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DXで変わる、企業と日本の未来 【ONE JAPAN CONFERENCE 2021 レポート:全体セッション①】

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれて久しい。コロナ禍で加速したともいわれるが、海外と比べ、いまだ日本の遅れが指摘される。DXの推進をリードするパネリスト、慶應義塾大学環境情報学部教授、ヤフー株式会社CSOの安宅和人さん、デジタル庁デジタル監、一橋大学名誉教授の石倉洋子さん、シナモンAI 取締役会長兼CSDO、株式会社日立製作所Lumada Innovation Hubシニア・プリンシパルの加治慶光さん、損害保険ジャパン株式会社執行役員待遇DX推進部長、一般社団法人情報支援レスキュー隊理事の村上明子さん、モデレータとしてForbes JAPAN Web編集長の谷本有香さんに、DXによって変わる企業と日本の未来について話していただいた。
【登壇者】(敬称略)
・ 安宅和人 / 慶應義塾大学 環境情報学部 教授 / ヤフー株式会社 CSO
・ 石倉洋子 / デジタル庁 デジタル監 / 一橋大学 名誉教授
・ 加治慶光 / シナモンAI 取締役会長兼CSDO / 株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub シニア・プリンシパル
・ 村上明子 / 損害保険ジャパン株式会社 執行役員待遇 DX推進部 部長 / 一般社団法人 情報支援レスキュー隊 理事
・ 谷本有香(モデレーター)/ Forbes JAPAN Web編集長

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世界の変化から取り残される日本企業、求められる危機感

【谷本】大企業がDXを進めるために何をすればよいのでしょうか。

【村上】デジタル化の足元を固めるのはもちろん、大事なのはトップの覚悟です。デジタルトランスフォーメーションをしっかりやりきる、そのために投資をするという強い意志ですね。

【加治】企業の「求心力」だけではなく、「遠心力」もうまく使って、ファジー(あいまい)な部分を作ると、その周辺からイノベーションが生まれやすくなります。日立製作所はこのバランスがよい。社員が新規事業を起こす、外部から人材を入れる、あるいは他社と連携することで、「端境期」や「境界」が生まれるのは、優れた環境だと考えています。

【安宅】企業は3種類あって、ひとくくりにしては議論できません。「オールドエコノミー」(伝統的な産業)、「ニューエコノミー」(IT企業に代表される、新しいビジネス)、そして「第三種人類」とよばれる、サイバーテクノロジーを前提としリアルを全面的に刷新している会社では、経営課題も大きく異なる。ニューエコノミーはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表され、世界的なサバイバルゲームが繰り広げられています。テスラ、Airbnb、OneWebのようなサイバーマインドを持ってリアル革新を行う第三種人類がいるのが最大の戦場です。それなのに日本は、世界的な戦いの地から離れて、「オールドエコノミーの刷新」などという話題に足を取られている。

デジタルはもう30年前からのテーマで、テキストも動画もあらゆるものがまざりあって「溶かす力」を持っていると注目されてきました。産業の根底をくつがえすほどの技術変革なので、その方向に変わるしかありません。カメラという「撮影機器」が、シェアリングするシーンにより、「スマートフォン」と「クラウド」と「インスタグラム」という3つのビジネスに切り替わった。このように、かつて主流だったものが粉々になって、新しいかたちに変わるというタイプの変化がいま「激速(ゲキソク)」で起きているという認識を持てば、「オールドエコノミー」とか「ニューエコノミー」とか、言っている場合ではない。次をエンビジョン(描く)するのだ、という意識を持つのがポイントだと思います。

【谷本】デジタル監になられた石倉さんの視点から、企業は何をしていけばよいですか。

【石倉】安宅さんが話されたように、構造が変わっていることを受け入れ、どう競争していくかゼロから考えること。デジタルは試行錯誤がカギとなります。大きな設備に投資をして、一度決めたことをやり続けるとだけでなく、「これがだめならあっちでやる」というふうに、小さく始めて修正をしていく発想の転換が必要だと思います。加えて、企業の外にはデータがたくさんあるけれど、どう使ったらよいのかわからないし、標準化されていないので使えない、というケースが多いのも問題ですね。

