小説を書くことー8(B)

その5(B)を書いたときにー続かないーと書いたのですが、読者のほうに混乱を与える可能性があるので、もう少し書くようにいたします。

ー続きーです。

息苦しさを感じ、僕は顔をあげました。口の周りが砂で覆われ、額にも砂がこびりついていました。それからブランコの踏み台が戻ってきて、慌てて、頭を引っ込めたのですが、こめかみの横にこつんと当たってしまいました。

踏み台は固いプラスティック製だったので、それほどのショックはなかったのですが、手を当てると少し出血をしていました。

どうやら僕はブランコの下に倒れていたようです。瞬間的に孫娘は大丈夫か、と思ったのですが、僕は、孫娘と一緒に遊んでいた記憶がありません。

なんで、俺はこんな所に居るのだろうか?まったく心あたりがありません。それに此処はどこなのか?という根本的な問題出てきました。

妻に電話をして聞くにも状況が全く分かりません。なぜブランコが置いてある砂場で倒れているのか?

とりあえずスマホで妻に連絡を取るべき、ポケットを探ったのですが、ポケットの中は空っぽでした。別のポケットには鍵だけです。倒れている間に盗まれたのか、と思いましたが、後ろポケットに入っていた財布は無事なので、またもや混乱です。

辺りには人影はなく、僕はともかく小道を外れないように下っていきました。頭の傷はかすり傷程度ですが、手で拭って血痕を目立たないようにしました。

しばらく歩いていくと若いカップルに出会い、僕はここはどこ?とドイツ語で聞きました。男は少しひるんだような感じで、黙っていて、女性はラッティンゲンの森です、と返答してくれました。僕がなぜ、ラッティンゲンの森に居るのか、聞こうとしたのですが、知り合いでもないカップルに聞いてもわかるはずがないと思い、口を閉じました。

僕が道に迷ってと言うと、若い女性は僕の額の血を見たので、転んでしまいました、と面白くもないのに少し笑って(愛想笑いのつもりです)そのカップルの警戒心を解くように努めました。その時の気分は、なんだかゾンビにでもなったような気分。

平日の昼過ぎ、森はシーンとした静寂に包まれていました。

ここをまっすぐ行くと駅に出ますから、と女性に言われ、僕はそのまま歩き続けました。ラッティンゲンの森まで来た覚えがないので、僕は夢遊病者のように電車に乗り、夢遊病者のようにブランコから落ちて、かすり傷を負い、今デュッセルドルフに戻ろうとしているのか?

いよいよ、70を超えてしまった俺にも徘徊が始まったのか、という不気味な気持ちを僕自身に持ち始めました。もしかしたら帰る家がわからなくなっているかもしれない、と危惧しましたが、番地を憶えているし、電話番号も覚えていました。

僕の家は市電停留所のすぐそばにあり、家に帰ると妻がテレビの前に座ってした。妻はお帰り、と言って私をほうを振り返って、すぐにテレビに戻ります。話しかけようとすると妻は、シーと言って今ニュースをやっているから、と言って私をさえぎります。妻はニュースフリークなのです。昼からテレビを見たりするのを私は嫌っているので、いつもワイアレスのヘッドフォーンを使用してもらっているようにしています。

何が起きたのか、聞こうとしたのですが、テレビのニュースを見ながら、テレビに向かって、ちゃちを入れたり、アナウンサーに話しかけたりしている妻を見ると、もう聞く気がなくなってしまいました。

どうせなら、番地も電話番後もすべて忘れて、妻も忘れていたということが起きていればよかったなあ、と思いました。

                          ーいつか続くー

すみません、読者のほうにもっと混乱を与えたかもしれませんね。

ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。