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太平洋のパンデミック:グアムの住民を危険にさらす軍事基地

アメリカ海軍の航空母艦でコロナウイルスの集団感染が発生し、何千人もの乗組員がグアム島で下船したことは、以前こちらでも紹介した。
その後もグアムでは感染が広がっている。

グアムは「太平洋地域で最大のCOVID-19による被害を受けた場所であり、軍隊による伝播は明らか」と、上記の記事でティアラ R. ナプティさんは言う。

「何世代にも渡って環境を破壊し、太平洋の島々を占領し続けてきた」米軍は、パンデミック終息後もグアムの人々を危険にさらし続けるだろう、とも述べている。

筆者の許可を得て、以下に記事全文の日本語訳を掲載する。

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太平洋のパンデミック:米軍基地はCOVID-19のホットスポットだけではない-島領土を気候災害の標的にしている

植民地プロジェクトの根本的解体がなければ、米軍はパンデミック終息後もずっとグアハンの人々を危険にさらし続けるだろう。
ティアラ R. ナプティ

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コロナウイルスのパンデミックの中、グアム海軍基地で体温をチェックされる空母セオドア・ルーズベルトの乗組員。2020年4月7日 (Photo: U.S. Navy/MC1 Julio Rivera /Handout/Anadolu Agency via Getty Images)


グアムは常に米軍の最高機密とされてきた。軍隊の秘密主義は今に始まったことではないが、世界的パンデミックの真っただ中、国防総省はコロナウイルスの症例についての公表を止めるように米軍基地に命じた。7月までに29,000人以上の兵士がコロナウイルスに感染し、軍と公衆衛生当局はこの夏、米軍が国内外でウイルスの伝播源となっていると断言した。

グアハン(先住民によるグアムの呼び方)は、太平洋地域で最大のCOVID-19による被害を受けた場所であり、軍隊による伝播は明らかだ。2020年3月以降、セオドア・ルーズベルトやロナルド・レーガンなどの航空母艦が、ウイルスに感染した何千人もの兵士をグアム島で下船させた。彼らの多くが2度目の感染を起こし、島の検疫制限を破った。これまでに島の全人口165,000人の約2%がCOVID-19に感染し、島に駐留する軍隊の健康保護に関する警戒レベルは「チャーリー」に設定された。(※5段階の警戒レベルのうち2番目に高い設定)

植民地プロジェクトの根本的解体がなければ、米軍はパンデミック終息後もずっとグアハンの人々を危険にさらし続けるだろう。結局のところ、軍隊は常に植民地主義暴力のホットスポットとなってきた。何のとがめも受けず何世代にも渡って環境を破壊し、太平洋の島々を占領し続けてきたのだ。こうした行為は、元に戻せない被害や冒とくにもかかわらず、一般市民にはほとんど知られていない。

グアハンは政治的に「非編入領土」とされている。第二次世界大戦中、この島を日本から奪還するため爆撃作戦や土地の収奪を行ったアメリカがその後一方的に押し付けた呼称で、要するに21世紀版の植民地だ。この島はおそらくアメリカの最高機密と言える。ミクロネシアに位置するほぼ忘れられたこの島で、軍隊は地続きの州では決して行わない訓練や実験を行っているのだ。

2020年の今も米軍は、アメリカの領土で最西端に位置するこの太平洋上の島の約1/3を占領している。アンダーセン空軍基地とグアム海軍基地は、爆撃機を収容し、高速攻撃型原子力潜水艦の母港として機能し、大量の弾薬と燃料貯蔵施設を備え、ヘリコプター部隊を維持し、高高度地域防衛(THAAD)弾道ミサイル迎撃機を運用し、国防総省のアジア太平洋地域における軍事戦略を支える軍事力を提供する、2つの主要な軍事基地である。アメリカはまた、沖縄から海兵隊員5,000人をグアムに移転することで、既存の軍事プレゼンスをなお一層増大させる計画を進めている。このような軍事優先政策は、安全保障と防衛を確保するものとして広く正当化されている。しかし調査で明らかなように、グアム島をミサイルから気候変動に至るまで攻撃と脅威の標的にしているのは、米軍のプレゼンスなのだ。

