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きょう一日、ずっとこのことばかり考えていた。

いつもは家で仕事をすることが多いが、今日はオフィスに出勤する日だった。

バス停でみた朝日がきれいで、ほかに並んでいる人たちの人目も気にせず写真をとる。駅に着くと、またたく間に人の群れの一員となり、ホームまで足を進める。通勤ラッシュど真ん中とはいかないまでも、電車は座れないくらいには混んでいた。わたしは体幹がまったくないので、車両が動き出すとすぐに、つり革へ力強く掴まった。

1時間かけてようやくオフィスに着くと、朝礼を済ませ、今日のメインイベントとなる新人さんへの業務レクチャーを始める。パソコンのデスクトップを指さしながら、まずはこの部分を選択してもらって、そしたらCtrlキーとCを押してコピーをして、次はCtrlとVでペーストして、などと教えた。お昼は、新人さんと一緒に、カフェで「ホットサンドとコーヒー」を注文する。それらができるまでの間に、女性の店員さんがフランスパンの試食を持ってきてくれた。小皿に入ったオリーブオイル付きだ。一口サイズにちぎり、オイルをくぐらせ、口に運ぶ。6回ほど繰り返すと、パンは跡形もなくなくなってしまった。結局、お金を出して買ったホットサンドよりも、試食で出された”あのパン”のほうが美味しかったのは、ここだけの秘密にしてほしい。

さっき買ったコーヒーの蓋をあけて、午後の会議に備える。2時間ほどのミーティングが終わると、再び新人さんに仕事を教え、やがて彼女を見送り、わたしも帰宅時間を迎えた。電車で音が鳴らないよう、キーボードのFnキーとF2キーを押して消音にし、そのままパタリと音をさせて、ノートパソコン閉じた。

こんなにも平和な今日の日に、わたしは事あるごとに、こう思っていた。

ああ、爪を切りたいなあ。

女性という特権を言い訳にするのも、そろそろ限界にきそうなくらい、爪が伸びていたのだ。長さで言うと、ちょうど「 ❘ 」、これくらいに達している。

バス停でみた朝日の写真を撮ったときも、電車のつり革を掴んだときも、パンをちぎっていたときも、視界に爪が入るたびに、爪切りを欲した。帰ったら絶対ーー。

あなたがこのnoteを読んでいる頃には、わたしはきっと爪を切り終わっていることでしょう。

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