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最優秀中継ぎ・平良海馬が先発志願。セイバーメトリシャンはなぜ転向を推奨する?

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平良の先発転向、是か非か


 昨年の契約更改において、平良海馬(西武)が先発への転向を直訴したことが話題となった。平良の先発への思いは相当なもので、先発調整を優先するためにWBCへの選出を諦めるほど。結果的に平良の直訴は実り、今春も先発調整を続けている。

 この転向については球界でも意見が分かれている。昨年末に行われたCSフジテレビONE『プロ野球ニュース2022』でも、このテーマについて議論が行われた。高木豊氏は「先発転向でもある程度勝てるのでは」と肯定的。一方で、齊藤明雄氏は「(先発に転向することで)160キロ(の良さ)を消してしまうんじゃないか」とコメント。岩本勉氏も「リリーフ投手の方がもっともっと彼の良さが出る。160キロをあれだけ連続してパワーピッチできる投手が何人いますかという話。その持ち味をまだ殺さなくていいんじゃないでしょうかということ」と、先発転向にややネガティブな反応だったようだ。
 
 プロ野球ファンの声はどうだろうか。先週DELTAのTwitterで行ったアンケート結果では、賛成が約8割、反対が約2割とやや賛成が優勢だった(賛成、反対ともに、どちらかというとも含む)。

 このアンケートでは賛成・反対と同時に、その理由についても意見を募った。さまざま寄せられたが、賛成の理由としては「本人の意思を尊重すべき」、「本人が希望しているから」という意見が目立った。契約更改時の交渉の様子も数多く報道されたこともあるせいか、平良の気持ちに寄り添う意見が多かったように感じる。

セイバーメトリクスは先発転向をどう考える?

 ではセイバーメトリクスに精通したアナリスト、セイバーメトリシャンはどのように考えるのだろうか。結論から述べると、先発への転向は推奨される。そしてこれは本人が希望する・しないにかかわらずである。全員が全員ではないだろうが、ほとんどのセイバーメトリシャンはこうした先発転向を推奨するはずだ。それは先発転向を容易に考えているからというよりは、救援投手の限界を知っているからである。

 総合指標WAR(Wins Above Replacement)の評価において、救援に対する先発の優位は決定的だ。昨季先発でトップだった山本由伸(オリックス)のWARが7.9だったのに対し、救援トップ伊勢大夢(DeNA)のWARはわずか2.3。先発には遠く及んでいない。

2022年先発WARトップ5
投手 WAR
山本(B) 7.9
佐々木朗(M) 6.1
戸郷(M) 5.1
青柳(T) 5.0
千賀(H) 4.9

2022年救援WARトップ5
投手 WAR
伊勢(DB) 2.3
モイネロ(H) 2.2
平良(L) 2.1
湯浅(T) 2.0
マルティネス(D) 1.7

 またこれはこの年の救援が伸び悩んだという話ではない。あの歴史的な活躍でMVPを獲得した2017年のデニス・サファテ(ソフトバンク)でさえ、WARは3.3。絶対的に投げる量が少ない救援投手のWARはどうしても伸びない。ピタゴラス勝率の発明により、チーム勝率の約9割は得失点差で説明できることがわかっている[1]。ならば失点をできるだけ多く減らすために多くのイニングを投げるのが合理的というわけだ。

 しかしならば優れた投手は全員に先発をさせるべきということだろうか。一般的に投手にはそれぞれに適性があると考えられている。救援向きの投手にまで先発をさせるべきなのか。適性を考慮したうえで起用すべきなのではないだろうか。

 これについてセイバーメトリシャンの多くは、先発向きか、救援向きかという適性についてまず疑いを持っている。どういうことだろうか。

 図1を見てほしい。これは投手の適性についての認識を表した図である。まず左の一般的な認識から見ていこう。投手は大きく先発向き、救援向きに二分される。そしてその適性にあった起用を行うべきという考えだ。これが球界のスタンダードではないだろうか。

 これに対して図1の右に示したのがセイバーメトリシャンの認識だ。セイバーメトリシャンの多くは適性を二分して考えない。先発向き、救援向きではなく、あるのは先発向きかそれ以外か。つまり救援向きの投手は存在せず、先発向きの投手はそれ以外の役割もこなすことができると考えるのだ。

 どうしてこのように考えられるのだろうか。

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