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マカロニえんぴつ、はっとりが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を引用して答えた恋愛相談に感心した

『MUSIC FREAKS』2021年2月14日22時〜24時、FM802(大阪)

この日の放送は、リスナーに電話をつないで、恋愛相談に答えるという企画がありました。この相談者は、しばらく前の出来事について、あれはどういうことだったんだろう、ということを質問していました。

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(文字起こしここから)

メール読ませていただきましたけども。当時、昔ですね、年下の彼がいて、友人関係だったんですね。友達で、年下の男の人といて。つむぎさんは好意があったんですね、相手にね。

(ちょっと好きかな、っていう感じになってて、はい。)

で、映画に誘って一緒に行ったり、食事したり何度か会っていて、彼が先に匂わせてきていたんだ。(うん、そうですね)これは両思いでしょっていう空気ってありますもんね。どっちが先に言うかだけの空気ね。でもあまりに先が進まないと。お互い億劫だったんですね。

ある日、自分からキスをしました、と。それからパタリと連絡が取れなくなり、女性からいったのはちょっと引かれちゃったのかな、というのを、今だに思い出してしまう、という。ざっくりとそういう内容ですけどあってますか。

どうなんですかね。その彼のことは、なんですか、もうそれ以降関係はなくなっちゃったんですか。

(会ってないですけど。車で送ってもらっていていつも。で、ちょっと休んでく?とかって言われてたりもしてたんですけど、ちょっと、あっ、ってなるじゃないですか。でその時も車で送ってもらっていて、ちょっと無言の時間があったので、私からキスしたんですけど。その夜、今日もありがとね、って連絡したんですけど、ぱったりなくなったんですよ。)

察するに、ちょっとSF入ってくるんですけど、今の話を聞いて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』Part1を思い出したんですね。マーティーが過去に戻って、そのせいで出会うはずだった両親が出会わず、自分に、昔の母ちゃんが恋をしてしまうという。それから、何とか両親を正式な運命のルートを辿わせるために奮起するという、そういう映画なんですけど。

車内で二人っきりになって。週末のダンスに行くんですけど。そこで、母ちゃんにちょっかいを出しているところを親父が入ってきてボコボコにして惚れ直すっていう作戦を取ろうとしたんですね。ところがどっこいお母ちゃんの方が積極的で、ぐいぐいきてチューをするんですね、未来の息子である自分にね。

したら母ちゃんが、ん?って顔をして。『なんか、変な感じだわ。弟とキスしているみたいだわ、全然興奮しない』みたいなことを言って。そりゃそうなんですよ、遺伝子が一緒なわけですからね。

だから多分、(相談者の)彼は、血縁者なんですよね、きっと。チューした時に、口には出さないけど、『あれ、姉貴とチューをしているみたいだな』と思って、うん。

血縁者か、未来からやってきた従兄弟とか、遠い親戚とか(笑)なんじゃないかなって思うんですけど。

(すごい、さすがはっとりさん違うわ。そっかー)

どうでしょう。逆によかったですよ。運命違いで。結ばれずで。

(ちょっとねー、納得できました。)

新たな恋に進んでください。

(はい、楽しみます)

(文字起こしここまで)

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最初、聞いていて、はっとり何を言ってるんだろうと思いましたが、話の落ち着き先が見えてくると、ああそうか、流石だな、と思いました。

僕は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作は劇場公開時に見ているので愛着があり、勿論当該シーンもよく覚えています。Internet Movie Databaseで検索したら、やはり名台詞コーナーにありました。

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Lorraine Baines: Marty? Why are you so nervous?
Marty McFly: Lorraine. Have you ever been in a situation where you knew you had to act a certain way, but when you got there, you didn't know if you could go through with it?
Lorraine Baines: You mean like how you're supposed to act on a first date?
Marty McFly: [stammering] Sort of.
Lorraine Baines: I think I know exactly what you mean. You know what I do in those situations?
Marty McFly: You do? What?
Lorraine Baines: I don't worry.
[kisses him hard]
Lorraine Baines: [Lorraine stops and pulls back, Marty is freaking out]
Lorraine Baines: This is all wrong. I don't know what it is. But when I kiss you, it's like I'm kissing... my brother. I guess that doesn't make any sense, does it?
Marty McFly: Believe me, it makes perfect sense.

ロレイン:なんでそんなに落ち着かないの?

マーティー:どうしたらいいかわかっていたはずなのに、実際、その場面に出くわしたらどうすればいいのかわからなくなっちゃうことって、ない?

ロレイン:初デートで何をすべきかってこと?

マーティー:うん、まぁ。

ロレイン:言いたいことはわかったわ。こんな感じの時に私がどう振る舞えばいいのかってことでしょ。

マーティー:君が?なにをするって?

ロレイン:気にしないで。(彼に強烈なキスをする)

ロレイン:(動きを止め、身を引く。マーティーは固まっている)

ロレイン:おかしいわね。何だかわからないけど。あなたにキスした時、なんだか、弟とキスしているような気になったの。意味がわからないけど。

マーティー:信じられないだろうけど、その気持ちは完璧に正しいんだよ。

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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』監督はロバート・ゼメキスで、脚本はゼメキスとボブ・ゲイルです。全体のストーリーはゼメキスで、会話などの細かなブラッシュアップとして呼ばれたのがゲイルといったところでしょうか。

僕は、今の今まで、このシーンは、タイムトラベルコメディのネタとしか思っていませんでした。想像ですが、脚本家も同じ意図でこのセリフを書いたと思います。

ところが。

キスを交わすことで逆に冷めてしまう、体を触れ合わせることで、あれっ、違うな、という感覚、これが恋愛の営みにおいて、たまに起きてしまう現象である。

そんな普遍的真理がここに潜んでいたんです。

インスピレーションの赴くままに表現したものが形になったあとに、少し離れて眺めてみたら、そこに普遍的なテーマが宿っていることに気づく。最初から計算して作っても出てこない面白さ、そこに妙がありますね。

はっとりさんは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のこのシーンを見た時、その普遍性にまで思いが至ったのでしょう。だからこそ、この相談者への回答としてすぐに例を引くことができた。直接的な指摘を避けて、相手に柔らかく諭すようにアドバイスできた。

だからこそ、質問者さんも、理屈ではないところで「納得できた」と言ったのでしょう。

恋の駆け引きに似て、高度なほのめかしを含んだ味わい深いやり取りでした。