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管理職に求められるものとは─新世代リーダーへの条件─(後編)【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:PEOPLE④】

ビジネスのあり方が激変する中で、管理職に求められる能力も変わってきている。Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子さんをモデレーターに、経営共創基盤共同経営者の木村尚敬さん、立教大学経営学部助教の田中聡さん、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之さんに新世代リーダーの条件を話していただきました。後編では、前編を踏まえ管理職が変革していくための方法論について熱い議論が展開されました。

【登壇者】
■経営共創基盤 共同経営者 マネージングディレクター 木村尚敬さん
■立教大学経営学部 助教 田中聡さん
■東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 柳川範之さん

【モデレーター】
●Business Insider Japan 統括編集長 浜田敬子さん

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■「認知的な信頼」と「情緒的な信頼」

【浜田】管理職の地位を変えるためには人事を含めた社内の制度改革が必要だということはよくわかりました。では管理職自身はどう変わればいいのでしょうか。彼らが参考にできる愛に満ちた助言をいただけるとうれしいです。

【田中】先ほどの話に関連すると、部下から上司に対する信頼にも2パターンあることが研究からわかっているんです。1つは「認知的な信頼」。この上司は有能だと認知しているのがそれです。2つ目が何かあった時に頼りたいと思える「情緒的な信頼」です。

実は部下のパフォーマンスを上げられる上司は、部下が情緒的に信頼を寄せるタイプだということが研究から分かっています。なぜなら、部下が仕事で困っている時に、上司に困っていると素直に言っても不利益とならないと思えるからです。上司を人として信頼し、悩みをすぐに打ち明け、解決できることが仕事のパフォーマンスを高めるということです。

情緒的な信頼を得る上司になるためには、上司自身が周囲に対して常にフィードバックを求めていたり、悩みを含めて周りに発信することが大事。その行為によって、部下がこの上司は情緒的に信頼できると判断するのです。

よって、完璧な上司になろうとせず、自分自身から悩みや弱みをしっかり開示して、自分ごととして仕事や上司・部下と対峙することが重要なのです。

【柳川】確かに管理職自らどんなことを考えているか、何に悩んでいるか、何に困っているか、何を重視しているかなど、本音をもっと声に出すべきです。

特にコロナ禍によるリモートの労働環境においては、空間を共有していればわかる何となく大変そうだなとか苦しそうだなということが察知できないので、リモートの環境になればなるほど上司や部下とお互いに思っていることや意見を出し合うことが非常に重要です。

■自分自身をモチベートするための2つの方法

【田中】加えて、疲弊している管理職が自身をよりモチベートさせるためには2つの視点があります。まず1つは、原点に立ち戻ること。今、大企業はあまりにも組織の規模が巨大化したり、創業経営者がいなくなったりして、その原点が見えづらくなっています。ゆえに仕事として管理職を担っている人は多いけれど、生きがいとして担っている人は少ない。それでは前向きに仕事に取り組むことはできないし、何より楽しくないですよね。そのために、社史を振り返って、会社が本来大切にしている原点に立ち戻ることをおすすめします。

2つ目は管理職の仕事をやりたくてやっているのかということを自分に問いかけてみること。多忙すぎる管理職にとって最も足りなかったのは時間で、そんな暇も余裕もなかったと思いますが、奇しくもコロナの影響でリモートワークになったことで時間が生まれたはず。この時間を使って、自分が本来やりたかったことは何か、どのような思いをもってこの会社に入ったのかを今一度、採用試験を受けた時の志望動機を見返して思い出してみてはいかがでしょうか。この2つで、モチベーションは向上すると思います。

■ザ・昭和の管理職を脱却するには

【浜田】昭和の時代を知らないにもかかわらず、昭和的な感覚を受け継いでいるのが今の管理職だと思います。しかしこの令和の時代、そんな感覚をもっていては管理職としてやっていけないでしょう。昭和な管理職はどのように自己変革すべきだと思いますか?

