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ONE ROOM ART 第2弾アーティスト紹介(丹原健翔)

ONE ROOM ART 第2弾のセレクションを担当したインディペンデント・キュレーターの丹原健翔さん。今回、6名のアーティストをセレクトいただきましたが、その意図や各作品の見どころ、背景について伺いました。

部屋の中に、「窓」をつくる

空間というものを挑戦的に扱い、じっくり見れる作品を作るアーティストを選びました。特に、自粛によって自宅を中心とした空間の使い方が問い直されている今、室内・屋外、枠内・枠外、といった空間の扱いを、絵画を通して向き合い、美術館などでは必ずしもできない鑑賞体験をもたらす作品を制作するアーティストに出品をお願いしました。アーティストのアイデア、扱う素材へのこだわり、テクニック、それらを通して部屋の中に「窓」が生まれることを想像しました。

美術館と自宅、圧倒的な鑑賞体験の違い

アートといえば美術館、ギャラリー、白い壁に飾られて鑑賞するものという前提とされる環境の固定観念があり、そのスペースはあくまで作品を観るために作られていることが多い。一方で、歴史的にもアート作品は既存の空間を彩ったり変える力をもつから大事にされてきました。教会に宗教画が飾られたり、屏風絵に自然を取り入れたり。そしてその力は日常的にその空間と触れて初めてわかることが多く一見難解や単純にも思える作品も毎日観ていると新しい側面を見せてくれることも一つの価値だと考えます。

その観点を意識した時、美術館という空間に足を運んでアートを鑑賞するのと、自宅で所有するっていうのは、まったく違う響き方をするんですよね。

美術館だと、(作品を観る時間は)だいたい1分間とかじゃないですか。それが自宅にあると、絵画がそこに「在る」っていう状況が際立つ。当たり前だけれど、作品買っている人しか経験できない醍醐味だと思います。

---それぞれのアーティストの作品について、注目すべきポイントは?

アーティスト①安野谷昌穂

安野谷昌穂さんは自然や光をテーマに、いろいろな技術を用いて制作しているアーティストです。その作品は一見すると即興的でありつつ、彼が制作している時の実験的な気づきや遊びが、実は細部に至るまで緻密に模索しながら作られているんです。今回出品している7点は特に、飾られる場所の光の当たり具合、人の出入りなど、周りの環境によって彩りや見え方が変化して、じっくり観て楽しめる作品ばかりです。

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▲ 安野谷昌穂《SUN-SAN-RUN》
鮮やかな色合いや繊細な線画は自然光の中でも綺麗に映るので、様々な空間でいろんな表情を見せてくれます。「毎日目にする」と想像した時、安野谷さんのこだわりが次第に出てくる作品は今回の企画にすごくマッチすると思いました。

アーティスト②稲垣美侑

稲垣美侑さんは、町や自宅など実際の彼女の日常における構図を、一見したらわからない抽象画に落とし込んでいます。

透きま

▲ 稲垣美侑 《untitled〈透きま、海〉》
隙間から海が見える様子を描いた絵なのですが、外にいて普段「隙間から見える海」に気がつくことってなかなか無いと思うんです。室内にいたら、そもそも考えることすらない。彼女の絵は、隙間からその空間を拡張させようとしているんです。空間の隙間って、室内に飾る絵としては大事な要素だと思います。

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▲ 稲垣美侑《A vacant lot #02
彼女は、「風通しの良さ」を購入した方に届けたいと話していました。これは半透明な素材でキャンバスの木枠が透けて見えるんですけど、実際に家で飾ってみると、光の当たり具合で影ができたり、透けている感じがより際立ち、まさに風通しの良さを感じていただける作品です。

アーティスト③ takuya watanabe takuya

takuya watanabe takuya さんは、もともと抽象絵画をすごく追求しているアーティストです。大きなキャンバスに何を描くか決めずに筆を置き始めて、筆を足して、または引いたりもして、彼の中で、「ここで終わりだな」というところで止める。そのこだわりが、彼の絵画からは観れば観るほど滲み出てくると思います。あと、今回目玉の作品の一つとして、絵具を使った立体作品があります。絵画という条件の中で立体作品を可能にしているとも言えるかもしれません。

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▲ takuya watanabe takuya《PS62》
これ、陶器とかではなく、丸めたプラスチックなんですよ。その上に実はすごく緻密に油絵具で質感を与えているできている。人工的だけれどすごくオーガニックな形・色合いで面白い。一方向の視点で観る絵画の定義を問い直し、360度鑑賞ができる作品になっています。
ほかにも、絵具で作った立体作品もあります。部屋の中央に置いて様々な角度で観て楽しむこともできますし、その日や気分に合わせて向きを変えることもできて、一見挑戦的でありながら、鑑賞者に寄り添う作品だと思います。

