見出し画像

オゾンホール

紫の輪を幾度となく潜り抜けて、何故か知っている場所に辿り着く。土色の乾燥した岩肌は、背丈ほどの穴がまばらに繰り抜かれていて、その中の一つを選んで中へと入っていく。
逃げ惑う人々の中で、追い立てられるように走る。自分だけが素っ裸で、いったい何が起こっているのかわからないまま、懸命に足を動かす。雲の上を駆けるように、残酷にも下半身が空回る。黒くて濃い異空間が迫りくるのは、背中で見えていた。それはおそらくコンクリートの津波ともいえる。
進まない、進まなくとも足掻くしかない。段々と視神経が奪われていく。平衡感覚が危うくなり、生身で揺蕩う宇宙はこんなにも恐ろしいかと思うと戦慄せざるを得ない。
突然宇宙が終焉を迎える。漠然とした白が視界を覆い、呼吸と心拍数が身体の輪郭を形作る。辟易するには、それで十分だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?