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どこもかしこも、駐車場……?!


 あの美容室も、あのコンビニも、あの雑居ビルも、いつの間にやら、駐車場。そんな町並みのように、あの笑いも、この恐怖も、いつの間にやら、駐車場。

 個性豊かなコントたちが、1つの枠の中に整列しだすと、気づけばそこは、立派な駐車場。


 男性ブランコさんの単独公演『駐車場』を観ましたので、その感想を書いていきます。おそらく長くなります。

 そして、本編のネタバレを含みます。まだ駐車してないよ、という方は、ぜひ配信をご覧いただいてから、こちらをお読みください。もちろん、こちらをお読みいただかなくても大丈夫です。

 では、行きます!













 私が訪れたのは、池袋、あうるすぽっと2公演と、京都、市立文化芸術会館。
 京都遠征は毎年恒例になりつつあります。
 そして、今年の京都公演に誘ってくださったお優しい方、本当にありがとうございました。


 早速会場に入ると、可愛らしい標識たちがお出迎え。順路に沿って、ホール内の座席へ。

 舞台上には、車輪のついたカタチたちが。
 か……かわいい…………!!
 これから何が起こるというのでしょうか、ワクワク、ソワソワ待ちます。

池袋 あうるすぽっと
京都 文芸
横幅が広いですね。


 開演時刻になると、何やら民族音楽のような軽快な音が聴こえてきました。この単独公演の音楽制作は田中馨さん。
 (SAKEROCKヲタクわたくし、大歓喜)

 ブルー転で照らされた、ステージに男性ブランコさんお二人が登場。車輪のついた可愛らしいカタチを、駐車スペースを彷彿とさせる舞台中央の長方形内にゴロゴロと運び込み、
 さあ、来るぞ。




医者話

 変なお医者さんに会ってしまった浦井さんと、その話を聞く平井さん。
 ちなみに平井さんは、変なお医者さんと一人二役してました。

 医者との対話(過去)、そして過去を振り返って話している今、この行き来が綺麗でした。2人でカタチの周りをくるくる回ることで、時系列が行き来する、という。……オシャレ!!

 初っ端から平井節炸裂のセリフ回し。非常に癖になりますね。個人的に、「おくちあんぐり持続可能?」という言葉が、語呂が可愛くてお気に入りです。日常使いしたいけど、どこで使ったらいいだろう……(べつに無理に使わなくて良い)。

 そして、変な人に会って、変なことを言われた話を人にする時、その場のニュアンスがいまいち伝わらないの、わかるーっ。
 私がライブレポで、感想や興奮を書くときもよく思うのですが、あの時その場にいた人といない人では、なんかいまいち感情の錯誤があるよなぁなんて感じること、多いですね。
 まあ、そんな個人的意見は、一旦あっち置いといて、後で収納〜。

 (平井節、使えた……!)

 そして、段々と誇張が酷くなる浦井さんの医者話。どこからが本当でどこからが嘘……?泥棒の始まり……?
 「だから俺今、カナダにおんねん」
 という意味のわからなすぎるエピソードトークが続きますが、果たして、この意味わからん話が行く先に待つものとは。
 配信見た方はもうお分かりかと思いますが、順を追って参りましょう。コントの縦列駐車は、焦らずに。


オープニングV

  これまた最高だったオープニング。カタチと、駐車場、今年の単独のテーマである2つの要素を魅力的に伝えすぎている、ある意味めちゃくちゃいかつい映像でした。河内さん、毎度毎度、最高です。
 池袋では、上手下手にそれぞれ平井さん浦井さんが立ち、タイトルが映る瞬間にサスが当たる演出がありましたが、どこかの段階で無くなってしまいまして。堂々たる姿がかっこよかったのですが。

 映像に映った、『はじまり はじまり』の文字をきっかけに、ここからコントの渋滞が始まります。



心中察

 「あたくし!心中お察し丸で〜ございます!
 オサッシマル~」

 でお馴染みのお察し丸様登場です。(お馴染み……?)
 農家の五郎兵衛さんと、五郎兵衛さんが暮らす藩の領主(おそらく)、お察し丸様。

 個人的には、指を高速でモジモジするシーンが好きで、よく指同士、避けているなぁと感心していましたが、以前インスタライブで本当に突き指したことも……と話しており。やはり危ないのでやめましょう、お察し丸様。勇気持ちましょう、お察し丸様。

