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ヤバTは日本を(少し)救う

ヤバイTシャツ屋さんの代表曲「あつまれ! パーティーピーポー」を初めて聴いたのは2017年、私が大学でバンドを組んでいた頃だった。

「また新しいバンド出てきたのか、歌詞にメッセージ性もないし流行りってわからんなあ」

そう思ったのを覚えている。今思うと大変失礼な話だが、それから1年後、私はヤバTに救われ、さらにそこから3年後、私は単身ワンマンに乗り込むこととなる。それは、ヤバTの多角的な「ヤバみ」に圧倒されたからであろう。
まだまだ顧客歴の短い私ではあるが、何故ヤバTはここまでの人気を博すようになったのか、私なりに8つのポイントから分析していきたいと思う。

1. 歌詞

まずヤバTを語るうえで避けて通れないのは、そのユニークな歌詞である。その歌詞には、はっきり言って意味のないことも多い。「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」では本人たちが「歌詞ちゃんと読んでくれてるのなんて君くらいだよサンキュー」と言ってしまっているくらいである。

正直私もヤバTに出会うまでは歌詞のメッセージ性至上主義者だった。しかしヤバTに出会って1年後、タイ留学中にタイ人クラスメイトの会話についていけず悶々としていた頃に、YouTubeのおすすめに出てきたヤバTの曲を聴いて思ったのだ。
「歌詞にメッセージ性がないほうが音楽がすっと入ってくるなあ…」
言葉を意識的に聞かなければならないストレスに荒んだ心には、ヤバTの楽曲はポカリスエットばりに沁みた。その節はありがとうございました。
加えて、歌詞をよく聴いてみると、メッセージ性がありそうでないという絶妙なラインなのがまた凄い。「肩 have a good day」なんか、「肩幅が広い人の方が肩幅が狭い人よりも発言に説得力が増す」という励ましてるんだかなんだかわからないことを言っている。このこやまさんの類稀なる繊細さには、顧客としてはいつも「やられたなー」と思わされるばかりである。

2. メロディライン

これは私が取り沙汰することでもないが、ヤバTのメロディラインはとにかくキャッチーである。「ハッピーウェディング前ソング」の「キッス! キッス! からの入籍! 入籍!」なんてその最たる例だろう。もうライブで叫ばせる気満々である。

しかし不思議なことに、他の曲もヤバTらしさこそあるものの、飽きが来ない。それはひとえにヤバTの引き出しの多さゆえだろう。合いの手一つ取っても、「NO MONEY DANCE」では「fact!」「fat on!」など通常では考えられないフレーズを次々と顧客に叫ばせようとしてくる。顧客も飽きが来る前に合いの手を覚えることで大変なわけである。それでもキャッチーがゆえにフレーズがすぐ入ってくるのは天晴れと言う他ない。

3. ボーカル

編成はよくあるスリーピースバンドだが、ギターのこやまさんだけなくベースのありぼぼさんもばっちりボーカルをこなすのがヤバTの特徴である。男女のツインボーカルだとトータルの音域も幅が広く、一曲における変化が大きい。しかもボーカルの技術が凄まじく、例えば「げんきもりもり! モーリーファンタジー」ではサビの冒頭、とんでもない速さで「森森森森森森森」と捲し立てるくらい早口である。

おまけにこやまさんはデスボ、ありぼぼさんは超絶ハイトーンボイスが出るので引き出しが多すぎてこの人たち超人かと思うことも多い。

4. 音楽性

こんなにふざけた歌詞だしキャッチーな曲を量産しているのに、ヤバTの真髄にあるのは実はパンクロックである。「Tank-top festival in 2019」等、ヤバTのアルバムのリード曲にtank-top系の曲が必ずと言っていいほど収録されているのは、ヤバTなりのpunk-rockへの愛であり、プライドなのだと感じる。
逆に言えば、普段パンクロックを聴かない層にとっては、ヤバTがパンクロックへの入口になるわけで、国民の音楽性を広げたという今でもヤバTの功労はとても大きいと思う。

5. MV

ご存知の方も多いかもしれないが、岡崎体育の「MUSIC VIDEO」のMVを監督した「寿司くん」はこやまさんである。つまりこやまさんは映像分野にも造詣が深く、ヤバTのMVも寿司くんが監督を務めている。これはこやまさんが大学時代に映像学科で学んでいたからであるが、こんなに大学で修めたことを活かして働いている人がいるだろうか。

もちろん、その映像のクオリティも非常に高く、例えばヤバTのMVでは「かわE」のように一発撮りをすることが割とある。一発撮りはその労力に見合うだけのインパクトを持っていることを、きっとこやまさんはわかってやっている。これは術中にはまるわけです。

6. テーマ性

大抵の場合、楽曲のテーマは「愛」「悲しみ」など、抽象的なことが多い。それはより多くのリスナーが自分に置き換えて曲を聴けるようにするためであり、合理的な手法だと思う。
ヤバTはその真逆を行っている。「無線LANばり便利」なんてまさにそうで、とにかく具体的である。

具体物をテーマにするといいことは、テーマが尽きないことである。たぶんヤバTは身の回りの物でなんでも曲が書けると思う。なんなら大学時代の最寄り駅のことを歌った「喜志駅周辺なんもない」なんて曲すらある。

7. 「癒着」

具体物には固有名詞、つまり企業の商品等を含む。どういうことかというと、ヤバTは堂々とその商品関連の情報を歌詞に織り込んだ曲を作ることも往々にしてある。「泡 Our Music」はいち髪のCMで使用されていたが、歌詞中に企業名の「クラシエ(Crush it!)」を潜ませる等、言葉遊びが本当に巧みである。

これによるPR効果は絶大で、もはや経済に貢献していると言っても過言ではないだろう。こうしてヤバTは数多くの企業と「癒着」している。もはや癒着が高じて「癒着☆NIGHT」なんて曲も出しており、この中でも堂々とスプライトが出演している。

8. メンタリティ

最後に語るべきは、ヤバTが持つ「アツさ」である。ライブのMCでもボケ倒すことの多いヤバTだが、その芯に持つ熱量は尋常ではない。最新アルバム「You need the Tank-top」のリリースにあたっては、この配信で音楽が聴ける時代で、どうしても細部まで拘ったパッケージを手に取ってほしい、CDを売りたいという思いから、なんと事前に予約のあった43,000枚のCD全てに、直筆のサインを書くという偉業を成し遂げた。これにより直筆サインの価値が暴落し、転売ヤーも撲滅できるという裏目標も達成された。本当に涙ぐましい。
この真っ直ぐさが(おそらく)買われて、こやまさん、ありぼぼさん、もりもとさんの3名はそれぞれ地元の観光大使を務めている。もはや社会にまで影響を与えている、と言ってもいいかもしれない。それほどの頼もしさがヤバTにはある。

以上8つのポイントからヤバTを分析してみたが、いかがだろうか。こうして冷静に考えてみると、ヤバイTシャツ屋さんというバンドのポテンシャルはあまりに高く、その力で精神的・経済的・社会的に日本を救えるのではないかと、私は(少し)本気で思っている。
というわけで、もしヤバイTシャツ屋さんというバンド名で食わず嫌いをしている方がいたらそれはもったいない話なので、ぜひこれまで挙げた曲を一度聴いてみてはいかがだろうか。「顧客歴も短いって言ってるし、お前の言うことなんて説得力ないぞ」なんて言われるかもしれないが、

…それは肩幅が狭いせいということで。

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