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投手の球の「キレ」とはいったいなにか

はじめに

私は北海道教育大学旭川校で、専門である教職と野球について学んでいます。このnoteは普段考えたことや感じたことをアウトプットするために、またそれらが誰かの役に立つことが少しでもあれば共有したいと思い、書いています。試行錯誤しながら、続いていければいいなと思います。

ちょっと近況報告

前のnoteから約1年半が経ち、ずいぶん間が空いてしまいました。少し近況をお話しすると、このたび筑波大学大学院に合格させていただきました!入学後はスポーツの意思決定とリスクの関係について研究を進めていきたいと考えています。まずは卒論を充実させることに重点を置き、知見をさらに深めていければと思います。

そもそも球の「キレ」とは、かなり曖昧な表現

本題の「キレ」についてですが、野球においてよく「キレのあるストレート」「キレのある変化球」といったような、球の質を表す表現が見られます。

僕らピッチャーから見ると、バッターに錯覚を起こさせるということが”キレ”とか”伸び”とかに繋がると思います。

https://post.tv-asahi.co.jp/post-79699/


私の考える変化球の「キレ」の正体とは、いかにストレートに近いフォームで変化球を投げているかどうかなのです。

https://www.yakyutotaiwan.com/kire-syoutai#:~:text=%E5%A4%89%E5%8C%96%E7%90%83%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%80%8C,%E3%80%8D%E3%80%81%E3%80%8C%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%89%E3%80%8D


指導者や選手によってキレに対する感覚は様々ですが、キレのあるボールは一つの投手の武器として存在していることに間違いはないと思います。

キレに関する研究を見てみると、

まず永見と矢内(2015)が行ったストレートのキレに関する研究では、「投球の左右方向への変化が小さいほどキレの評価が高く、左右方向への変化の大きさでキレを55%説明できた」と報告しています。つまりスライドもシュートもしない真っ直ぐなボールほどキレがあると評価されやすい結果になりました。

では変化球はどうか。捕手のキレの評価とボールの運動学的特徴からキレの定量化を試みた中島ら(2022)の研究から得られた結果は以下の通りです。

・「カーブでは大学生において、投球速度が大きく、且つドロップ方向に大きく変化するボールほど、キレがあると評価された。一方高校生においては、投球速度に関わらず、ドロップ方向及びスライド方向に大きく変化するボールほど、キレがあると評価された。」
・「スライダー・チェンジアップでは、高校生、大学生ともにキレの評価と運動学的な変数との間に有意な相関関係はなく、キレを定量化することはできなかった。」
・「カットボールでは大学生において、投球速度が大きいほど、キレがあると評価された。」

つまり、同じ球種でも競技レベルや人それぞれによってキレの評価が異なり、やはり曖昧なものに思えます。

変化球の「キレ」は、レベルによって変化するもの

曖昧な中でも一つわかりそうなこととしては、「変化球のキレは競技レベルによって特徴が異なる」ということです。

まず高校レベルにおいては、ボールの変化が大きいことそのものがキレの評価に影響を与えていると考えます。これには2つ理由があります。

1つ目は、上述の実験から、高校レベルにおけるカーブが、投球速度に関わらずドロップ方向への変化量、つまり大きく曲がれば曲がるほどキレがあると評価されたからです。

2つ目は、これも上述の実験から、カットボールが大学レベルでは投球速度が大きいほどキレがあると評価されたのに対し、高校レベルでは評価されなかったからです。どういうことかというと、カットボールは、主にストレートと似たような軌道からわずかに曲がる変化球とされており、したがって変化量はあまり大きくありません。高校レベルでのキレの評価に変化量が大きく影響するならば、カットボールのような小さく曲がる変化球が評価されないことを説明できます。

続いて大学レベルにおいては、ストレートと似ていることがキレの評価に影響していると考えます。
実験では、カーブとカットボールで投球速度が大きいほどキレがあると評価されていました。最初に紹介した元中日エースの川上憲伸さんのコメントにも「バッターに錯覚させることがキレに繋がると思う」とあります。おそらくただ変化量が大きいだけでは、それに対応するだけの打撃スキルが高いレベルでは備わっているからだと伺えます。

さまざまな「キレ」の生み出し方

これまでを簡単にまとめるならば、高校レベルではバットに当てられないような大きく曲がる変化球を、大学レベルでは対応の難しいストレートに似たような投球速度・軌道の変化球を投手は習得すべきと考えられます。

しかし今気が付いたのですが、ここまでの話は常にその球種単体でみたときの話であって、相互作用は考えられていません。(ストレートがあるから変化球が活かされ、変化球があるからストレートが活かされ、変化球があるから別な変化球が活かされます!)

つまり相互作用によって、単体ではキレのないボールでも、キレを生み出すことができると思います。私自身、ストレートのキレを出すためにカーブは緩く投げたり、もともとシュート成分の多いストレートに対してスライダーはスライド成分を多くするように意識していました。

ほかにもプレートを踏む位置や腕の角度など、同じ球種でもキレを生み出す要素は球そのもの以外にも考えられると思います。

まとめ

つまりは人の心の中で起こるギャップ(gap:相違、不一致)なのかなと思います。競技レベルによって「こんなに曲がるのか!」という変化量のギャップや、「ストレートだと思っていたのに違った!」という投球速度・軌道のギャップがあり、これこそがキレの正体なのではないでしょうか。ギャップが起こるなら、ボールがどんな軌道でどんな速度だったとしても、それはキレとして投手の武器になるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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