世界最大の軍隊である米軍は、最大の化石燃料消費者であり、最大の温室効果ガス(GHGs)排出者であり、地球の気候変動の最大の責任を負っている組織である。国防総省は、その日常業務で環境を破壊し大量の有害廃棄物を生み出している継続的記録を持つ、世界最大の汚染者だ。軍事拡大と軍事基地の運用は、私たちに共通する問題である気候緊急事態を悪化させている。軍事化がもたらす強奪と環境破壊は、特に太平洋と米国内の先住民コミュニティで、アメリカ帝国の圧倒的犠牲をはっきり示している。暴力の遺産のひとつである人種差別主義は、米上院委員会が(※南北戦争で奴隷制を支持した)南軍にちなんで名付けられた米軍基地名を変更しようと取り組むずっと前から存在している。

アメリカの植民地では、軍事優先政策と気候脆弱性による脅威が日常生活に編み込まれているが、この状況に対する抵抗もまた何世紀にも渡って続いてきた。自己決定権を求める不断の運動を続けるグアハンとその先住民チャモロの人々は、アメリカにとってグアム島とその周辺海域は爆撃訓練場を設置して破壊行為を行う戦略的軍事基地に過ぎない、という説に異議を唱え続けている。

チャモロ人の学者ケニス・ゴフィガン・グーパー博士は、「米軍の槍の先端」で生きることは、「島の動脈に堆積している有毒化学物質や重金属による環境汚染の原因である」軍事化と共に生きることを意味する、と説明する。11月の米大統領選挙が間近に迫っているが、グアハンの人々は「大統領選挙人団への投票権がなく、米上院に代表を持たず、下院には投票権のない代表しか送れず、連邦議会の“全権”、または完全な権力の下に置かれている」と述べている。

市民参加と投票権が重要である一方、アメリカによる植民地化と軍事化は、グアハンの人々の政治力に対して常に脅威となっている。グアハンの人々が本来固有の自決権を行使して自らの政治的未来を選択できるようになるまで、公衆衛生から気候変動対策、経済に至るまであらゆる決定は引き続き外部の権力者にゆだねられることになる。こうした不正義の影響は明らかだ。COVID-19の感染者や死者が急増する中でも、米軍はグアハンの聖地での実弾射撃訓練場の建設を続け、太平洋全域でリムパック(環太平洋合同演習)のような「戦争ゲーム」を行っている。

グアハンは地球の裏側に浮かぶ島だ。それでも市民社会のあらゆる分野は軍事戦争マシーンと結びついている。年金基金や大学寄付から州・自治体に至るまで、官民の資産は軍事請負業者、武器製造者、戦争などに巻き込まれている。こうした不当利得行為は、広く正当化されているのが現状だ。公有資金から民間資金まで、「アメリカ的な」経験のあらゆる部分は太平洋の植民地支配から利益を得てきた。しかし、破壊兵器や戦争からこうした資金を引き揚げることは、パンデミックで明らかになった私たちが切実に必要としているもの-公衆衛生、教育、住宅、食糧、グリーンジョブ、化石燃料からの公正な移行などに基づく真の安全保障-に再投資することにつながる。反黒人人種差別に対する抗議行動がケノーシャ、ポートランド、オークランド、シカゴ、フィラデルフィアなどの都市で続いているように、警察組織を再検討し予算を打ち切ることは、私たちの生活全般を構築する軍事産業からの資金引き上げをも意味している。

グアハンを定義する物語は、何世紀にも渡って続く植民地化でもなければ、米軍の例外論により悪化したCOVID-19パンデミックでもない。軍事基地名の象徴的変更などではなく、植民地主義暴力の終結こそグアハンの人々にふさわしいものだ。


筆者:ティアラ R. ナプティ
コロラド大学ボルダー校・コミュニケーション学部の助教授であり、同大学ネイティブアメリカン・先住民研究センターの理事会メンバー。チャモロ人。


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