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大統領選挙に投票できないアメリカ市民:グアムの現状

アメリカの大統領選挙が目前に迫り、様々なニュースが伝えられる中、メディアがほとんど取り上げない問題がある:グアムを含めた米領土の住民には選挙権が与えられていない。

ワシントンが決定する様々な政策はもちろんグアムの人々にも影響を及ぼすのに「住民は発言権を持っていない」状況を、以下の記事でティアラ R. ナプティさんが解説している。


今回もまた筆者の許可を得て、以下に記事全文の日本語訳を掲載する。

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誰も語らない権利をはく奪された有権者:アメリカ植民地の住民

グアムほか米領土の数百万人の住民には今年11月の選挙の投票権がない。米国による残忍な植民地の遺産を思い起こさせるものだ。
ティアラ R. ナプティ 2020年10月20日

大統領選挙が近づく中、米国のリベラル派と左派は一様に、有権者に対する弾圧と権利はく奪の脅威について懸念を強めている。彼らの恐れは十分根拠があるように思える。今月だけでも新たに投票箱の設置を制限する州があり、期日前投票所での列は10時間にも及び、オンラインの有権者登録サイトはクラッシュし、言うまでもなく大統領はひっきりなしに不正行為を主張している。しかし、太平洋に位置することから「アメリカの一日が始まる場所」とのスローガンを持つグアハン(グアム)島では、こうした懸念はぜいたくだと言えるかもしれない。なぜならこの島の住民は、最高レベルの米軍入隊率を誇りながらも、国の最高司令官を選ぶ選挙の投票権を持っていないのだ。

「Faces of the Fallen」プロジェクトによれば、グアハン出身兵士のイラクとアフガニスタンでの死傷率は、全国平均より450%高い。2010年の国勢調査によれば、米領土のこの島を故郷とする退役軍人は数千人おり、島の住民20人に1人が従軍の経験を持つ。にもかかわらず、島の退役軍人は退役軍人局(VA)の医療制度へのアクセスと関連給付を受け取る資格を持たない。島の約28%の土地を米軍がどのように占領しているのか、ルーズベルトなどの航空母艦がコロナウイルスに感染した数千人の乗組員を島で下船させればどんな事態になるのか、ロックダウンの最中に米軍が戦争ゲームを実施して良いのか、などに関して住民は発言権を持っていないのだ

この夏、米国議会は軍事費の増額とアフガニスタン戦争の延長に合意した。この超党派による決定に、グアハンほか米領土の住民の意見は反映されていない。ここにあるのは、延々と続く戦争や外国の紛争で自らの命を犠牲にする選ばれた市民を歓迎する一方で、彼らが国家の民主主義に関与することは否定するアメリカ帝国主義の偽善だ。

9月、長年に渡る地元の反対と訴訟を無視して、第9巡回区控訴裁判所は国防総省によるグアハンでの大規模な軍備増強計画を支持した。この計画は、海軍訓練の増加、在来海洋生物を保護する法律を覆すソナー(水中音波探知機)や兵器の実験を含んでおり、地域と地球全体に回復できない危害を与えるだろう。米軍の例外主義はまた、先住民の埋葬地の冒とく行為にも及んでいる。

「誰の健康と安全がより重要だと考えられているのか、というのが基本的な問題です…大変悔しいことに、その答えはすでに明らかです」と、住民でありチャモロ女性団体「I Hagan Famalao’an Guåhan」メンバーのキーシャ・ボレハ-キチョチョ-カルボさんは言う。「答えは私たちではありません。」

米国とグアハンとの従属関係は1世紀以上に及ぶ。米国とスペインが戦った米西戦争が1898年に終わり、両国政府はグアハン島を米国に割譲することで決着した(フィリピン、プエルトリコと一緒に)。この合意によって数世紀続いたスペインの植民地支配は終わったが、単に占領者が他国に変わっただけだった。米海軍は島の統治を任され、島の人々は憲法上の完全な保護を与えるものではないと最高裁が判断した「異人種」に分類された。それ以前のスペイン統治と同様、米国の統治は先住民チャモロ人の激しい反対に遭い、脱植民地化を求める運動は今日に至るまで続いている

1950年に米議会は、海軍による統治を廃止しグアハンを米国の「非編入領土」とする「グアム基本法」を成立させた。この法律によって、私の祖父母を含めた島のすべての人々が自身の同意なく米国民となった

アメリカ領サモア、北マリアナ諸島、アメリカ領ヴァージン諸島、プエルトリコと同様、グアハンには大統領選挙人団による選挙(electoral vote)がない。他の島と同じく、投票権のない連邦議会の代議員を選出することしかできないのだ。これらの島々には、オレゴン州の人口とほぼ同数の410万人以上が暮らしている。しかし選挙まであと3週間を切っても、こうした領土の人々に投票権がないことに関する議論は米国ではほぼまったく見られない。

グアム大学のチャモロ人学者であるケニス・ゴフィガン・グーパー博士にとって、今回の選挙での関心事は「人種差別主義的思想と帝国主義に根差している私たちの政治的地位の問題に、米領土の住民である私たちは取り組まなければならない、という点を強化することです。領土の選挙権拡大を求めることは前向きな最初の一歩と考えられますが、より大きな問題は2020年の今も植民地として扱われていることです。政治的地位が中心課題であるべきです」と話す。

皮肉なことに、米国の有権者たちの大多数はこうした米領土の状況と米軍作戦について無知のままであるのに、彼らの方がグアハン住民よりもグアハンに対する影響力を持っているのだ。米国本土の住民がこうした不正義に気づくと、安易に代表制民主主義を求め領土の完全な投票権を擁護することが多い。しかし代表制だけでは米国による太平洋の占領を正当化することはできず、米国の戦争マシーンの過ちを正すことにもならない。こうした対話は、単にグアハンを国の選挙手続きに参加させれば良いという想定から始まってはならない。そうではなく、チャモロの人々が本来持っている政治的未来を決める自己決定権が認められるよう要求しなければならない。

11月3日の結果がどうであれ、進歩派は21世紀に植民地のない世界を構築するため努力するべきだ。そうしてこそ真に勝利を達成することができる。


筆者:ティアラ R. ナプティ

コロラド大学ボルダー校・コミュニケーション学部の助教授であり、同大学ネイティブアメリカン・先住民研究センターの理事会メンバー。チャモロ人。

This article is reprinted from In These Times magazine, © 2020, and is available at inthesetimes.com.



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