1 日本人のルーツ

〜最近の人類学の考えから〜

日本人とは

 日本人の定義にはいろいろあるが、ルーツを探るとき、「日本列島のヒトの集団」を日本人とする人類学の定義が一番よいであろう。日本人はモンゴロイド(黄色人種)であり、モンゴル、中国、韓国、北朝鮮、南北アメリカ原住民、エスキモーなどの人々は少しずつの変異があっても全てモンゴロイドである。

 現在の人間と同じ人類が現れるのは、約三万五〇〇〇年前の事である。ヒトが地球に現われたのは地質学の年代では更新世であり、寒冷な氷期と温暖な間氷期とが繰り返されていた。最寒冷期には海面が現在より約一二〇メートル以下にあって、日本列島は大陸と陸続きになっていた。北からも南からも動物が渡ってきた。ヒトもまた移住してきた。更新世(旧石器時代)の人骨で、完全に近い形で発見されたのは沖縄(琉球)の港川人(一万八〇〇〇年前)であり、縄文人に近い顔の形をしている。

アイヌと琉球人

 アイヌと琉球人は顔の彫りが深く、日本人とは違う人種ではないかと考えられてきた。一九六〇年代ではアイヌはコーカソイド(白色人種)であるという説が有力であった。しかしコンピューターの導入によって、大量の人骨のデータ処理ができるようになり、また遺伝子の研究も進んだ結果、アイヌはモンゴロイドであり、しかも縄文人に一番近いということがわかった。次に縄文人に近いのは琉球人である。

縄文人と弥生人

 北海道から沖縄まで日本列島に住んでいた縄文人の顔は、正方形に近い輪郭(低顔)で、目は大きく彫りの深い顔である。歯は小さく上下の歯毛抜きのようにぴったり合っている。平均身長は、男性で一五六〜一五九センチ。このような特徴は南方モンゴロイドに見られるものだが、古い形のモンゴロイドとも共通する。

 弥生時代に入ると、大陸から細い目、長い顔(高顔)、彫りの浅い北方モンゴロイドが日本列島に渡ってきた。この人たちの平均身長は、男性で一六三センチあり、縄文人より背が高く、歯も縄文人より大きかった。大陸から日本列島へ人々が渡来する動きは7世紀前半まで続く。渡来した人たちは縄文の血をひく在来系の人々と混血を重ねていった。日本人の起源を探るとき、在来系(縄文系)と渡来系(弥生系)の二重構造を考えるという説は説得力がある。弥生文化の伝わらなかった北海道のアイヌと琉球人に縄文の血が濃く受け継がれたわけである。時代や環境の影響による小進化もあって日本人は少しずつ変わってきている。しかし現在の日本人の中面長で目の細い渡来系の特徴を示すタイプと、丸顔や四角い顔で目の大きな彫りの深い縄文の系統を受け継ぐタイプをすぐ見つけることができるであろう。

 遺伝子から

 日本人の起源についての二重構造説には、一つ問題があるということが、遺伝子の分析をすすめる分子人類学者から指摘された。遺伝子から考えるとアイヌも縄文人も北方モンゴロイドであるというのである。南方系の縄文人、北方系の渡来人という図式は考え直す必要があるだろう。寒冷地適応をする前の北方モンゴロイドが日本に渡ってきて縄文人の祖先となったという説もでてきた。今後研究が進むと日本人のルーツはより明らかになるであろう。

参考図書 埴原和郎編 『日本人の起源』(朝日選書)、田中琢・佐原真 『考古学の散歩道』(岩波新書)

ISBN 978−4−634−01640−8


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