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既存事業の変革【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:VALUE②】

変革が必要なのは、新規事業だけではない。大企業の根幹を成す既存事業にこそ必要である。SOMPOホールディングス、パナソニック、日本郵便の経営幹部に「既存事業の変革」の重要性と取り組みについてお話いただいた。

【登壇者】
■SOMPOホールディングス グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一さん
■パナソニック 環境エネルギー事業担当参与 馬場渉さん
■日本郵便 執行役員 郵便・物流業務統括部長 三苫倫理さん

【モデレーター】
■Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香さん

■社会サービスを刷新するのは大企業とIT企業のどっち?

【谷本】イノベーションといえば新規事業というイメージがありますが、既存事業の変革の重要性について解説をお願いします。

【馬場】社会や生活が革新し、豊かになり続けるために、誰もまだ手をつけていない領域で新たな産業を生み出して成長させるのが新規事業です。しかし、何百年という産業の歴史の中で、もうほぼすべての領域でやり尽くした感があり、残された余白はほとんどありません。

ゆえに、どの企業も、特に100年以上も人類の社会生活の根幹を担っている物流業や製造業は新しい領域で産業を興すというより、既存の産業をよりアップグレードさせて生産性を高めるという方向に舵を切っています。

ただ、誰が社会サービスをもう一度刷新できるか。100年近くの歴史を持つ既存の大企業なのか、それとも新興IT企業なのか。そういうことを新規と既存という意味では考えています。

【楢﨑】まさに馬場さんがおっしゃった通りで、そもそも現在の経済や社会や生活において必要な価値やサービスは提供され尽くしているので、全く新しい産業が生まれてくることはないでしょう。

私は最近スタートアップから大企業へ戻ったのですが、戻った先が保険会社という最も古い産業の1つです。3、4世紀頃から今まで基本的にはビジネスモデルは変わってないので、今さら新規事業と息巻いたところでしょうがない。

一方で、古くからある保険という商品が皆さんに100%満足してもらっているとはまだまだ言えません。このあたりの既存事業を見直すだけでもイノベーションと言えるでしょう。昔から存在するものを見直して、今の時代に合わせて改善改良して、生産性を上げること。つまり既存事業の変革こそが重要で、そう考えたらやるべきことは山ほどあります。

■現状から1歩、2歩でも前に進めていけばいい

【三苫】日本郵便は決まった仕組みを実行することには長けていますが、ネガティブな言い方をすると、変化が苦手ということでもあります。全員がクリエイティブな発想力と実行力をもつ組織にはなれないし、なる必要もないと思っています。

今ある仕組みやオペレーションを1歩でも2歩でも前に進め、実行することは、クリエイティブな要素がなくても誰でもできます。それこそがお客様にとってよりよいサービスを提供するためには必要で、仕事の価値向上という意味では十分イノベーティブな行動だと言えます。マネジメント層としてはこれを実践させるべきで、その繰り返しが組織としての力を底上げし、今の我々が提供している価値を次のステップにバージョンアップさせることになると考えています。

我々日本郵便が実践しているイノベーションプログラムでも、このような課題認識から、既存事業にアプローチしています。

現在の「物を運ぶ」という仕事の仕方は完全なものではありません。それぞれの職場でまだまだやれることはたくさんあります。そのオペレーションをどう改善するべきかという視点で考えた時、新しい部隊で何かをやろうというのではなく、現在のオペレーションを担当しているスタッフが主体となってどのようなことができるだろうか、という視点でアプローチしています。

この時重要なのは、その改善のための取り組みを経営層が邪魔しないこと。もしくはそれに対する方向性や道筋、将来性を示すことです。

■コロナによって露呈した脆弱な社会システム

【谷本】今年世界全体を揺るがした新型コロナウイルスはみなさんが既存事業のイノベーションを推進していく上で、どのくらいのインパクトを与えたのか、そしてこれからアフターコロナの時代においてどのような影響をもたらすと考えられるのでしょうか。

【三苫】今回のコロナで、私たち配送業を取り巻く環境は激変しました。初期の段階からソーシャルディスタンスを取りなさいと叫ばれていますが、当社はそもそもたくさんの人が同じ場所で働いているので、ソーシャルディスタンスを取ることが難しい事業モデルです。また、お客様サイドから見ても、今までは対面で荷物を受け取る行為に価値があるとい考えられていたものが、極力対面で受け取りたくないという価値に代わった。つまり、お客様の価値観自体が変化してしまった。

当然、この状況に対応しなければ、我々はお客様から見放されてしまいます。この変化は一過性のものではなく、継続的に続くわけなので、仕事の仕方自体を根本的に見直さざるをえない大きな外圧になっていることは間違いありません。

【馬場】今回のコロナはイノベーションという意味ではよかったと思います。というのは、以前から感染症のパンデミックも、気候変動やサイバーアタックなどの長期リスクの一つとして必ず起こると言われていました。しかし、今コロナによって世界中で露呈したのは、実際に危機に直面して痛みとして感じないと行動できないという非常に脆弱な社会システムでした。

だから、コロナと同じく他の重大な危機も必ず来るという前提で、今のうちからそれぞれのリスクマネジメントとクライシスマネジメントを考えなければならない。

それらのサステナビリティとイノベーションは狭義の意味では別物かもしれませんが、イノベーションをやる理由は長期的に社会生活を革新し続けるとか企業が長期的に成長し続けるためなので、サステナビリティの一種と言えます。短期の収益性と同じくらい長期の大きな非連続な変化に備えることも重要で、その感度は今回のコロナで上がったので、イノベーションにとって大きくポジティブに作用すると思います。

【楢﨑】今回のコロナでの問題はサプライチェーンが分断されたり停止したこと。それによって、我々保険会社も家電メーカーも郵便も、ほぼすべての産業が割りを食い、経済活動や社会生活も止まり、会社や人々が甚大なダメージを負ってしまいました。

だから今回のコロナが突きつけたのは、我々のサプライチェーン、つまりモノを作ってから人々の元に届けるまでの連鎖がいかに脆弱かということ。コロナはそれを改善しなければならないということを全員に気づかせてくれたという意味でよかったと思います。

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■すべての大企業は仕組みで勝っているだけ

【谷本】パナソニックは仕組みで勝ち続けてきたような企業ですよね。イノベーションを生み出すためにはどのような新しい仕組みを作るべきだと思いますか?

