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彼女と別れた日

関係していた女性と別れた。

彼女とはどのくらいになったんだろう?
15年くらいだったかな?

初めて出会ったのは、
僕たちで企画したクラフト系の人たち向けのとあるツアーに
彼女が参加して来た時だった。

7月初めのよく晴れた日の朝
海沿いののとある田舎のさびれた駅に集合した
参加者たちの中に彼女がいた。

派手さのない落ち着いたメイク、
いかにも「山やってます!」といういで立ち。
目立ってかわいいとか美人とかではなかったけど
一目見たそのときに
「このひととはそういう仲になるな」
と確信めいたものが心に浮かんだことを覚えてる。

ツアーも終えて散り散りに分かれた参加者たちだったが
彼女と僕とは住んでいた街が近かったこともあって
何度かメールなどのやり取りをして
その年の暮れにはそういう仲になった。

それから15年。
長い歳月だけど会った回数はそれほどでもなかった。

彼女の中に
「めちゃくちゃにしてほしい」
「何もかも見失うくらい溺れたい」
「ほんとの自分を掘り起こしてほしい」
みたいなモノが見え隠れしていた。

けどうまく引き出してあげられなかった。
なんというか、自分が望んでいる割には
どうにも彼女は受け身で
僕としてはいまいち押し切れないところがあった。

例えば彼女は舐めるのも舐められるのも嫌いだった。
恥ずかしいとかじゃなくて不潔だと考えているようだった。

「不潔かも」っていう考えは燃え盛る情念に水を差す。
そんな煮え切らない行為が何回か続いて
僕も本来の積極性を出せなくなってしまっていた。

彼女とお酒を飲むのは楽しかった。
彼女は山登りが好きで、僕は全く登らないのだけど
彼女の山の話を聞くのは好きだった。

本を読むのも好きな子で
身の回りにそういう人が少ない僕としては
貴重な話し相手だった。

彼女はファザコンだった。
彼女のお父さんは彼女が中学生の時に
日本の交通史上まれにみる大事故に巻き込まれて
亡くなっていた。

僕は物覚えが悪い方で
結婚記念日なんか全然覚えられず
毎年のように怒られていたような人間だけど
(結婚記念日は結局離婚に至っても覚えられなかった)
その事故のことは鮮明に覚えている。

その時僕は高校生で夏休みだった。
朝からすごく暑い日で宿題をやる気にもならず
テレビの高校野球をつけながら
見るともなくだらだらしていた。

突然緊急ニュースが流れて
テレビはその事故一色になった。
大勢の人が死んだ。
彼女のお父さんはその中の一人だった。

彼女の部屋で飲んでいるとき
よく彼女の中の父親の不在を感じた。
父親に向かう時の彼女は13歳の女の子のままだった。

結局ぼくは受け止めてあげることも
代わりになってあげることもできなかった。

「お付き合いを始めた男性がいます」

彼女はそういったけど、ほんとかな?
でも僕と終わりにしたいということは
この数か月なんとなく感じていたことだった。

たぶん一人じゃダメな子なんだけどな
元気で幸せでいてほしいな。


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