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はじめてできた年下の先輩が、あなたでよかった。

「ずっと思ったことなんですけど、目が綺麗ですよね」

告白されたのかと思った。

「はじめて会ったときから思ってたけど、会うのは今日が最後だから伝えようと思って……。ごめんなさい、気持ち悪いと思われるだろうから、言わないようにしていたんです」

そう言ってくれたのは、会社で出会った”年下の先輩”だった。よくしゃべり、声が大きく、てきぱきと動く。社内のみんな彼女を頼りにしているように見えた。

部署がおなじで、電車の経路もおなじだったわたしたちは、何度か一緒に帰っていた。自分より年上だからと「わたしのこと、ちゃん付けで呼んでいいですよ」と言い、わたしに対してタメ口を使ってしまったときには、必ずごめんなさいと言ってくれる子だ。わたしより、入社したのは8か月くらい前で、”先輩”のはずなのに、かわいがりたくなる人懐っこさがある。そんな子が、昨日で会社をやめた。最後のあいさつをするまで、エレベーターホールで待っていた。すると、お見送りをするために、会社の人たちが見送りにでてくる。彼女が培ってきた信頼を、目撃したような気分になる。

そんな彼女を乗せたエレベーターの閉ボタンを押す。なんだか重大な責任を感じ、素早く閉めてしまった。いつもはノロいのに、なんでこんなときだけ。まったくもう。

ほかの社員がそうであるように、わたしも例にもれず、彼女を信頼していた。入社する前は、年下の先輩なんて、絶対いやだと思っていたのに。

転職をするとき、リクルートエージェントの人にもこう聞いた。「未経験の業界に入社すると、自分より年下のひとが上司になることもあるんですよね」。ありますね、という答えに対して、わたしは小さい声で返事をした。それくらいに、気にしていた。

だけど、彼女は違っていた。入社前、そんな心配をしていることすら、全く覚えていなかったほどである。

そして昨日、最後の電車のなかで、彼女はわたしへ打ち明けるように「目が綺麗だ」と言ってくれたのだ。

その返事として、わたしが伝えるべきは「はじめてできた年下の先輩が、あなたでよかった」ということだった。肌の透明感への褒め言葉よりももっと、伝えるべきことがあったじゃないか。

その子が辞めてしまった今、本人に言えることは叶わない。だからせめて、祈ることにしよう。

彼女が新しい場所でも、どうか健やかに活躍できますように。

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