 途中の殺陣のシーン、かなり予想外で驚きました。優しい雰囲気で包まれたコントの中にチョンと激辛スパイスを差されたようで、新鮮でした。そして、お二人とも構えの姿勢が綺麗でした。

 「もっとお互いがお察しし合える世の中になれば」という言葉は、平井さんの本音なのかなと思ったり。

 お察し丸様、心中お察しと申しながらも、五郎兵衛さんによる、お察し丸様モノマネに対して「お察し丸は私なのに……」と反応したり、五郎兵衛さんの攻撃で辺り一面焼け野原になると危惧したり(五郎兵衛さんにそんな力はございません)。

 お察し丸様は、お察し丸様本人が思っているよりも、素直で純粋なお方かと。目の前にある具象に好奇を示し、真っ直ぐ受け取りつつも、相手の心情をお察ししようとする、そのバランスが、この土地の人々に愛される理由なのかなと、お察し。
 わたくし、心中お察し丸で〜ございます。オサッシマル~。

(お察し丸様、ごっちゃになってしまっていたらごめんなさいね)


 おこがましいようですが、まるで、平井さんのお人柄を映し出したようなキャラクターでした。

 お察し丸様の旅が良いものとなりますよう。



中間V(タクシーの運転手篇)

 ここから、コントとコントの合間に、人と車輪のついたカタチが交流し合う映像が挟まります。

 リズムが不規則で不思議な音が並ぶBGMに合わせて、映像もちょっとおかしい世界が広がります。

 終盤、駐車場の画が上から映し出され、右側に駐車スペースが6個。
 1〜2は先客が。
 3の部分に懐中時計が置かれ、終了。
 そのまま暗転。

 これから、この映像が次に駐車場にやってくるコントのヒントとなってくれます。



待時間

 ある日、友人と待ち合わせをしていた時、いきなり知らない人から「お待たせ」と声をかけられたら、あなたはどうしますか。

 私は……怖いです。

 「お待たせ」と声をかけてきた男は、支離滅裂な言葉を繰り返したり、「はい」と言い続け勝手にしんみりしたり、そのしんみりを人に擦り付けてきたり、怖い人の中でもより怖いタイプ、でした。

 そんな男の正体は。

 モップ男。

 改め、お掃除AI。

 製造番号54MA、通称ゴシマ。


 でも、ありますよねこんなこと。
 待ち合わせの件じゃなくて、モップ男の件。
 めっちゃ印象に残るお客さんが来たら、みんなで勝手にあだ名つけちゃうこと。
 ここすごく共感してしまいました。
 印象に残っているお客さんへ。ごめんなさい。

 AIと人間論争、度々聞かれる話題ですが、今回のコントで、人間の羨ましい部分について、「待っててくれる人がいる」と解釈した平井さんはとても素敵だなぁと感じます。
 そして、「AIも極まりすぎて阿呆の道へ行ってしまったのだろうか」「それは人間も同じ」というセリフ。不完全の美しさを語ったさりげない二言。素敵でした。
 なんでしょうほんと、脚本からにじみ出る優しさは。最高の魅力だなぁ。

 そして、浦井さんの変人演技がすごい。
 時の経過とともに、発言と行動の支離滅裂さが合点がいく感じ、その細かい描写の変化は、さすがすぎるなと思いました。素人がすみません。
 必死に最上級の称賛の言葉を探している段階です。

 ピカピカえっちゃん、どんな映画なんだろう。このあと映画館に行った2人の会話や表情をたくさん想像したくなる、読後感最高なコントでした。




中間V(男女の学生篇)

 この映像に映った男の子の顔がすっげえ物憂げで良かった。
 女の子は、教室内を走り回るカタチを写真に撮っていました。

 4の駐車スペースに停まったネクストヒントは、数冊の本。



物物語

 物の価値を、その物が持つ物語で判断する質屋。そこに訪れた一人の男。男が持ってきた物とは、オルゴール、首飾り、何も入っていない瓶。

 まず、一言。
 浦井さんが演じるクズ、好きでーす!

