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フェデリコ・テシオの配合理論は現代のサラブレッドでは通用しない!?


―もくじ―
・はじめに
・ネアルコが遺したもの
・リボーが遺したもの
・フェデリコ・テシオの配合論を日本に伝え、実践した人物
・自然の生体リズムを利用した配合論
・その配合論が通用しない二つの要因


はじめに

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イタリアの馬産家フェデリコ・テシオ。

彼は、「ドルメロの魔術師」という異名を持ち、当時競馬が始まったばかりのイタリアで、しかも年間僅か10数頭程度の生産馬からネアルコ、リボー等の世界的名馬を生産した。

現在のサラブレッドの血統に内在する重要な祖となる歴史的名馬を生産した輝かしい経歴を持っている。


ネアルコが遺したもの

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生産馬の1頭のネアルコは、少し昔から現在にかけて日本に多大な影響を与えているナスルーラ、ニアークティック、ロイヤルチャージャーという3頭の名種牡馬を送り出した。

イギリスではナスルーラを通じて底力血統のネヴァーベンド(世紀の名馬ミルリーフが出て、その系統のプレイヴェストローマンやマグニチュードが日本に来た)、

短距離の王者グレイソヴリン、中距離のプリンスリーギフト(産駒テスコボーイは日本に来て数多くの活躍馬を出した)、レッドゴッド等を輩出した。

レッドゴッドはブラシッググルームを出し、そこからレインボウクエストやナシュワンと続いた。

カナダでは底力のあるニアークティックから万能型のノーザンダンサーを経て英三冠馬ニジンスキー、短中距離の王者ダンジグ、中長距離で底力血統のサドラーズウェルズ等を輩出し、日本にはノーザンテーストがやって来た。

アメリカではナスルーラからボールドルーラー、そしてセクレタリアトヘ。

短中距離のロイヤルチャージャーを通じ、短中距離のターントゥから、ファーストランディング、リヴァリッジの系統へ。

またターントゥから仕上がり早のヘイルトゥリーズンへ、そして中長距離のロベルトを経て中・長距離で晩成型のリアルシャダイや中長距離・底力血統のブライアンズタイムの系統へ。

もう一つの系統はヘイルトゥリーズンから仕上がり早で万能型のヘイローを経て、万能型でスピードも底力も兼ねたサンデーサイレンスへと続き、サンデーサイレンスは日本の競馬を一挙に世界レベルに引き上げたのである。


リボーが遺したもの

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さらに、もう1頭の生産馬のリボーについて。

リボーがデビューしたのは、テシオが亡くなった2カ月後である。

よって、本馬の活躍をテシオは見ることができなかった。

リボーはイタリア、イギリス、フランスで走り、16戦全勝、ほとんど楽勝であった。

イタリア二歳チャンピオン、ヨーロッパ三歳チャンピオン、フランス古馬チャンピオン、ヨーロッパ年度代表馬2回。二十世紀最強馬と言われている。

おそらくリボーこそが、フェデリコ・テシオの最良の生産馬であっただろう。

わが国では、リボー産駒のマロット(20戦7勝)が、有馬記念勝ち馬のイシノヒカルとイシノアラシを輩出した。

また、リボーからグロースターク、ジムフレンチを経たバンブーアトラスがダービーを制覇し、バンブーアトラス産駒のバンブービギンが菊花賞を制覇した。

そして何より種牡馬ブライアンズタイムの母の父グロースタークは、極めつけのリボー産駒である。

三冠馬ナリタブライアン、マヤノトップガン(菊花賞・有馬記念・天皇賞春)、サニーブライアン(皐月賞、ダービー)、シルクジャスティス(有馬記念)、タニノギムレット(ダービー)、ファレノプシス(桜花賞、秋華賞、エリザベス女王杯)、シルクプリマドンナ(オークス)等には、そのリボーの血が流れている。

現在のサラブレッドの血統に内在する重要な祖となる歴史的名馬2頭を生産したばかりでなく、テシオの馬はミラノ大賞典(日本の有馬記念に相当)を22勝した。

そして、伊ダービーは22勝、伊オークスは11勝、伊セントレジャーは18勝、フランスの凱旋門賞はリボーで2勝を挙げている。

これらの輝かしい実績から、テシオが当時の馬産では他とは全く違うノウハウで馬造りをしてきたことは明らかである。

暑い場所と涼しい場所の2つを用いた育成理論は、当時実践している者はなかなかいなかったようで、彼の生産馬の活躍に大きく影響していると考えられているが、私達にそれ以上に大きな衝撃を与えたのは、彼の配合論であったと思う。


フェデリコ・テシオの配合論を日本に伝え、実践した人物

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そして、その配合理論を日本に伝えた人物がいる。

中島国治である。

彼はイタリアに留学中(音楽留学)だった頃に、テシオのサラブレッド血統配合の真髄に触れ、帰国後、独自に構築した血統理論を完成し、日本の生産界に絶大な影響力をもつに至った。

馬券収支でオペラのコンサートを開催したことは知る人ぞ知る逸話である。

平成5年に出版した『血とコンプレックス』(小社刊)は競馬ファンはもとより競馬に携わる多くのプロの人たちに衝撃を与えるとともに、血統についての考え方に多大な影響を及ぼした。

