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ダイバーシティ&インクルージョン-ジェンダーギャップを乗り越えるために必要なこと 【ONE JAPAN COFERENCE 2021 レポート:CULTURE③】

ジェンダーギャップ指数で、先進国中最下位の日本。政府は「2020年には指導的地位における女性の割合を3割にする」と目標を掲げていたが、現実ははるかに及ばない。個人は、企業は、どうすればいいのか。先進的な取り組みを進める企業の経営者、株式会社資生堂代表取締役社長兼CEOの魚谷雅彦さん、株式会社プロノバ代表取締役社長、株式会社ユーグレナ取締役CHROの岡島悦子さん、日本IBM取締役副社長の福地敏行さんと、モデレーターとしてジャーナリストの浜田敬子さんに、「ジェンダーギャップ(男女格差)を乗り越えるために必要なこと」について語っていただいた。

【登壇者】(敬称略)
・ 魚谷雅彦 / 株式会社資生堂 代表取締役社長 兼 CEO
・ 岡島悦子 / 株式会社プロノバ 代表取締役社長 / 株式会社ユーグレナ 取締役CHRO
・ 福地敏行 / 日本IBM 取締役副社長
・ 浜田敬子(モデレーター)/ ジャーナリスト

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■女性特有の課題に焦点を当てた研修

【浜田】資生堂は女性の活躍支援に先駆的な取り組みをしています。どのようなプログラムがありますか。

【魚谷】私が2014年に社長になった当初、社員に向けて、「多様性がいかに大事か」について、意欲を込めてビジョンの話をしました。しかし、集まっていた女性から「なぜ私がここにいるのかわからない」「育児とかをやりながら大変なのに」と言われ、驚きました。それが現場の本音だったのです。

単純に旗を振って「ダイバーシティが大事」というのではなく、まず女性が抱える現実を理解しないといけない。企業は男性中心社会だから、「俺についてこい」というのがリーダーシップだと思っている人も多い。まずはそのバイアス(思い込み)を取り除かなければいけないと思い、研修やメンタリングなど、色々なプログラムをやりました。

2017年より女性リーダー育成塾“NEXTLEADERSHIP SESSION for WOMEN”を開催し、管理職を志す女性社員に対し、女性特有の課題に焦点を当てた研修を行っています。
始めは、「私が選ばれた理由がわからない」という声がありますが、研修を通じて自分を出して、周りに共感を得られるようにしながら、一緒に仕事をして成果をあげる。6か月後、研修を卒業するときには、女性社員から「私、部署の中心になります」、「将来は役員になってみんなのためにがんばります」という声が出てきました。

■女性、上司、経営トップの「三位一体」で意識改革

【浜田】岡島さんは具体的に、どうやって女性のリーダーシップを引き出していますか。

【岡島】私は女性、上司、経営トップの「三位一体」で、取り組むことが重要だと思っています。女性だけの意識改革をやっても、「上司が違うことを言う」、「経営トップとは意識が同じでも、執行役員からはしごを外される」ということも起こり得ます。

キリングループの女性幹部育成プログラムにも関わってきました。2013年には女性管理職比率が4パーセントでしたが、ようやく10パーセントに増えてきました。経営層は中期経営計画でしっかりと、「多様性はひとつの柱である、イノベーションの母である」と表明し、「意識合わせ」ができています。

初めてキャリア職になる女性のためのワークショップでは、グループを横断した管理職から経営の知識やスキル、問題解決を学びます。最後には経営陣に現場をふまえた「提案」をしてもらう。縦、横、斜めとあらゆるラインで仲良くなるので、女性が仕事の悩みだけではなく、出産などライフイベントで困ったときも、コミュニティの「ロールモデル」に相談ができる。さらにアイデアが新商品に活かされるときもある。リアルにリーダーシップを学んでいく事例として素晴らしいと思っています。


