(赤口、精中・圓能・無限忌、ビキニスタイルの日)6 前方後円墳

前方後円墳の出現

三世紀後半、奈良(なら)盆地東南部(奈良県桜井(さくらい)市)に巨大(きょだい)な前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)が出現した。墳丘(ふんきゅう)斜面は土砂崩(どしゃくず)れを防ぐ葺石(ふきいし)で覆(おお)われ、埴輪(はにわ)が飾(かざ)られた。それは墳頂(ふんちょう)にも配列され埋葬(まいそう)施設を区画(くかく)する。現在する古墳は樹木(じゅもく)に覆われ小山にしか見えないが、造成(ぞうせい)当時は敷(し)き詰(つ)められる葺石(ふきいし)によって縁色ではなく白色が灰色に見えたはず。古墳は規模的にも色彩的にも周囲と画然(かくぜん)とした相違を持った造成物(ぞうせいぶつ)であった。復元整備されたものに五色塚(ごしきづか)古墳(神戸(こうべ)市垂水(たるみ)区)・森将軍塚(もりしょうぐんずか)古墳(長野県更埴(こうしょく)市)などがある。
 弥生(やよい)時代までの墳墓(ふんぼ)との違いは、身長をはるかに超える長大な棺(ひつぎ)の周囲を礫(れき)や粘土(ねんど)で覆うなど埋葬施設(まいそうしせつ)が複雑な構造を持つこと、鏡・鉄製武器・生産用具・玉など副葬品(ふくそうひん)が豊富なこと、規模は違っても墳形(ふんけい)の相似性(そうじせい)に見られるように企画性(きかくせい)があることなどである。
 どれほどの規模なのか。五世紀の大山(だいせん)古墳(伝「仁徳陵(にんとくりょう)」、全長四八六メートル)は古代工法で造成したと推計されている。こうした古墳を造成するには、大量の労働力の動員と共同労働の組織化が必要で、それを可能にした首長(しゅちょう)は弥生時代の首長よりも一般民衆から隔絶(かくぜつ)した権力を確立させていたのである。

首長連合の成立

「前方後円墳」の語を初めて用いたのは、近世の尊王(そんのう)家蒲生君平(がもうくんぺい)である。彼は一八〇八年に著した『山陵志(さんりょうし)』において、天子(てんし)の乗る宮車(きゅうしゃ)を模倣(もほう)したものと解釈して命名(めいめい)した。この解釈は無理だが、名称は定着した。前方後円墳は、韓国(かんこく)南部にも存在するところから韓国起源説も提唱(ていしょう)されたが、いずれも五世紀を遡(さかのぼ)らないので成り立たない。やはり時代の墓制(ぼせい)との関係で考えるべきだろう。
 前方後円墳の構成要素は、大和(やまと)単独で考案されたものではない。葺石(ふきいし)の起源は出雲(いずも)(島根県東部)の四隅突出(よすみとっしゅつ)型墳丘墓(ふんきゅうぼ)の貼石(はりせき)であり、吉備(きび)(岡山県)の特殊器台(きだい)は円筒埴輪(えんとうはにわ)となった。竪穴(たてあな)式石室は吉備や播磨(はりま)(兵庫県南西部)の弥生墳丘墓に原型がある。前方後円という形の起源は何か。全方部は弥生墳丘墓の死者を埋葬(まいそう)した墳丘と外界(がいかい)を結ぶ墓道(ぼどう)(ここで供献(きょうけん)土器が発見される)が発達したのではないかと推測されている。すなわち後円部は埋葬(まいそう)施設、全方部は祭壇(さいだん)で、前方後円墳は亡(な)き首長(しゅちょう)の埋葬儀礼(ぎれい)と新首長の継承(けいしょう)儀礼を行う場であった。
 しかし、弥生墳丘墓が直線的に前方後円墳に発達したわけではない。前方後円墳には北枕(きたまくら)や朱塗(しゅぬ)りの棺(ひつぎ)など中国思想の影響がみられるから、天円地方(てんえんちほう)思想(天を円丘、地を方丘で表す)の可能性も否定できない。前方後円墳は在来の墓制を基に、中国思想を参考にして一挙(いっきょ)に創出(そうしゅつ)された政治的造営物であった。地域ごとに特色を有した墓制を破棄(はき)して地域を超えた共通の墓制(ぼせい)を採用した背景には、祭祀(さいし)を共有しての政治的連合があった。まず大和・吉備(きび)の同盟関係が成立し、四世紀後半九州北部の首長が加わった。首長間の同盟・服属関係の成立によって、環濠(かんごう)や高地性(こうちせい)集合の消滅に見られるように、弥生時代以来の軍事的緊張は解消した。

前方後円墳の終焉(しゅうえん)

古墳は高松塚(たかまつづか)古墳にみられるように、上層身分の人々には七世紀末〜八世紀初葉(しょよう)まで築造(ちくぞう)されたが、前方後円墳そのものは六世紀末〜七世紀初葉には消滅する。その要因は、当時政権を担当していた聖徳太子(しょうとくたいし)や蘇我(そが)氏が、前方後円墳の規模の大小による首長間の服属・同盟関係から、冠位(かんい)十二階の制や仏教の採用など新たな統治理念(とうちりねん)を見い出したからであろうと考えられている。

参考図書 都出る比呂志編 『古代史復元6古墳時代の王と民衆』 (講談社)

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