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日本のトップランナーが語る、社内から新規事業を量産するために必要なこと 【ONE JAPAN CONFERENCE 2021公式レポート: VALUE③】

新規事業をたくさん生み出す会社には、事業開発のすぐれた「しくみ」がある。本セッションでは、リクルート、ソフトバンク、NTTドコモの新規事業開発のキーパーソンが登場。今、しくみで新規事業を生み出す会社では何が起きているのか。コロナ禍の影響やアフターコロナの戦略とは?
新規事業創出支援を行うアルファドライブ・麻生氏のモデレートで、新規事業の「しくみ」の現在地を見出す。

【登壇者】(敬称略)
・笹原優子 / 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長
・佐橋宏隆 / SBイノベンチャー株式会社 事業推進部 部長 / STATION Ai株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
・渋谷昭範 / 株式会社リクルート 経営企画室 Ring事務局長
・麻生要一 (モデレーター) / 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

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新規事業を「しくみ」で生む3社

【麻生】このセッションでは、大企業のなかから新規事業を「しくみ」で生み出すトップランナー3社に話を伺います。モデレーターは、58社6,800チームの企業変革を推進するコンサルティングカンパニー、アルファドライブ/NewsPicks CEOの麻生です。早速ですが、みなさんから簡単に自己紹介をお願いします。

【渋谷】リクルートで新規事業提案制度「Ring」の事務局と、事業開発部の責任者をしている渋谷です。NTT研究所を経てベンチャー企業やリクルート、ソフトバンクなどに勤め、また出戻りで2017年にリクルートに入りました。

Ringは1983年にスタートし、「ゼクシィ」や「スタディサプリ」、事業譲渡をしましたが「R25」などもこの制度から生まれました。スケジュールは約1年間、エントリーを受け付け、書類審査後に、ブラッシュアップ期間と2回の審査を経て、アワードで表彰を行います。評価の観点は、提供価値・市場性・事業性・優位性です。期間中は専門部署が起案 チームに併走します。

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よく「Ringは組織文化ですか?事業制度ですか?」と聞かれますが、私たちの答えは「どちらも」です。おいしいワインが良い土壌で育てた葡萄から作られるように、いい事業が生まれる土壌を耕しつつ、新しい事業を生み出す。それを念頭に制度を作っています。

【笹原】NTTドコモおよびNTTのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)であるドコモベンチャーズの笹原です。1995年に新卒入社して以来ドコモ一筋で、iモードの立ち上げや新規端末の企画など、一貫して新規事業周りを担当しています。

2014年からは、新規事業創出プログラム「39works」の運営に従事し、プログラムから派生して、社内ベンチャー制度の設立や、グループ社員向けの事業開発に向けた講座の開講にも携わりました。現在はCVCの代表として、主に外部のスタートアップ投資をしています。

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39worksはいわゆる社長や役員直下のプロジェクトではなく、社内のR&D部署から派生し、全社的な取り組みになりました。その視点も交えてお話できたらと思います。

【佐橋】ソフトバンク株式会社の100%子会社であるSBイノベンチャーの佐橋です。ソフトバンクグループ内での社内起業の推進や、一部外部のスタートアップに対してインキュベーションも行っています。ソフトバンクは0→1というよりも1→100の考え方で新規事業創出に取り組んでいますが、2011年にスタートしたこの「ソフトバンクイノベンチャー(=社内起業制度)」は「0→1」に特化したしくみで、内起業家にとっての準備機関であるイノベンチャーラボには現在5,200名ほど登録者がいます。

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ソフトバンクイノベンチャーでは、最終審査を通過すると年間500万円 ほどの予算がつき、事業の拡大にあわせてVC(ベンチャーキャピタル)と同じように経営や資金の支援を受けられます。常時約20プロジェクトが事業化に向けてこのプログラムで活動をしていますね。

【麻生】長く新規事業界隈にいますが、今回の3社は特に完成度の高いしくみを作っていると感じます。今日は突っ込んだお話を聞くために、いくつかトークテーマを持ってきました。ぜひ、順番に話を伺えればと思います。

テーマ①: コロナ禍は、新規事業にどんな影響を与えた?

【麻生】まずは、直近のコロナ禍で新規事業開発にはどのような変化があったかを教えてください。

【渋谷】2つの変化が思い浮かびました。1つは、「不」への理解が深まったことです。リクルートは、社会の「不」を解決するビジネスを掲げていますが、今回のコロナ禍によって社会のさまざまな「不」が浮き彫りになりました。なので、これまで以上にリアリティのある「不」の解決の提案が増えた気がしますね。

もう1つは、チームづくりの難しさです。Ringでは、2年前からチームでの応募をマストにしていますが、コロナ禍はオンラインでなかなかチーミングが難しかったという話を聞きます。札幌と大阪のメンバーでチームを組むようになった等、オンラインのポジティブな面もありますが、やはりハードルが高いようです。事務局としては、Zoomのブレイクアウトルームなどを活用し、会話が生まれるような環境づくりを意識しています。

【笹原】我々も、コロナ禍で応募が減らないか不安だったのですが、結果、昨年と同じくらいの応募が集まりました。全社的にSlackが導入されたことで、部署・地域に関係なく平等に情報が出せたのが大きかったです。リクルートさん同様、チーミングの難しさは感じますが、「アカデミー」という新規事業開発のスクール制度をオンラインで立ち上げたので、いつもとはひと味違う社員同士の交流が生みだせたと感じています。

【麻生】スクール型で手厚くサポートするのはいいですね。ソフトバンクイノベンチャーはどうですか?

