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「ハロー、ボイジャー!」/「#あなたへの手紙コンテスト」企画参加

ハロー、ボイジャー2号!
社会科の斎藤先生から聞いた話だと、ボイジャーは整備不良があったとかで1号よりも2号の方が先に打ち上げられたんだってね。だから、私よりも未来にいるあなたはボイジャー2号。そう、これは未来の私への時空を超えた通信です。私はいま14歳。あなたは今、どこを飛んでいますか。3年先ですか?10年先ですか?…もしかして何十年も先だったりして。友達はいますか?相変わらずひとりぼっちですか?何にもない空間を、無言のまま飛び続けていますか?私がいる星には、知的生命体はいるのだけれど、言葉が通じません。いや、言葉は通じるのだけれど、心が通じません。ファーストコンタクトはまだ先のようです。そもそも私は物理的にも孤独です。物心ついた時にはこの施設にいました。親も兄弟もいません。ボイジャーは地球外知的生命体へのメッセージとして、地球の生命や文化を伝える「ゴールデンレコード」を積んでいるんだってね。私にも、あなたにもそれは積まれているんだろうか。いつか誰かに届くんだろうか。私の人生に、意味はありますか?ありましたか?いつかこの手紙を読む時が来たら、教えてください。ボイジャー1号より。

私がその手紙に気づいたのは、ついさっき。3年つきあった彼との結婚式まであと10日となり、引っ越しのために自室を片付けていて、ミヒャエル・エンデの「モモ」を開いた時に見つけたのだ。ピンク色の便箋に鉛筆で書かれ、折りたたんだだけの手紙。

現在28歳の私は、かつて自分がこんな手紙を書いたこと自体、すっかり忘れていた。

そもそもボイジャー1号は2号とは宇宙探査の経路が別で、現時点では確か、1号の方がはるかに遠い宇宙を進んでいるはずだ。

だが、そんなことはさておき、この手紙の中身はあまりにも悲しい。私は「14歳の私」にどうにかしてメッセージを送りたい気持ちになった。

私は机の引き出しからルーズリーフを1枚引っ張り出し、ボールペンでメッセージをしたためる。

ハロー、ボイジャー1号!
あなたの飛んでいる宇宙空間は、光も音もない、真っ暗闇のようですね。でも、あきらめないで。やがて光が見え、音が聞こえ始めます。定時制高校で『夢』という言葉を知り、バイト先のコンビニで『恋』に出会います。その恋は実らないけれど、社会人になって頑張っていると、あなたの「ゴールデンレコード」を受け取ってくれる知的生命体が現れます。いま、あなたが苦しんでいること、悩んでいること、落ち込んでいること、そのすべてに意味があるよ。だから、がんばれ。がんばれ、がんばれ、ボイジャー1号。ボイジャー2号より

さて、このメッセージをどうやって送ろうか。少なくとも、このまま私が持っていたのでは、どこにも届かない。

ああ、そうだ。一つだけ方法を思いついた。それは・・・

☆☆☆☆☆

街はずれの古本屋で、ぼんやりと棚を眺める少女。やがて、その目に留まる一冊の本。タイトルは「モモ」。

少女はなにかに引き寄せられるようにその本を手に取り、開く。ハラリと落ちる1枚の紙片。気づいた少女はその紙を拾い上げ、けげんな表情で見つめているが、やがてその顔に少しづつ笑みが広がる。

暗い闇を切り裂き、小さなメッセージをたずさえて飛ぶ「ボイジャー」。

その旅は、もう少し長いものになりそうだ。


<終>


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