ったアブラを麦茶によって洗い流し、新メニューの活躍に満足した。
快晴の下、キックベース大会は開催された。
無論、全打席フルスイング。
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