【佐橋】プログラムの勉強会を一斉にオンライン化したので、地方からの参加者が増えたのは良かったポイントです。それから、ソフトバンクイノベンチャーでは社内SNSツールで登録者5,200名のプロフィールや経歴が見られるので、そこから交流が多く生まれているのもコロナ禍での新たな傾向でしたね。

テーマ②: ポストコロナを見据えた社内企業戦略

【麻生】コロナ禍に関してもう一問。全国的にワクチン接種も進み、アフターコロナも見えつつありますが、今後の戦略をどう描いていますか?

【佐橋】ソフトバンクイノベンチャーでは引き続き、オンラインとオフラインを組み合わせてハイブリットにプログラムを作る想定です。勉強会などはオンラインで開催しつつ、チームアップやアイデアを深めていく際はリアルの場を用意したいと考えています。それから、顧客ヒアリングですね。やはり顧客と向き合い、課題を見つけていくフェーズでは、リアルをうまく活用できるようにしたいです。一次情報をどれくらい得られるかが大事ですから。

【渋谷】Ringも同じく、ハイブリット開催を計画しています。コロナ禍によって多くの「課題」が新しく顕在化しました。それら足元の課題解決のビジネスプランの募集もさることながら「社会は大きく変化することがある」という事実を踏まえて、より広い視野や先を見越した視座からの事業構想レベルの粒の大きなプランが集まるように、盛り上げていきたいと思っています。

【笹原】基本的にはドコモもハイブリットの想定です。ポストコロナは、より立ち上げを垂直に行っていく必要があると感じています。渋谷さんのおっしゃるように、環境が大きく変化する可能性が高いので、よりスピード感をもって素早く柔軟にPDCAを回していく必要があると考えています。

テーマ③: 社内起業と「中間管理職」

【麻生】次は、別の角度から質問をしたいと思います。新規事業のプログラムを運営していると、社員のリソース配分などを理由に、既存事業の上長、特に中間管理職から難色を示されるケースがあると思います。みなさんは、どのようにケアして進めていますか。

【渋谷】リクルートでは40年弱の新規事業開発の歴史があるので、逆に難を示すほうが「かっこわるい」風潮がありますね。むしろ、Ringへの参加を積極的に促して、応援してくれる中間管理職が多い気がします。

【麻生】そもそもカルチャーとして根付いていると。素晴らしいですが、あまり参考にならないかもしれませんね(笑)。

【佐橋】リクルートさんほどの歴史はないですが、ソフトバンクでも1人、また1人と成功例が増えることで、社内からの目線もよりポジティブに変化していった感覚がありますね。最初はリソースの不足を気にしていた既存部署も、次第に「イノベーターを生み出している」自負が生まれるというか。

【麻生】それはありそうですね。ドコモはいかがですか?

【笹原】NTTは人事とプログラムを共同開催して、既存部署をうまく巻き込むような働き方をしましたね。人事が絡むことで、社員のリソース調整もスムーズになったと思います。ただ、既存部署の気持ちもよくわかります。私の部下がプログラムに参加することになり、すごく嬉しいけど、一方で通常業務のリソース配分の心配が脳裏をよぎったりしました(苦笑)。自分の経験も踏まえて、既存部署とも丁寧にコミュニケーションを取りたいと思います。

【渋谷】1つ参考になりそうな事例があります。リクルートで最近はじめた「Ring Meet」という制度があります。新規事業の壁打ちに、新規事業開発の経験者だけでなく、既存部署で活躍された人を指名できるようになっています。既存事業のエース社員が壁打ちしているので、「あの人が応援しているなら」と、ナチュラルに既存部署も巻き込める副次効果もありそうです。

【麻生】自然に既存部署から応援されるしくみを作る、と。実践的で面白いですね。

テーマ④: 今、社内起業すべき?

【麻生】最後のテーマです。ずばり今、社内起業をすべきか。みなさんの意見をお聞かせください。

【笹原】では私から。これまで26年働いてきて、最近はじめて社長になりました。その身で感じるのは、若いうちから経営の経験を積んだほうがいいということです。間違いなく視座が上がるので、強く社内起業をおすすめします。社外を含めたハイレベルな同世代との交流が増えるのも魅力です。

【佐橋】同感です。ビジネスパーソンとしての足腰が圧倒的に鍛えられるので、迷っているなら飛び込んでほしいですね。特に、コロナ禍や、他にもカーボンニュートラルなど、今はわかりやすく事業のオポチュニティが見えているので、ぜひチャレンジしてみてください。

【渋谷】そうですね。それから、ぜひ失敗を恐れないでほしいな、と思います。今でこそ「スタディサプリ」はリクルートの看板事業の1つになりましたが、実は、起案者は、それまでに6回もRingに挑戦しているんです。 それくらい、うまくいく新規事業のアイデアを出すのは難しいものです。今話題の日本ハム新庄監督の言葉ですが、「努力は一生、本番は一回、チャンスは一瞬」、いつ自分の本番のチャレンジになるかはわからない。だからこそ、このセッションを聞いてくださったみなさんには、ぜひ打席に立ち続けてほしいですね。

【麻生】いくつもの新規事業を送り出してきた視点からこその力強いメッセージですね。コロナ禍など環境の変化もありますが、今後も事業開発の「しくみ」からどんな新規事業が飛び出すのか、私個人としても非常に楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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構成: 高橋 智香
編集: 冨依 勇佑、香西 直樹
デザイン: McCANN MILLENNIALS
グラレコ: 三瓶聖奈(せな)

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