アーティスト④ 楊博

楊博(ヤン・ボー)さんは、彼の自宅にあるカタログや、自粛中に散歩していて観た光景など、彼の私的な視点が一つの窓として絵画に現れていると言えます。

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▲楊博《My savage beauty on the shelf》
楊博さんは自宅の本棚にある、昔古本屋で買ったA・マックイーンの『Savage Beauty』展のカタログの表紙をかれこれ10年近く見ているから絵に描こうと思ったそうです。他の作品を見ても、彼が鋭く観察した日常的な景色は、静かでありながら、鮮やかな色合いやドラマティックな構図で切り取られている。アーティスト本人、そしてその窓を覗く鑑賞者の主観性さえ捉えています。

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▲ 楊博《Flying》
絵画という文脈で考えると、ドローンてすごく異質なものに見える。植物にドローンて、「え?」ってなるじゃないですか。その意外な組み合わせは面白いですが、これって全然実在できる光景なんですね。彼は笑いを意図していないと思うんですけれど、クスリと笑えたりするんですよね。

アーティスト⑤ 高杉英男

高杉英男さんは、絵画の中に架空の室内空間を作ることに取り組んでいます。彼の想像世界で生まれる「室内」なので、パース(空間構成)が一定でなかったり、空間の扱い方がバグっている。時には平面的であり、また時には奥行きを感じられたりと、一様に特定の空間として理解することはできないからこそ、見応えがある作品です。

退屈な彫刻家

▲ 高杉英男《退屈な彫刻家》
シンプルな居住空間にそれが置かれると、部屋の中にもう一つの部屋の窓が生まれるような効果が生まれるんです。多様な空間が共存する作風は、日常的に鑑賞するにあたって常に新たな発見や気づきをもたらしてくれます。

アーティスト⑥ 山縣瑠衣

山縣瑠衣さんの作品は、キャンバスという素材そのものを窓にしようとしている試みとも取れると思います。

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▲ 山縣瑠衣《 I’m in your gaze 1》
「ワッペンが貼られたシルクの布」を描いている作品です。もし壁にワッペンを貼ろうとしたら「作品」はワッペンだけだと思うんですけど、これはキャンバス自体が背景であるシルクの一部であり、同時に壁から切り離された素材なんです。

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▲ 山縣瑠衣《your skin》
枠からキャンバスが一部はみ出ていますが、絵の中の質感がキャンバスからはみ出て上にあることで、キャンバスの中に描かれた肌の生々しさがより増しているんですよ。なんか、つい二度見してしまうような作品です。

ECサイトでアート作品を販売することについて

ONE ROOM ARTの立て付けが面白いと思います。展示空間の壁と違って面積が限られていることもなく、作品が1個減ったり、あるいは増えた場合でも、それが企画のストーリーにすごく影響する訳ではない。けれどもこの立て付けや社会状況を捉えて、意図をもって選ばれた作品が集まっている。といっても、どのアーティストの作品も、僕が好きというのが一番です。個人的な好きが前面に出たような気もしています(笑)

僕自身はアーティストとしても活動しているんですけれど、パフォーマンスイベントだったりして、絵画のような永続的なものは得意じゃないんですよ。でも空間に絵画が置かれた結果、作り手であるアーティストの意図を超えた効果が生まれることってあるんですよね。その光とか部屋の構造によって拡張できると思ってるんですけど。

現代の、またこの特殊な環境下の中で持つべき役割について考えるなかで、一種の答えを提示してくれるアーティストたちに声かけをしました。僕はもちろん、彼らの多くが売上の95%がアーティストに支払われるONE ROOM ARTの仕組みに賛同してくれました。ただ単純に、アートを買ってもらおうって企画じゃなくて、アーティストにとって社会とつながる方法なんじゃないかと僕も思っているんです。

才能があっても、運や社会の流れに左右されてしまうアート業界において、こういった取り組みでひとりでも多くの人に作品が届き、社会とアートがつながりを持ち続けることが大事だと思っています。

キュレータープロフィール

丹原

丹原健翔(たんばら・けんしょう)
1992年生まれ。東京都出身。幼少期をオーストラリアのタスマニア州で育つ。米国ハーバード大学にて心理学・美術史を専攻する。卒業後帰国し、日本のアートの流動性を高めることをミッションとするアマトリウム株式会社を設立。自身もアーティストとして活動するほか、インディペンデント・キュレーターとしてアートを主軸とした展覧会企画やアートスペースのプロデュースなど、幅広く活動する。


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