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「カラビ=ヤウゲート 深淵の悪魔」/第十一話

「森林さんが『悪魔』という言葉を出されたのは、この説明のためだったということですね」

恋河原のその言葉を受け、森林が補足のように語る。

「私たちにとっての『悪魔』とは『悪の概念そのもの』の存在のことではありません」

「といいますと?」

「『なんらかの意図をもって組まれたプログラム』のようなもの。もしくは、『アバター』のようなものではないかと」

「・・・ごめんなさい、私にはよくわかりません」

そういって小さく首をふる恋河原は、俺にもわかんねえよ、という川端のつぶやきをうっすらと耳でとらえた。

森林は何に例えようか、と思いを巡らすように部屋の中を眺めていたが、やがて口を開いた。

「恋河原さんはゲームはなさいますか」

「・・・人がやるのを見る、くらいですね」

恋河原はオンラインのRPGゲームに興ずる紅林の姿を思い浮かべた。そういえば、この成り行きを紅林には伝えていなかった。そろそろ連絡を待っているころだろうか。

「仮に、私たちがゲーム内のキャラクターだとしましょう。私たちはゲームから出ることはできませんし、ゲーム外を認識することもできません。しかし『悪魔』はプログラムを書き換えることができる。もしくは、ほかのゲームと世界を連結することができる。そうなった場合、世界はなんらかの形で変化するでしょう。しかし・・・」

森林は恋河原の目を見つめながらいった。

「私たちは、その変化を認識することができない」

なんと言葉を継いでいいのか。恋河原は必死に質問するための糸口を探したが、これというものを見つけられずにいた。

「それって、クリブラみたいじゃないですか」

恋河原の真後ろから声が聞こえた。音声マンの狭山だった。

「あ、すみません。つい・・・」

「いえ、続けてください」

「あの、ゲームの『大格闘!クリティカル・ブラザーズ』ってのがあって、その中ではアクションゲームやRPGとか、ジャンルを超えたいろんなゲームのキャラクターが格闘ゲームのルールの中で対戦するんです。これって、世界が連結していることになりませんか!?」

森林は腕を組みながら数秒考えていたが、うなずきながらいった。

「悪くない例えです。『クリ・ブラ』といいましたか。次に誰かに説明する際にはその例えを使ってみましょう」

狭山は口元を緩め、少しうれしそうな顔をした。

「私はまだ」

恋河原は居住まいを正すと、自制するかのように言った。

「みなさんの話を、すべて正しいと認めたわけではありません」

狭山はあわてて緩んだ頬を引き戻し、仏頂面を作った。

「そうですね。例えばその場合、『悪魔』の目的はなんなのでしょう」

話を聞いていた櫻田が口を開いた。

「そして、その『悪魔』への対抗策はあるのでしょうか。もしあるのならば伺っておきたいところです」

その言葉を聞いて、清原が我が意を得たりとしゃべり始める。

「正直、何をどうしたらという確証は何もありません。ひとつひとつを試してみながら効果を見るしかない。いまやろうとしているのは、アークプラズマを活用したプラズマシールドです。限定的なエリアであれば、さまざまなものの干渉を妨げることができるかもしれない。逆に、対象物を攻撃する場合には・・・」

「耕ちゃん」

下柳が穏やかな声で清原を遮る。

「・・・あなた、誰に何をしゃべっているの?」

恋河原はその言葉に、ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を覚えた。そして、いつのまにか自分の隣に座っている女の存在に初めて気づく。

「なるほど、私が繋ぐゲートを閉じて回っていたのは、あなただったんですね」

櫻田は静かに微笑みながら、下柳に向かって語り掛ける。

「そういえば以前一度会っていますね。といっても、この姿で会うのは初めてですが。そうそう、いまは櫻田と申します」

「あなたは・・・小林さんだったひとね。お久しぶり、といってもあなたには時間経過は無意味なのでしょうけれど」

下柳はそういったあと、何かを急ぐように恋河原に向けて早口でしゃべり始めた。

「恋河原さん、この人たちの開くゲートを閉じるにはね、情報を・・・」

「そこまでです」

櫻田が言うと、下柳の姿はその場からふい、と消えた。

「な!」

森林と清原が腰を浮かせる。

「あなたたちには興味はありません。ただ、さっき少し興味深いことをいいましたね。ゲーム、でしたか?ではゲームとやらをしてみましょう。恋河原さん」

呼ばれた恋河原はビクリを身を震わせる。

「下柳さんと、あなたのパートナーをそれぞれ認知外に隔離しました。どちらか一人だけこの世界に戻せるとしたら、あなたならどちらを選びますか。あ、どちらも戻せない場合もありますけどね。期限はいまから24時間。・・・では、スタートです!」


<続く>


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