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デジタル化に必要な一人ひとりのビジョン

【谷本】どこから手をつければデジタルシフトから、デジタルトランスフォーメーションに動いていけるのか。

【村上】石倉さんが指摘された「目の前にデータがあるのに活用できない」という企業の課題は、社員一人ひとりにビジョンがないのが背景かと思います。何をしたいか、どういう世界を作りたいのかを考える。「上が決めた戦略にしたがって、兵隊のように動く」という日本企業のスタイルは、かつては強みでしたが、デジタル化した世界ではスピードが追い付かないからです。

【谷本】ビジネスプロセスも変えていく必要がありますか。

【加治】企業には危機感があり、アクションも起こしていますが、ゲームのルールが一定だった高度成長期に効率的だった縦割り」の仕組みがそのままになっています。横にどう発想を広げるかが大事です。具体的にいえば、組織横型の思想を組み込んで予算編成を組んだり、ガバナンスを効かせたりして、パフォーマンスにつながる発想に変えていくことが重要でしょう。

【谷本】開発はもちろん、カルチャーチェンジも重要だということですね。

【安宅】戦後、躍進したのは、もともとあった企業ではなく、若い人たちが新しいことを仕かけて生まれた会社。ソニー、ホンダ、ワコールなど山のようにできた。つまり、次世代の企業を生み出すには何ができるのかが今、問われています。古河電気工業(古河電工)が独ジーメンスと富士電機を作り、富士電機が富士通を生み出したように、新しい世代の企業を誕生させるのが本当の意味での大企業です。それができるだけのパワーと信用があり、人材を抱えているわけですから。

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DX推進のための国と企業の関わり方

【谷本】企業側から、DXを進めるうえで政府に求めることはありますか。

【村上】難しい問題ですね。保険の会社なので、金融庁の法整備ができてから会社で準備するというプロセスに、どうしても多くの時間がかかっています。互いに率直に話しができる場があるとよいですね。

【加治】私は逆に、国に何かを問うのではなく、皆さんがデジタル庁を応援するのが大事だと考えています。石倉さんを応援して、デジタル庁を盛り上げる。ONE JAPANの皆さんは大企業のなかでコミュニティを作っているのですから、大きな力で応援をすれば、現状を変えていくこともできます。

【谷本】日本という国のDXで期待されること、何をすべきか。デジタル監の石倉さん、どうお考えですか。

【石倉】私は、デジタルが社会を大きく変える原動力だと思ってきました。しかし、それだけの認識がどれだけの人にあるでしょうか。社会が変わるということは、よいこともあれば、とんでもないことも起こる可能性もあります。「こういうことができる」というポジティブな面をアピールして進めていかなければいけない。今デジタル化を進めないと日本の将来はないと思っています。政府のデジタル化は、世界から見てもちっとも進んでいない。日本はかつて「技術がすごい」と言われたけれど、今は世界が変わり、日本が遅れている。デジタル化は日本の存在をもう一度世界に知らしめる、切り札だと思います。

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災害を生き延びるためのデジタル活用

【谷本】危機感の無さは国がDXを使って、「こうなりたい」というビジョンがないからなのか。

【安宅】問いの方向性が正しくないと思います。デジタルやデータは「電気が使えるようになった」というのに近いレベルの技術革新です。あらゆる産業や領域が変わり、組み変わっていく。産業の壁は崩れ、「主たるプレーヤー」が入れ替わっているのを、日常生活でスマートフォンを使いながら、私たちは日々、体験している。

ですから、「デジタルでどうするか」と言っている場合ではない。昨年末から5月まで国のデジタル・防災技術ワーキンググループ未来構想チームの座長として集中検討しましたが、これから先、ますます増える災害やパンデミックに備えた社会を作る必要があります。できなければ、社会がこのまま生き延びられない可能性もある。そのためにデジタルも含め、技術を全活用しなければならない。いかにして生き延びるかが問われている側面で、あらゆる産業を刷新することが求められている。民間と公の力をつなぎあわせ、デジタルの力で想定し、課題に立ち向かっていく。子や孫の世代のために、私たちがそれをやらなければならないのです。

【加治】安宅さんの指摘は全人類にとって共通の問題意識です。デジタル化を考えるにしても、企業戦略のみならず、安全保障などの外交的な視点、気候変動といったグローバルな視点も入れていく必要があると考えています。

【村上】災害について話が出ていますが、損害保険の会社はデジタルから遠いと思われるかもしれません。これまで、保険料を算定するのに統計学を用いていました。これからは過去のデータだけ見るのではなく、未来を予測するために、デジタルを利用する必要があります。

