仮定

例えば、この鏡の中に入れて、鏡の中の自分と干渉せずに入れ替われるとする。入ったらきっと、左右が逆のきみが居て、声とかは普通だとして、で、ぼくは普通にあいさつするよね。そうすると、同時に、こっちの君はきっと鏡から出てきた反対のぼくにあいさつをされていて、だからきみにとってはたぶんちょっと不気味で、でもぼくの方は鏡の中のきみに会っているからこっちはこっちで不気味だと思うんだ。それで、わあ本当に鏡の中の世界に入れた、対象のぼくがふたり同時に発声する。ぼくはきみに、ねえこっちは右?こっちは左?という風に訊く。こっちのきみは対象のぼくにまったく同じことをまったく同じタイミングで訊かれている。こっちのぼくらにとっての右はあっちのぼくらにとって左だし、あっちのぼくらにとっての右はこっちのぼくらにとっての左だ。だから、状況はやっぱり完全に一致するんだ。そんなことをしばらくやっていると、やっぱりだんだんとこわくなってきて、じゃあぼくはもう戻るね、ということになる。まったく同じタイミングでこわがって、まったく同じタイミングで鏡の中へと戻る。そして、どうだった?ときみに訊かれる。いやあおもしろかったよ、でもちょっとこわかったな…とどちらの世界のぼくも同じことを返している。これはすごく完璧で、美しいことだなと思った。


https://skeb.jp/@CaptainAyakashi/works/3

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