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ウォン・カーウァイ監督『若き仕立屋の恋 Long Version』

監督・脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
キャスト:コン・リー、チャン・チェン

2004年にオムニバス映画の一編として公開された短編のロング・ヴァージョン…とは言え56分の中編。
映画.COMの公開情報にカーウァイの名を見つけたものの、不勉強にてオリジナル短編も未見なうえ作品の公式サイトも、予告編映像も見つけられず。
それでも、2022年の夏に『恋する惑星』からの5作品が4K仕様で再映された余韻も冷めやらぬ勢いで、劇場へ。
WKW再映プロジェクト続編に心躍りながら。

5作品4K再映時のパンフレット

制作年が近い『花様年華』(2001年公開)の空気感を想像するも、やや異質。
関係が対等なトニー・レオンとマギー・チャンとは違い、高級娼婦(コン・リー)と仕立屋(チャン・チェン)の主従関係が軸となるので、当然といえば当然。
濃密なプラトニックの背徳を艶やかに描く『花様年華』に対して、『若き仕立屋の恋』は表現がより直接的…ながら、どちらもカーウァイ的としか言いようのない絶妙な男女の距離感。決して心情を台詞にせずに、心の奥底が露になる映像表現も監督ならでは。

いつもながら背後に流れる楽曲と、ドイルが設計するスタイリッシュな映像のシンクロが印象的だが、ナット・キング・コールのスペイン語曲を映像に完全合致させた『花様年華』の方がより強烈ではある。
どちらも「時を経た、その後」を描写する構成が共通しているが、そういえば『恋する惑星』にもこれが当てはまる。トニー・レオンとフェイ・ウォンの関係性が逆転する微笑ましい作風の時代もあったと、ストイック極まりない仕立屋を観ながら思い返す。初期作とは全く違う意味で、コン・リーとチャン・チェンも終盤で関係性が崩れていく。それでも一途な心を持ち続けるチャンが最後に放つ台詞が余韻を残す。
匂い立つ「手」の記憶が刻まれた56分。邦題よりも英題の『The  HAND』が作品の世界を象徴的に言い当てている。

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