 あまりに清々しいクズすぎて一周回って良い。いや良くないけど。浦井さんの真っ直ぐな目が悪気のなさを引き立てていて、とても笑いました。
 "音の鳴らないオルゴール"を自分で鳴らしておいて、「少年に鳴ったよ、って伝えておきます」と言い、合コン(おそらく)で、女の子に「めっちゃサラダ食うじゃんw」と言ってしまう、関わりたくないタイプの男。そしてしっかり窃盗もやってる。最悪。

 「ここから、往ね!」

 それな。

 お金isマネーを、さっさと返済しろ。

 そして、店主が、歩くパリコレすぎる。平井さんのウエストの細さや脚の長さ、そしてアジアンビューティーな顔立ちのおかげで、端正な美しさすぎて、笑いと驚き同時に感じました。

 歩くの遅すぎて、床が動いていると勘違いしてしまうほどの遅さ、通称、遅歩(おそほ)。「ジャミロクワイか……?」というツッコミ、めちゃくちゃ笑いました。

 いらんことを言うと、ジャミロクワイのあのMVは、実は床ではなく壁が動いています。


 このコントのお楽しみポイント、ラスト。
 覚えているでしょうか。冒頭に、とんでもない価値がついたスコップが登場したことを。
 店主曰く「よく働いたスコップ」。
 ちょっとした伏線な気がしますので、頭の片隅に駐車させておきましょう。




中間V(ちびブランコ篇)

 男性ブランコさんお二人をそのままちびっ子にしたみたいな、ダブルメガネの男の子たち。
 会場から、かわいい、という声も漏れていました。
 1人の子が、カタチを追いかけ始めるのですが、もう1人の子が、なぜかいきなり滑り台を逆走し始めていて面白かったです。

 5に駐車したネクストヒントは、額縁がつけられた、ゴッホ『ひまわり』。




額装雨

 絵のバックグラウンドを知り、実物を見てから額を作る、といった制作方式の額装屋さんと、そこに自分の絵を持ち込んだ青年の静かな一幕。

 まず語りたいのは、青年が入店した時。
 ドアの開閉音ではなく、雨の音の強弱で、屋内に入ったことを表現するスマートさといったら。

 店主の対自分カウントダウンのボケ、バカ真面目な彼の一面が見れて面白かったです。

 青年。いつどんなときも画材をバッグにいれて持ち運ぶ、美大生の鑑じゃないか君は。

 そして、自分の絵を人に見せるとき、1人オノマトペ祭りになるのも、すごく分かる。
 美大生は、デザイン科では1ヶ月ごと、ファイン系(絵画系)学科では数ヶ月ごとに、悩み尽くしたり徹夜したりしながら、作品を作っては、講評会で他の作品と一緒に並べられ、先生から良いとこ悪いとこズバズバ言われる生活をしています。
 なので、みんな何かしら1つは、納得できず落胆した経験や、自分が思う駄作を晒した恥ずかしい経験があるのだ……と思います。多分。
 そのトラウマを乗り越えて初めて会った人に自分の絵を見せるって、勇気いるぜ。
 そりゃあ、マゴマゴもチプチプもするさ。

 私、次の講評で、先生にチプチプしてみようかな。やめとくか。


 最後は、思わずうるうるしてしまうほど美しいラストシーン。
 額を、必死に絵のモチーフを探して悩む青年に合わせる店主。そして一言、
 「良い絵だ。」
 額を作り始めます。

 一方、青年は大きな額を挟んだ向こうに写った、額を作っている店主の姿を見て一言、
 「良い絵です。」
 店主をモチーフに絵を描き始めます。

 静寂の中で、二人がつぶやいたセリフが反響し、1つの作品が作り上げられていきます。
 さぁ。ちょっと休憩。


 読まなくていい余談。
 最初に店主が大きな額を運んでいる所を見た時、青年を絵画の中に閉じ込めようとしてるんじゃ……などと謎ホラー展開を予想してしまいましたが、全然違いました。ほっこりでした。





中間V(大集合篇)

 最後の映像は、人が出てきませんでした。その代わりといってはなんですが、車輪のついたカタチたちが建物の屋上に大集合。パラリラパラリラしてました。

 6に駐車したネクストヒントは、土。
 隣の絵画にまで降り掛かった真っ黒な土。まるで思い出を無惨に上から塗りつぶしているようで、ゾッとしました。何が始まるのやら。




地域祭

 「みなさんが何をやったか知りませんが、今日はこんな田舎に来てくださりありがとうございます。」
 この地域のお祭りで崇められているのは、
 ひとつ目のモグラ。

 序盤の「声出てませんでした」のボケ、この単独ナンバーワンレベルで大好きです。

 田舎、祭り、スコップ、ひとつ目モグラ……。何か起こるかもしれない、得体のしれない恐怖が襲います。
 そんな中に放り込まれた男性は、悪い想像を繰り返してしまうのですが。
 ホラー映画見た後の夜とかあんな感じになりますよね。どよ〜んって効果音がひとりでに聴こえてきて、襲いかかる感じ。