【馬場】いま谷本さんがすごく大事なことを言ってくれました。まさにその通りでパナソニックは仕組みで勝ってるんですよね。ということは、ビジネスがうまくいってるのは、社員がうまくやれてるからじゃなくて仕組みが優秀だから。これは当社だけじゃなくて、すべての大企業に当てはまるので、これを認めない限りは次の成長はないと思っています。ゆえに生き残るためには、既存事業とか新規事業という枠を超えて、ものづくりや人事や会計などすべての仕組みを変革しなければならない。

そのために必要なのが、先祖還りだと思っています。創業者が起業した時の理念、目的は何だったのか、それが今果たせているのか。原点に戻ってそれを自問自答し続ける。そうすると、本来の理念や目的を果たせていないと気づく。そのために私は創業者の著書を手の届くところに置いて、しょっちゅう読んでいます。

だから新規事業とか既存事業とかイノベーションとか言う前に、本来の理念に沿ったやり方で製品やサービスを提供することを追求するべき。そうすれば、うまくいくはずなんです。

【楢﨑】馬場さんの意見に賛成で、創業時の理念に戻ることは非常に重要です。損保ジャパンの前身は安田火災海上ですが、その元を辿ると、1887年創業の東京火災に行き着きます。創業期の社員たちが描かれた絵が残されているんですが、みんな火消しの格好をしているんです。つまり、当時の社員は消防士とほぼ同じ仕事をしていたということで、お客様に寄り添ってリスクに対処するという姿勢がその絵からはっきりわかる。だからその絵を見るたびにジーンと来てしまうんです。

でも133年経った今、我々は彼らと同じくらい本当にお客様に寄り添っているのかと自問自答した時、そう言い切れるとは思えません。全員、入社時には意気に感じていた理念が、社歴を重ねる間に薄れて、ただ惰性で言われたことだけをやるようになる。だから自分が何のためにこの会社で働いているのかという原点に立ち戻ることが大事です。

もう1つ重要なのは、日々の研鑽です。ある程度の素養がないとビジネスパーソンとして、企業として新しい時代に生き残れません。そのために、最近「約2万5000人の全社員がABCDをできるようにならなければならない」とよく言っています。ABCDとは、AI、Bigdata、CX、Designthinkingの4つで、現代の読み書きそろばんなので誰もが普通にこなせるようにならなきゃいけない。だから組織論の話と平行して、人づくり、社員の育成をきっちりやるべきだと思っています。

■社員を子供化する教育を

【谷本】では、事業変革ができる人材を作り出すためには、どんなことが必要だと思いますか?

【馬場】今は手つかずの新領域で新規事業を起こすという時代ではないし、業界が長く、いろんなことを知りすぎてしまうと固定観念に縛られ、柔軟な発想ができなくなるし、大人になればなるほど失うものが増えます。

一方、外部の人間や若い世代、外国人など業界の素人は知識も経験も失うものもないからこそ、新しい見方や突拍子もない発想ができるから、常識を打ち破る革新的なチャレンジングな行動ができます。

だからほとんどの企業は育成制度で社員を大人化しようとしますが、逆にもっと子ども化する、若返らせる教育をした方がいい。実際に私自身、デザインシンキングは若返りの手段と思って推進しています。

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■「こんなところで勉強している場合じゃない」

【谷本】最後に若手に対して一言ずつメッセージをお願いします。

【楢﨑】イノベーションのためには2つ必要。1つはトップのコミットメント。ぜひ偉い人と仲良くなってイノベーションを勧めてください。

2つ目はもっと大事なことで、若手一人ひとりの心意気です。今の厳しい時代、このまま何も手を打たないで座して待っているだけではみんな死んでしまいます。だから今から生き延びるためにできることは何でもやらなければなりません。その中で既存事業の変革は最も重要で今日からでも取り組めます。ぜひ気合いを入れて頑張ってください。もちろん私たち経営層もそうします。

【三苫】いま目の前にある仕事を少しでも改善改良するだけでも十分にイノベーションと言えます。誰もがイノベーションの主体になれるし実行できる。そういう思いを共有して、企業や社会をよりよくしていきましょう。

【馬場】大企業の具体的なイノベーションは検索すれば出てきます。あとはやるだけ。こんなところで勉強している場合じゃないですよ。

もう1つ声を大にして言いたいのは、今、化石燃料を前提とした従来型の経済システム、資本主義システムが崩壊しようとしています。今このセッションをみている若手が現役バリバリの時に間違いなく根本的な資本主義の転換に直面するし、従来のほとんどの価値感があと10年もすれば全部がらっと変わるでしょう。

だから若手はそんな時代でどう生きていくのかを今のうちから考えた方がいい。そして、個別の企業の既存事業を変革することも大事ですが、それよりも社会全体の産業システム、経済システムそのものという既存事業にイノベーションを起こすことをぜひ考えてほしいです。


構成:塚田 有香
デザイン:McCANN MILLENNIALS
グラレコ:三瓶 聖奈

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