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あいみょん『裸の心』は失恋ソングである

サードアルバム『おいしいパスタがあるときいて』リリースのタイミングで、あいみょんがラジオのゲストに登場しました。Kiss FM KOBE『Kiss Music Presenter』(9月8日)、関西ローカルのカジュアルで温かみのあるトークの中で、DJの藤原岬さんから、楽曲に関する鋭い指摘がありました。

M1『黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を』

藤原「サビに向かうまでの最高なAメロBメロがあって、受け渡しも完璧なのに、盛ったサビではなくリズムもメロの長さも淡白で、でもその一瞬のサビの中に下から上までの音域をフルに使って、広がりのあるサビが成立しているところが好き」

あいみょん「サビはタイトル一行という曲で、私の中でも珍しい曲なんですよ。普段はサビ特盛アーティストなので。オープニング曲なので決意表明みたいな位置付けの曲なので、潔さを感じてもらえたら嬉しいです」

M5『朝陽」

藤原「曲の構成が、A、A’、B、A、A’、B、一瞬の大サビ的なCメロがあって、A、A’、B。ここでさっきのCメロに行くのかなと思ったら、もう一つ新しいDメロ(大サビ)が出てきて。そこから短めのC、A、Bと終わっていく。ひとつひとつが複雑なメロディなのに、バラバラにならずにポップに聞こえて、めっちゃ歌いたくなる」

あいみょん「Dメロがある曲は多いです。ラストのサビの前とかにある。昔は少なかったですけど、言われて作ってみたことがあって、そこから割と書くようになりました。この曲は女の子とかに叫びながら歌って欲しいですね」

M6『裸の心』

藤原「あいみょんの歌はとにかくリズムが気持ちいい。合わせようとしている感じではなく自由に歌っているのにジャストなタイム感だし、オケを引っ張っている感じもする。でも、たまにふっとずらす瞬間がもうたまらなく好き。

バラードはリズムが難しいです。出だしAメロすぐ、『一体このままいつまで一人でいるつもりだろう』の『だろう』がめっちゃ好きなんやけど。半拍いかないくらいちょっとだけ後ろにしてる」

あいみょん「あ、私歌い方(譜面とは)違うわ。この間『関ジャム』の収録で、安田くんに全く同じこと聞かれた。すごいな、そんな細かいところまで聞いてたんやと思っていたらもう一人いらっしゃいました。(私の歌い方は)もたつかせたりとかしてるっぽくて。全然そんなに考えていなかったから、へぇ~とか思ってました。客観的に分析してもらえるとおもしろい。

私バラードを歌うのは苦手ではないんですけど、この曲はレコーディングを一回やり直してるんです。特殊な録り方をしました。ハンドマイクを使って、跪きながら歌いました。膝立ちで下を向きながら歌って、ラストサビは立ち上がって歌ってます。そういう録り方をしたのは初めてで、感情が乗りやすかったのもあります。自分自身も苦戦していたのに、いいって言っていただけたのは嬉しいです」

藤原「今回のアルバムは、今までよりも柔らかい声だったり、発音の仕方が違ったりとか、曲を立たせる歌い方がすごい好きやなと思いました」

あいみょん「歌い方って、だんだん変わっていきません?10代の頃とか20代前半の音源と比べると歌い方も全然変わっているし声色もめっちゃ変わって、おもしろいなと思いますね」

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あいみょんの歌唱スタイルは「こぶし」や「ため」、小さく音を外したりと、演歌歌手の味わいを感じます。それがナチュラルなところが純粋で濁りがなくて好きです。そしてこのトークを聞きながら、歌い方と話し言葉(関西弁)のリズムやイントネーションがどこかで繋がっているのではないかと思いました。

『裸の心』

OFFICIAL MV https://www.youtube.com/watch?v=yOAwvRmVIyo
歌詞 https://www.uta-net.com/song/285059/

この曲を一聴したら失恋の歌だと感じると思うのですが、この歌詞の素晴らしいところは、サビで「今、私、恋をしている」と言い切っているところです。ああ、失恋を引きずりつつも、新しく好きな人ができた、でも臆病になってしまっている心境を歌っているのかな、と、僕は思っていたのですが、何度聞いても、辛く哀しい感情が圧倒的に優位であり、新たな恋の期待感など全く感じられません。

そこで解釈を新たにしました。この曲で歌われている「恋」は、相手のいるそれではなく、自分の内面にある「恋心」、人を好きになる気持ちのことなのではないか。

恋が終わって辛い思いをしているけれど、恋をすることを止めることはできない。いつか実りますように。それが偽らざる私の姿なのだと、傷んだ心を慈しんでいる、そんな歌だと思いました。