■女性への心遣いが、余計なお世話に

【浜田】福地さんは以前講演で、男性の経営層が「女性のネクストリーダー層のスポンサーになる」という心構えを話されていました。

【福地】女性の上位職登用を考えた場合、壁になっていることが2つあります。ひとつは男性のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)です。大変な仕事は「女性にまかせたら大変かもしれない」、「週末の仕事は、お子さんいるのに大丈夫かな」といった気遣いが、余計なお世話になる。女性が活躍するチャンスを、男性の勝手なアンコンシャス・バイアスで奪っている可能性もあると思っています。

もうひとつは女性側が「私にはまだ早い」、「ロールモデルのようにまだなれない」と、準備不足や負担を感じること。これは男性のサポートが不足しています。リーダー候補は上級役員などの「スポンサー」がついて準備を進め、背中を押してあげる機会をつくります。すると管理職になれば、大きく力を発揮します。男性は「やってみるか」と言われ、「やります」と答え、失敗も成功もする機会が当たり前のようにある。女性にきっかけや壁を乗り越えるチャンスを与えていくのは、トップや管理職の役割と思っています。


■参加の壁を破る、「数値目標」の力技

【浜田】女性の管理職比率など、数値目標を掲げることについて、数値ありきで能力のない人を登用するのは「逆差別」ではないかとの意見があります。どう考えますか。

【魚谷】多くの企業の状況からいうと、それまでの「負の流れ」がある。女性は会社に入ると、現場で「ボーイズクラブ」ができあがっていて中に入れない。結婚の時期になると、仕事を続けられるかと悩む。育児休暇を取った後、復帰してがんばると、今度は「リーダーになってほしい」、「会社経営に携わってほしい」と言われるが、男性が当たり前にやってきたことに、参加の壁がまだある。
私は「30%クラブジャパン」(取締役会を含む企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン)の会長もしており、30社以上の経営トップが参加しています。ここではやる気のある社長が大勢いて、「女性取締役比率を高めていくことを掲げていますが、実際は低い数値にとどまっています。管理職は少しずつ増えてはいますが、部長などの一般管理職がなかなか増えない。ですから、「次のリーダー層になる人たちがいない」という危機感があります。経営層が「日本社会全体を良くしよう」、「環境づくりを協調してやっていこう」と、互いに意識を共有することも大事だと考えます。

【福地】IBMも数値目標はあります。国によって異なりますが、日本は水準が低い。数値目標自体がゴールではないですが、ある一定の量に達するまでは設定すべきだと思います。日本IBMは管理職の女性比率が約17パーセントですが、役員は20パーセント弱で今後25パーセントにする目標を立てています。世界でははるかに進んでおり、重要なポジションはむしろ女性が多いですね。

ダイバーシティというのは、「数値目標」だとか、「いろいろな人がいる」という状態であり、形であると思います。一方、インクルージョンは「いろいろな人がいる」ということを認めて、受け入れて、リスペクトする。そういった人に配慮したふるまいだとか、言葉づかいをする。むしろ心なのです。Dはかたちであり、状態。Iは心であり、ふるまい。トップや管理職の役割はこのDを負うより、Iを負うべきと私はつねづね考えています。

【浜田】岡島さんは女性の活躍推進に「三位一体」で取り組むと説明していましたが、男性の上司や同世代の男性が「自分たちが置き去りにされてしまう」と感じて抵抗勢力になりやすいという話も聞きます。男性をどう巻き込んでいますか。

【岡島】みなさんの会社もそうだと思いますが、「10年後、会社がなくなってもいい」と思っているミドルマネージャーはほとんどいないはずです。その意味では、やはりこの会社がサスティナブル(持続可能)であるために、ジェンダー格差を解決することについて、上司も同世代の男性もノーとは言わないはず。つまり抽象度が高ければイエスなのに、具体的に「あなたの部署で女性を登用してください」というと、「わからない」となってしまう。ですので、武器(有力な手段)をたくさん用意するのがいいかと思います。


【浜田】育児など、両立支援制度を充実させればさせるほど、性別による役割分担が固定化する時期があります。男性も家事、育児をやらないと、支援制度は「分担するためのもの」となりますね。

