香りという名の調味料
ダッシュで帰宅した。
1時間かかる道のりをダッシュで帰宅した。
学校付近で昼間っから焼肉をしている家があり、その香りに食欲を刺激されたからだ。
「ただいまッ」
「おかえり~」
スゲー偶然!ウチのお昼も焼肉じゃん!
といった奇跡は起こらなかった。
しかし、台所にはあのにおいが充満していた。
焼肉にも決して劣らぬ、焼きそばのソースの芳香である。
仕事の都合で、父が先に焼きそばを食べていたのだ。
僕も調理を手伝った。
焼きそばの調理は大好きなのだ。
我が家の主流は、カップ焼きそばではなく、袋麺タイプのものだった。
一口大にして切ったキャベツ、豚バラ肉を先にフライパンで炒めておく。
味つけは、塩コショウのみである。
次にフライパンで湯を沸かし、麺を投入する。麺がどんどん湯を吸収していく様子が好きだった。
「しっかり吸水して、うまい焼そばになれよ」
と語りかけておく。
湯がなくなってきたら、粉末のソースを入れる。
カップタイプのソースは液体だが、袋麺のものはなぜか粉末だった。
粉末ソースを投下するときは、十分に気を配る必要がある。
いい加減に袋を切って入れると、一ヵ所にドバっと固まってしまい味に偏りが生じる。
切り口は小さめにして、パラパラパラっと全体にふりかけるのが望ましい。
このあたりでソースのスパイシーな香気が鼻腔を走り抜け、食欲をあおる。
さきほど焼いておいた野菜と肉を加え、混ぜたら完成だ。
焼きそばは主食でもあり、おかずでもある。白ご飯の準備も忘れない。
焼そばを注意深く観察し、具材が無く麺だけになっているところに箸を突っ込む。
箸で持ち上げ、冷ますためにフーフーと2回だけ息を吹きかけると一気にすすった。
アツいっ。
そして、香辛料に効いた辛みが口の中で暴れる。
作りたての熱量とスパイシーな味に襲われ、食欲を抑えることはできない。
具の豚バラは、子どもが一口で食べるのが難しいほど大きい。
脂身が申し分なくついており、それだけでご飯のおかずになりそうだ。
純白だったキャベツはソースが付着し、少し茶色がかっていた。豚から出た脂のせいだろうか、テラテラと光っている。
豚肉とキャベツが密集した部分に箸を入れ、少量の麺を巻き込んで口に含み、追いかけるようにしてご飯もかきこむ。
口においてはおかずと白米が入れ混じり、鼻においては皿から漂う香りと自分の口中から通じていく香りが二重奏を演じる。
こうなったらもう電話が鳴ろうが、テレビがおもしろかろうが、食べ終わるまでノンストップだった。
食後、友人の家に遊びに行くと、
「焼きそば食べてきただろ!」
と言われた。
昼食に焼きそばを食べると、その日はずっとスパイシーな口臭を発してしまうのが難点だ・・・・・・。
出版を目指しています! 夢の実現のために、いただいたお金は、良記事を書くための書籍の購入に充てます😆😆