【木村】まさに田中さんのお話にあった、苦しくても声を挙げられない、上にも下にも忖度しなきゃいけない、スキルがないから転職もできないというのがザ・昭和の管理職。社内の仕組みに精通し、調整能力が極めて高いけれど、外の世界に出れば全く勝負ができないメンバーシップ型の人材。確かにこういう人たちはどこの企業にもたくさんいます。

今、人事制度をジョブ型に変える企業が増えていますが、そうなると管理職はユニバーサルなスキルを身につける必要があります。そうすれば上司と勝負できるし、いつでも転職できる自信もつくので会社に忖度しなくてもいいし、従属的になる必要はなくなります。そういう意味でも、管理職はいくつになっても成長欲求をもち、学び続けなければならないでしょうね。

【浜田】とはいえ、管理職は目の前の部下をいかにうまくマネジメントして、チームとして業績を上げるかで精一杯で、自分の成長、市場価値の向上は一番後回しにならざるをえません。それが結果的に後ろ向きな姿勢になって、昭和的な価値観や会社にしがみついて部下を苦しめるという悪循環に陥っている可能性もあります。管理職自身のキャリアはどう考えればいいのでしょうか。

【柳川】部下を引っ張っていく上でも、管理職が自分自身の目標、重要視すること、必要な能力などを明確にすることが大事な時代になっていると感じています。

これが昭和的かどうかはわかりませんが、管理職は真面目であればあるほど部下のことを考えて全部自分でやってしまいがちです。それが結果的に、部下が方向性を失ったり、成長を阻んでしまう1つの要因になっています。

■管理職は出世の一過程ではなく、専門職だという意識

【浜田】これからリーダーや管理職を目指す若手世代が今から実践しておいた方がいいことや心掛けておくべきことは?

【木村】これから増えるのは、正解のない世界で即断・即決しなければならない仕事です。これを行うのはトップになってからでは遅すぎて、かなり早い段階からこの意識を持つべきです。そのために、すべて上司の判断を仰ぐのではなく、自分の意思・意見を明確に主張することが重要。これは新卒1年目も管理職も同じで、この自らのポジションを明確に取るという訓練を若手のうちからやっておけば、管理職や経営者になった時にとても役に立ちます。

【柳川】管理職は出世の一過程ではなく、専門職だという意識をもつことです。専門職としての能力とはトップの目線に立てること。もし自分がトップだったら今何が大事で何をすべきなのかと常に考えてください。

それと、これからの時代は今の会社に所属し続けるしかないというしがみつき型では苦しくなるでしょう。会社の外に出た時にどこまで通用するかという視点をもち、専門的なスキル・能力を身につけることが大切です。

とはいえ、決して転職を勧めているわけではありません。むしろ、外に出ても生き残れる自信をつけることで、今いる会社でしっかり言いたいことを言えて、やりたいことがやれるようになる。あるいはしがみつき型の弱気で後ろ向きな意思決定ではなく、会社や部下、自分にとって有益なことを提言できるようになるのです。

今これを聞いている若手の皆さんはこのような発想と能力をもって、大きな時代の変化に直面しているという意識をもち、それをチャンスにしていただきたいです。

【田中】管理職になった時に一番苦労するのは、自分とは違う価値観をもっている部下の強みをうまく引き出し、組織として目指すゴールに向けて結果を出すこと。

しかし、今の管理職の多くは業績が評価された人たちなので、間違いなくプレイヤーとして優秀なのですが、メンテナンス(部下の育成)など、本来管理職に必要なスキルはほとんど身につけられていません。

だから、プレイヤー時代から、価値観の違う人をうまくリードできる術を身につけるために、社内の実践経験だけではなく、社外の専門機関、例えば大学でマネジメントを勉強するなど、メンテナンスについてしっかり学んでおくことをおすすめします。

【浜田】取材を通して感じるのは、ポストコロナで働き方が変わりつつある時代、管理職の変革が求められている一方で、管理職はその変革に対しての悩みも一人で抱え込んでしまいがちです。管理職が悩みを言える場所がないというのはまさに田中さんや柳川さんのご指摘の通りだと感じます。彼らが自己変革してより自由に主体的に楽しく働けるようになると、会社も社会も大きく変わると思います。そのためにも改めて管理職の改革は必要だと感じました。3人の専門家の愛のある言葉で、管理職も勇気づけられたり救われたでしょうし、これから管理職を目指す若手も貴重な指針を得られたと思います。ありがとうございました。

■パネルディスカッション 「管理職の役割はどう変化したか」

セッションの後半は、ミドルマネジメント層の参加者3、4名ごとのグループに分かれ、パネルディスカッションを開催。テーマは「ポストコロナ時代の管理職の役割がどう変化したか」。ここでは、その中の1グループの様子を紹介する。