【福地】IBMでも男性が育児休暇取得率を100パーセントにしようとキャンペーンをしました。3日でも1週間でもいいから取ろう、と呼びかけて、男性の70パーセントぐらいが育児休暇を取りました。あるとき、育児休暇を終えて出社した女性に、「(同じIBMに勤める)旦那さんの育児休暇プログラムはどうだった」と聞いたのです。その女性はこう言いました。「出産して大変なときに、旦那も家にいて余計に大変でした」と。制度はよくても、取得するタイミングはそれぞれの家庭にあってしかるべきなのです。「一番助かるのは、私が復職するときに夫が家にいてくれること」と話していました。経営者の視点から、「制度があるので、100%進めようという数値目標に走るところがありますが、現場を見ながら進めていく必要があると思いました。

【岡島】私が社外取締役を務める丸井グループでは、2014年から女性活躍の取り組みにおける進捗状況を可視化するため、「女性イキイキ指数」というKPI(重要業績評価指標)を置いています。女性たちの間で、上位職志向が40パーセント台から70パーセントに上がっているにもかかわらず、部長以上の女性管理職比率が14パーセントに留まっていて、「このギャップは何だ」という話になり、結局「生物的な役割分担」を変えていかないと難しいという結論になりました。今、女性イキイキ指数に新しく「性別役割分担意識の見直し」を取り入れています。越境的に取り組んでいかなければできないなと思っています。

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■15歳の指摘に経営チームがハッとする

【浜田】20代女性の方から、「40歳ぐらいで管理職になるために、今から意識しておいたほうがいいことは何ですか」というご質問です。

【魚谷】資生堂は2年前に管理職、今年から一般社員も「ジョブ型の制度」を導入しました。私は「究極の適材適所」と呼んでいますが、ジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にして、性別、国籍、年齢に関係なく、障害のある方、LGBTの方を含め、雇用契約を結ぶ。できること、得意なこと、興味関心が強いことをはっきりさせて、キャリアの軸を構築してほしい。

新卒採用、年功序列、終身雇用が基本スタイルだった昔のモデルでは、職域をローテーションして、結果的に40歳、50歳ぐらいでリーダーになる。「あなたは何ができますか」と聞かれて、「営業に行った」、「人事を経験した」という人も多かった。これからは「私はこの分野で多くの人を率いた」というふうに、人材開発をできる力を持つようになってほしいと思います。マーケティング、営業、財務…どの分野でもいいのです。

【岡島】私たちは「現状維持バイアス」にかかりやすいことを肝に銘じるべきだと思っています。長年会社勤めをしていると、過剰適応し、現状維持をしやすくなる。「いろいろな視点を入れて生きることは楽しい」と思えることが必要です。ユーグレナでも15歳のCFO(チーフ・フューチャー・オフィサー)がいて、経営チームにとって耳の痛いことを指摘します。「その視点、自分たちには抜けていた」と、ハッとさせられることはたくさんある。「異論」は面白いと思えるマインドセットを持つことが、長く仕事をしていくうえで、すごく重要です。

【福地】まず、「自分は何のために働くのか」、「これからどうしたいのか」を改めて考えてみるのもいいのではないかと思います。 管理職になることだけが自身のキャリアを充実させることではないのです。昇進する以上は報酬を得たいのか。あるスキルを着けて、その道のスペシャリストとして生きていきたいのか。それよりは家庭とのバランスのために、時間を融通させながら働いていきたいのか。

さらに「いまの自分に満足しているのか」を自問自答してみる。人はチャレンジしているときのほうが、自分のことが好きなはず。「今の自分が好き」と言えるなら、その道を進んだらいいのではないかと思います。

【浜田】ダイバーシティ&インクルージョンという大切な課題、より多くの男性にも聞いていただきたいので、今後はメインのセッションでぜひお願いしたいです。ありがとうございました。

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構成:猫村 りさ
編集:岩田 健太、福井 崇博
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:山内健
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