プロスペクト理論の新たな視点
プロスペクト理論の基本概念
利得と損失の非対称性
プロスペクト理論では、プラスの状況では人はリスクを避け、マイナスの状況ではリスクを好む傾向があります。同じ絶対額でも、利得と損失の主観的な価値は異なり、損失は利得よりも心理的に大きな影響を与えます。
価値関数の特徴
価値関数の曲線は、プラスの領域では上に凸、マイナスの領域では下に凸の形状をしています。この形状は、利得領域ではリスク回避的、損失領域ではリスク愛好的な行動を説明します。曲線の傾きの違いが利得と損失の非対称性を表現しています。
参照点のジャンプ現象
参照点の定義と重要性
参照点とは、利得や損失を判断する基準点のことです。通常は現状や初期状態(例:株式購入時の価格)が参照点となります。この参照点が変わることで、同じ状況でも異なる判断や行動が生じることがあります。
参照点ジャンプの発生メカニズム
極端な損失状況では、参照点が急激に移動します。例えば、自己破産の危機や財産がゼロになる状況において、参照点が移動することがあります。このジャンプにより、それまでの損失領域が利得領域に変化します。
参照点ジャンプの影響
参照点のジャンプは、リスク態度の急激な変化を引き起こします(リスク愛好からリスク回避へ)。これにより、従来のプロスペクト理論では説明困難だった行動が理解でき、突然の撤退や利益確定などの意思決定が説明可能になります。
現実世界での応用例
株式投資における行動
長期の損失を経た後、わずかな回復で売却する傾向があります。この行動は、参照点が最悪の状況(破産点)に移動することで説明可能であり、「まだ財産が残っているうちに」という心理が働きます。
企業の新規事業や海外進出
赤字の続く状態から突然撤退を決定することがあります。これは参照点が「これ以上の損失は企業存続の危機」に移動することで、現状を利得と認識し、リスク回避的行動をとるためです。
戦争における和平交渉
劣勢が続いた後、突然の和平交渉や降伏が行われることがあります。これは、国土喪失の危機が新たな参照点となり、残存国土を「利得」と捉え、それ以上の損失を避ける行動です。
フレーミング効果との関連
フレーミング効果の概要
同じ状況でも、提示方法により判断が変わる現象をフレーミング効果といいます。これはプロスペクト理論と密接に関連しています。
参照点ジャンプとフレーミング
参照点の変化により、状況のフレーミングが変わります。損失状況が利得状況として再解釈され、意思決定や行動選択に大きな影響を与えます。
理論の応用と限界
現実世界の複雑性
単一の理論では説明しきれない多様な要因が存在します。例えば、戦争における国民の生命など、多面的な考慮が必要です。
理論の有用性
プロスペクト理論は、人間行動の理解と予測に役立ち、経済、経営、政治など幅広い分野での応用が可能です。
今後の研究課題
参照点ジャンプのメカニズムのさらなる解明や、他の心理学的要因との相互作用の研究、実践的な意思決定支援への応用方法の開発が求められています。
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