もうひとつ、私は情報支援レスキュー隊というボランティア団体で、ITによる災害復興を支援しています。一刻を争う救助活動もそうですが、被災してから元の生活に戻るためにも情報が必要です。しかし、国、ボランティア、損害保険の会社、被災地に来る企業のそれぞれの活動データが共有されていないのです。こういった状況もデジタル化を進められたらと思います。

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【谷本】目の前の課題に対してデジタルを使って解決する。そのために、どう推進していきますか。

【安宅】石倉さんも説明されていましたが、デジタルは「つなぐ力」と同時に、「溶かす力」も強い。ですから組織も、業務も粉々にするのがポイントだと思います。すなわち「粉々able(コナゴナアブル)」にして、必要なものから作っていって、ゲリラ的に実行する。今までにあったような、壮大な設計図を要するグランドデザインを作る方法ではなかなか実現ができませんから。さらに情報は徹底的に標準化して、つながるようにする。キーワードは「ゲリラ」と「標準化」です。フェイスブックの以前のモットー”Move fast and break things.”(素早く行動し、破壊せよ)にも通じます。

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指示を待たずゲリラ手法でやってみる

【谷本】最後に皆さんから、「DXを進めるためにこれが必要」というキーワードを書いていただき、メッセージ、アドバイス、ヒントなどお願いします。

【村上】「インクルージョン」。日本企業はこれまでモノリシック(一枚岩)でやってきたのが、デジタルトランスフォーメーションをするためにデジタル人材を登用し、ダイバーシティによって取り組む必要性が出てきました。多様な人材を認め合い、一体感を持ってやっていけるか、「インクルージョン」が、DXを成功させるカギになるのではと思います。

【加治】「越境し、接続する」
日本国内のことだけを考えていくと、成長が難しくなっているなか、海外に越境して接続していく。また組織内でも縦割りを打破するために隣の組織に越境して行く。横に繋がりながら、縦の壁を壊し、 「粉々にしてもう一度作り直す」という発想で、海外で成長し、国内に成長を取り込んでいったり、組織内を活性化していくことを考えてみてはいかがでしょうか。

【石倉】「新しいことを毎日試す、やめることは何か?を考える」
「昨日が今日」、「今日と明日」が同じだったらつまらない人生でしょう。毎日新しいことを試す。これが簡単にできるのがデジタルなのです。それと同時に、「やめる」ことも考えなければ、同じことをずっと続けてしまうことになる。新しいこととやめることを、組み合わせて考えるのがよいのではないかと思います。

【安宅】「新しい酒は新しい袋に」
大企業が多いというので、書き直しました。「新しい酒は新しい革袋に盛れ」ということわざがあります。新しいものを活かすには、新たな形式や形が必要です。巨大企業というのは何百年も続くうなぎ屋のようなものなのです。そこに何を入れても、その店の味になる。それでは作るべき未来が作れません。これまでの習慣に基づいて同じことをしていてはいけない。大企業の余力をもって新しい袋を作って、新しい取り組み、すなわち「粉々able」させたものを入れていく。それでも残るものがこれからの未来です。

【谷本】大企業向けに書き直す前は、どんなメッセージでしたか?

【安宅】「粉々にする。ガタガタ言わずやる。Do ゲリラ!!」
指示を待たずしてやる。くねくね言わずしてやる。文句言わずにやる。そうして「すみません、やっちゃいました」と言ってできたものを持ってきたら、「素晴らしい。君は素敵すぎる」となるのがデジタルです。なんと言ったって、「Do ゲリラ」。これに尽きます。

【谷本】村上さんが拍手していますが、その通りですか。

【村上】まさにその通りで、自分の頭で考えて、やってみる。そうしたら、責任は上司が取ります。それが大企業で足りないと思っています。私も大企業の一員なので、心に留めます。

【安宅】私もなかば大企業の一員ですけれど、皆さん、そんな感じでやりましょう。好きにやりましょう。そして未来を変えましょう。

【谷本】皆さんもDXを「自分ごと」としてDXの時代で生き抜いて、DXを推進していただきたく、今日のセッションがまた一歩につながればと思います。パネリストの方たちのご意見を明日からの糧にしてください。ありがとうございました。

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構成:猫村 りさ
編集:武藤 雅和、福井 崇博
デザイン: McCANN MILLENNIALS
撮影:伊藤 淳
グラレコ:大住 早
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