「違法の冷蔵庫」/#ショートショートnote杯
日曜の午後をマリアと過ごしていた私は、スマホの振動に気づいた。環境省特捜部からの家宅捜索令状メール。直後に玄関からドヤドヤと数人の男がなだれ込んできた。
「冷禁法違反の容疑で家宅捜索を行う」
リーダーが言い放ち、ほかの者は手分けして捜索を始める。
環境保護のため、一般家庭での冷蔵庫使用が禁止されてから3年。罰則は500万円以下の罰金か5年の懲役またはその両方と、重罪だ。
「見ての通り、冷蔵庫なんかどこにもないよ。なあマリア」
言いながらマリアの肩に伸ばす手を男はグッとつかみ、マリアに向き直る。
「R・マリア、法の下に命ずる。捜索に協力せよ」
マリアの瞳から光が消え、棒立ち状態となった。
「ここだな」
男はマリアの腹部を触り、扉を開く。隠し冷蔵庫の中にはよく冷えたフルーツ牛乳が一本。
「14時25分、冷禁法違反容疑で逮捕する」
「風呂上がりに飲みたかったんだが、残念だ」
瓶を伝う水滴。私は未練がましくゴクリと、喉を鳴らした。
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