 そして中盤、「みなさんが何をやったか知りませんが」という怖すぎる一言が引っかかった男性。この地域には何かした人が連れてこられているそう。
 男性は叫びます。「僕はただ、話を盛っただけなんです!!」

 お前かよ!!カナダ男かよ!!

 我々は、コントで埋め尽くされた駐車場をぐるぐる回って、いつの間にやら戻ってきていたみたいです。(世間では伏線回収と言うやつ)


 カナダ男(勝手にごめんなさい)の悪い想像はとどまることをしらず、勝手な想像だと自分に言い聞かせても、なかなか止まりません。

 前半で、村の男性が言っていた「マイ穴」の意味が分かり始めると、この世界は現実味を帯びてきます。

 これは現実…?想像じゃない…?

 絶望した彼はついに村の男性を殺害……。あまりの苦しみに、むせび泣きます。
 声にならない叫びと涙、浦井さんの演技力が光りまくっていました。

 と、ここで目が覚めた男性。今までのは彼の悪い想像。村の男性は、つらつらと祭りの説明を続けています。

 この、現実に引き戻される明転の瞬間!絶望からいきなり爆速で戻されたことで、整理ができず、安堵より先にゾッとする気持ちが来ました。何事も無かったチャンチャン、がこんなに恐ろしいなんて。


 そして、祭りの準備として穴を掘り進めた男性、どうやら彼は、

 今、カナダにいるそうです(?)




エンドロール

 ここまでのコントのタイトルが映し出されます。「駐車場」に合わせて三文字縛り。いろんな感情渦巻く数多のコントたちが整列し、縦列駐車のように停止し始めます。

 おしまい。
 と思いきや。

 コントたちが整列、駐車した先には、とあるクライマックスが。

 男性ブランコさんの手によって、舞台上のカタチたちが、1つの場所に整列し……。




祭丿後

 カナダ男は、医者話と同様の友人に、いままでに起きた出来事を語っていきます。地域のお祭りのこと、穴をほったこと、ひとつ目モグラ様のこと。
 君も、よく友人を続けているな。

 そして、祭りの準備をしたというその場所に向かってみると……。

 そこは、しっかりとした、駐車場。

 

 男性は困惑しながらも続けます。実は、作業の日、穴を掘ったあと、そこから、ひとつ目モグラ様が出てきた。これは、ひとつ目モグラ様のパワーだ、と。

 話盛り盛りが止まらない男性に呆れる友人。


 二人が捌けていき、誰もいなくなったステージ。残された、整列したカタチたち。

 カタチたちにサスが当たると、
 それは、いつの間に、ひとつ目モグラ様に変貌しているのでした。

 おしまい………。



 終われるか!!こんな衝撃的な展開を最後に浴びてしまって!!!

 ひとつ目モグラが現れた瞬間の、会場にどよめいた感歎のため息。一生忘れられません。
 コントたちの駐車場は、すべてひとつ目モグラの掌の上でしたと……。

 あなたの生活も、すべてひとつ目モグラ様に委ねられているのかもしれませんねぇ。

 冗ディン。


 暗転の直前、ひとつ目モグラ様の目が一瞬右下へ動いた所。
 こいつは生きている!という、恐怖や愛着を超えた鳥肌を感じました。


 コントやお笑いの羅列で終わらせない、その先の一貫したセンスとテーマを、見る側にしっかり意識させ、快い読後感を与えてくれた、今年の単独公演でした。

 池袋も、京都も、帰り道とても清々しかったです。夜道は少し怖かったです。

 毎年感じますが、コントライブを観た後に歩く京都の街、まじで泣きそうになるんですけど、なんかそういうパワーでもあるんですか??
 東京より静かだからとかですか?
 あ、なんちゃらモグラ様のせいですか??




 てなわけで、『男性ブランコ 単独公演 駐車場』の個人的な感想でした。長々とすみません。

 みなさまも良きお笑い単独ライブライフをお過ごしください。

 ありがとうございました!


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