【参加者】
富士ゼロックス 全社改革室 次長 松井陽二さん
東洋製罐グループ シンガポールFuture Design Lab 渡部篤さん
東急 フューチャー・デザイン・ラボ 統括部長 御代一秀さん

【ファシリテーター】
東急/水曜講座 秋山弘樹さん

【秋山】ポストコロナ時代の管理職の役割がどう変化するか。必要な能力や見えてきた課題など、結論が出ていないことでも構いません。ご見解をお聞かせください。

【御代】コロナ前から求められていた変革が、コロナによって加速し、差し迫っていると感じています。また、働き方がリモートワークに変わったことで、部下のマネジメントや評価の仕方がより難しくなったり、生産性をどう向上するかなど、一度に様々な課題に直面しています。

【渡部】私は現在、シンガポールに駐在してフューチャーデザインラボという部署にいますが、もともと海外部署は本社からすると「出島」のような部署なので、意思の疎通や現地での事業の理解を得ることに苦労していました。今回、強制的に仕事のオンライン化が進んだことによって、逆に本社とのオンライン会議などコミュニケーションが加速し、連携がしやすくなったという側面もあります。

これまでは同じオフィス内で、本人の状況や雰囲気を見て働きぶりや進捗状況などが把握しやすかった。でも原則リモートになることでその判断がしづらくなったため、明確な報告や基準などがより一層求められる時代となりました。

【松井】変革、育成、計画など、管理職に求められる使命が多岐に渡るようになり、非常に難しい時代になったと感じています。

■正しい問いを立て、胆力をもちやり遂げる

【秋山】前半のセッションで田中さんから「管理職にはP(計画)、M(メンテナンス・マネジメント)、I(イノベーション)のすべてを求められる時代であり、非常に難しい役割になっている」というお話がありました。まさに先ほど松井さんがおっしゃったことですが、あえて言うならばみなさんとしてはどれに注力し、どれをやらないべきとお考えですか? 会社の代表としてではなく、一個人としてのご見解で結構ですのでお答えください。

【松井】若手でも入社数年経つとだんだん自分で仕事の仕方や計画の立て方などがわかってきます。だからこそ、特に新人のフォローなどは注力し、管理職として人材育成をする必要があると考えています。

【渡部】そもそも大企業の管理職になる人は、基本的に上記の能力はあり、だいたいのことは自分でできる人材だと考えています。それをきちんと実行するのが、管理職のあるべき姿です。

【御代】管理職としての役割を絞るのはなかなか困難ですが、やはり答えがない時代だからこそ「企業風土を変えること」や「率先して旗振りをし、方針を示していく」ことは大事だと考えています。また、上と下をつなげる中間層として、「胆力」をもって粘り強く取り組むことも必要でしょう。

【渡部】そういう意味では、管理職の重要な役割は「正しい問いを立てる」ことなんでしょうね。

【秋山】コロナによって、これまで管理職に求められていたものがより急速に迫られる中で、管理職としては大きな視点で「企業風土を変える」「旗振りを行う」、つまりは「正しい問いを立てる」に加えて、細やかな視点で「新人のフォローなどの人材育成」なども幅広く行うことが必要。そしてそれらの多様なタスクをあきらめず「胆力」をもってマネジメントすることこそが、 管理職としてのあるべき姿、というお話でした。若手にあたる私からは、改めてみなさん管理職はとても頼もしい存在だと感じました。

さらにアフタートークでは、管理職の立場から若手社員に伝えたいことを雑談形式で話し合った。

【御代】開き直るわけではないですが、誰も正解が分からない時代になっているので、もちろん我々も考えつつ、若手の方々もぜひ管理職の私たちを上手く活用してほしいです。

【松井】ONE JAPANには若手の方が多数いると思いますが、彼らにとって管理職は話しやすいですか? それとも壁になっているという印象ですか?

【秋山】正直、管理職の方の人柄によるところも大きいと思いますが、今日お話ししたお三方はみなさんとても話しやすく、風通しもよいと感じます。なので「管理職は味方である」と認識している人が多いと思います。

【渡部】そうですね。我々からしても、さらに上のレイヤーや、同じ管理職の横レイヤーも、結局はその人によってやりやすさが違うと思っています。

【秋山】そういう意味では、結局は仕組みだけでなく、「人そのものを見る観察眼」はいつの時代も全社員が鍛えなくてはならないのですね。

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前編はこちら

構成:山下 猛久
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ:本園 大介

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