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About

――いつ止むとも知れない雨足から逃れるように、一つ、また一つと人影が灰色のビルへと吸い込まれていく。

たまたま傍を通りかかっても、この所有者不明の建造物で――内部は幾度も改造を重ねられている――何が行われているのか、思い及ぶことは無いだろう。毎週末の夜、ここで人々はひしめき合い、音と光のうねりの中へと吞み込まれる。この建物こそ、『GHOSTCLUB』――"囁かれた"者達の集まる場所だ。

ばしゃばしゃと道路の水たまりを跳ねさせ、二つの人影が建物の入り口に駆け込んだ。

「――ここって、いつも雨降ってる気がする」
雨合羽のフードを外して、一人が声をかけた。
「そういう地域なんじゃない」
裾の水滴を手で払いながら、もう一人が答えた。
「まぁ、そうなんだろうけどさあ」
「いいんじゃないの?風情があって」
「雨は好きだけど、たまには晴れたりしないのかなって――ちょっと思っただけだよ」

二人は入り口近くの階段に腰を掛け、開場時間を確認する。階段からは中庭の様子が少し見えて、その回廊には"囁かれた"人々が集まっていた――二人と同じように。

「毎回どこから集まって来るんだろうね。こんなにたくさん」
「きっと、みんなそう思ってるよ」

くすくすと笑い合う二人の声が、止まない雨と混ざり合い、湿った空気に溶けていった。




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