見出し画像

インタビュー

彼は今年いっぱいで死ぬ予定だったらしい。
別に何が辛いとかではなく、幸せのピークから下降していく己を見ることに耐えられないそうだ。

ささやかな幸せを日々感じ、天寿をまっとうする。

私は美しい人生のひとつじゃないかと思ったが、耄碌していく自分の様はどれだけ無様であることだろう。その様を他でもない自分自身が1番近くで見続けなければいけない苦痛、恐怖。

激しい喜びや悲しみに翻弄されるのではなく、自ずとそれらに沿っていけるような。それが大人になるということだろうか。

私は彼の前では子ども同然だ。君にはまだ分からない話だねと、彼は言う。私はガキなのでガキらしく黙って話を聞いていた。

それでも、彼の話が嫌というほど理解出来てしまう自分に、また嫌気がさした。

私は人生の折り返し地点で何を思うのだろうか。
まだ生きたいと思えるだろうか。
それとももう充分だと思えるだろうか。

誰に迷惑をかけるでもなく、身辺の整理を済ませ、彼は安楽死のできる国に行こうとしていたらしい。

私はなんだか御伽噺を聞かされているような気がして、彼はきっと静かに美しく死ぬのだと思った。

そもそも特段暗く重い話として私は捉えていなかったのだが。目の前にした途端、私はどうしようもなく恐怖した。今この瞬間も何千、何万もの命が終わりを迎えているというのに。

と同時に、命の終点というものに強く惹かれた。詳細で手近な他人の終活とやらをまざまざと実感させられ、私の心はどうしようもなく揺らいだ。

お構い無しに淡々と話す彼には、死に対する恐怖なんてこれっぽっちも無いようだ。私はそんな彼が可笑しくて、それでいて怖くて。よく分からない笑みをずっと浮かべていた気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?