そして、その10年後に改訂版の『サラブレッド0の理論―人間の予想を裏切る「血と本能」の秘密』が世に送り出され、こちらも多くの生産者や競馬ファンに影響を与えた。

今回、お伝えしたいことは、この配合理論が今なお実践して有効なノウハウとではなくなってしまっている可能性があるということである。

馬選びの際に、私は馬体を重視していることをこれまで何度もTwitter内、および本note内にて発信してきているが、血統ももちろん無視できないものだ。

そして、サラブレッドを生産するうえでは、血統は何より重要だと考える。

人間の思い通りに理想的なサラブレッドを生産することは非常に難しいことだが、配合面から徹底して繰り返すことが近道であることは生産者誰もが知っていることである。

そういった点では、上記の理論が現代でも有効なものであれば、優秀な競走馬を生み出すことに少しでも近づけるはずだ。

先程挙げた著書『サラブレッド0の理論―人間の予想を裏切る「血と本能」の秘密』の中で、テシオの右腕として彼の馬産を支えていた妻のマダマ・リディアの言葉を抜粋すると、

テシオは仔馬がまだ母馬の胎内にいる時点で、その性別を除いて、毛色も、体形も、競走成績をも正確に予言していたという。

「かくして私は、自分の欲する馬をごく数学的に生産することができた」と述べていたようだ。

そして、中島氏は、そのようなことが本当にできるのかという読者には、確かにできる、というしかない。と、著書の中で発言している。

では、どんな配合理論だったのかと言うと…ここでは詳しい内容は伝えきれない。

興味のある方は、上述した著書を探して読んでみてほしい。ネットでも簡単に購入できる。


自然の生体リズムを利用した配合論

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さて、簡単にだが、配合理論に触れると、

野生馬の繁殖に準じた馬の生体リズムにしたがった方法である。

牡と牝では遺伝に果たす役割が異なるものと定義している。

さらに簡単に言うと、年齢によって、それぞれの遺伝力が異なることを説いている。

地球上に生命が誕生して以来、生命はずっと周期的なサイクルをもつ天体にいる。だからこそ、あらゆる生体には特有のリズムがあるとされている。

正確にいうと、地球の自転、地球の周りを回る月の公転、さらに太陽の周りを回る地球の公転が、馬の生体リズムを奥深いところで支配しているということなのだ。

それは繰り返される強い光(太陽)、弱い光(月)の周期であり、放射線(太陽)の周期であり、磁気(太陽)の周期であり、さらに重力(月)の周期でもある。

サラブレッドは人間の管理下で生活しているが、繁殖に関しては、この自然の周期に逆らわない、そしてそこに生じる遺伝力の強弱を上手く利用して配合する方法をテシオは実践していた。


その配合論が通用しない二つの要因

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さて、ここからは今回の伝えたい大切な部分である。

この理論を分析そして、実際に日本の馬産にその理論を取り入れて多くの活躍馬の生産に貢献した中島氏が、この理論を用いるにあたって必要な事柄を挙げている。

その中の一つが、「排卵誘発剤は絶対に使用してはならない。」ということだ。

(排卵誘発剤とは、受胎率を向上させるために、交配と排卵のタイミングを合わせるために使用する薬である。)

あくまで自然の発情と排卵の際に交配して受胎してこそが、自然界のリズムであり、動物の本能に逆らってはいけない。

しかし、これが今や日本の生産地のみならず海外でもほとんどが実践されていない状況にある。

なぜなら、排卵誘発剤はほとんどの生産者が使用しているのだ!

種牡馬の負担や、交配する際の労力(馬運車で運んだり、交配前後で治療する)を考慮して、効率よく受胎させるということが優先されるからだ。

中島氏は、著書の中で、1度使用すると2年間は後遺症として体に残ると語っており、本能の全くない発情で種付けしても…(以後割愛)と説いている。

さらに自然界のリズムを重んじることを考えると、この理論に逆らってしまうもう一つの要因が挙げられる。

発情周期のサイクルを短くする「黄体退行促進剤」の使用である。

馬の発情サイクルは通常3週間である。個体によって多少誤差はあるが、発情期が約1週間、そして発情のない期間が2週間あり、合わせて3週間なのだ。

繁殖シーズンは、馬はこの周期を繰り返している。

しかし、この黄体退行促進剤を用いると、通常2週間の無発情期が1週間に短縮できる。

黄体とは、卵巣の排卵した後に形成されるの組織であり、ここから分泌されるホルモンによって発情がこなくなる。

排卵した後に、この黄体組織が存在する約2週間は発情は現れないのだが、排卵後1週間目に黄体退行促進剤を投与すると、発情が誘起される。

要は、交配する周期は基本的に自然界では3週間隔のところを2週間隔に短縮できてしまうのだ。

春から夏にかけて繁殖する季節繁殖動物の馬にとっては、ある程度定められた期間内に子を宿す必要がある。

特にサラブレッドの生産者が馬を売ることを第一に考えた場合、少しでも早く生まれた方が売る時点での身体が立派に見える可能性も高まり、売れやすくなる。

一度で受胎するわけではないので、シーズン中に何度か交配するケースは珍しくない。

そうなると、何度か交配を繰り返した場合に、「3週間隔」と「2週間隔」とでは、受胎した場合の生まれてくる日が全然違う。

例えば、4回交配した場合は4週=約1ヶ月違うのである。

ショートサイクル=2週間隔で生産された馬の方が、早めに生まれるのは理解してもらえるだろう。

全ての生産者がこの方法をとっているわけではないが、ほとんど行っていると考えてよいはずだ。

馬の文献や講習会の内容がネットで見れる時代だが、目を通すとよくわかる。

生産地で、使用していることも直接耳にする。

これら2つの化学物質を使用している時点で、自然界のサイクル、自然の発情での生産は行われていないことになる。

これはもう10年以上前から行われていることであり、現在活躍している種牡馬や繁殖牝馬もこうした経緯の中で生産されて誕生したサラブレッドなので、この配合理論を全て信じきって馬選びをするのは信頼性に欠けると個人的に思う。

ただし、仮説のみで終わらせるつもりはないので、自分自身で、今後調査・分析したいとも考えている。

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