コロナの前にペストーイヴァト国際空港ー

 私は今までアメリカやオーストラリア、韓国などの先進国にしか行ったことがなかった。そのため、マダガスカルの玄関口、イヴァト国際空港についた時はかなりの衝撃だった。

 まず決まった滑走路というものは私から見える範囲にはおそらくなかったように思う。地面はコンクリートではなく土のまま。空港である建物からかなり離れた場所に着陸するため、徒歩で空港まで向かい入国審査を受けるのだが、まあ何というか、その気になれば突破するのは簡単だろうなと思わせられるセキュリティだった(当時)。入国審査場の窓口は3つあるのだが、審査官が窓口と窓口の距離をものともせず、大声でおしゃべりを楽しみながら事務的にスタンプを押し続けていたため、逆にこちらが心配になるスピードで入国審査は終わった。
 実はこの時、我々は知らなかったのだが、マダガスカルの首都であるアンタナナリボはかなりの数のペスト感染者が出ており、政府が注意を呼びかけていた状態だったらしい。しかしそれを気にしているような人は首都の中心部でもあまりいなかったと思う(私が見た限りでは)。ましてやマダガスカル人でマスクをしている人は全くと言っていいほど見なかった。

 さて空港の荷物受取場ではいつも緊張感がはしる。特に海外では。イヴァト国際空港の荷物受取場でもマダガスカル人、その他の外国人問わず妙な静けさがあった。みんな、何が何でもロストバゲージだけは避けたいのである。手違いの場所にもよるが、アフリカでロストバゲージしてしまったらもう追跡するのは不可能に等しい。追跡できたとしても手元に帰ってくるまでに一体何か月かかるのか。この国に2年ほど住むことになっている人間からすれば協力隊の活動の前に当面の生活ができるかどうかの大問題なのだ。
結果からいうと、我々のスーツケースは無事にマダガスカルに到着していた。もうここで運を使い切ったと思うぐらいほっとした。スーツケースが破損していたとか、なぜか成田空港でアフリカ人のスタッフに巻いてもらったビニールが切り裂かれていたとか、明らかにこじ開けようとした痕跡があるとかは些末なことなのだ。

 空港を一歩出ると、もうそこはアフリカである。つまり何が言いたいかというと、アフリカ各地の空港の周りにいる「カバン持ちおじさん」に気を付けなければならないのだ。「カバン持ちおじさん」は泥棒ではない。にこやかに近づいてきておきながらスーツケースを無理やり奪い、車まで運んでくれた後、お金を請求するというせこいおじさんである。この「カバン持ちおじさん」は世界中にいるがアフリカでの生息数は他の地域の追随を許さない。
我々を迎えに来てくれていたJICA事務所の日本人コーディネーターの車まで行こうと足を踏み出した瞬間、抵抗むなしく私もスーツケースを奪われそのまま運ばれてしまった。ただ私は車に詰め込んでくれたのを見届けてすぐに車の中に入ったため、お金を払わずに済んだのだが、そのまま車の窓を6人ほどのおじさんがめちゃくちゃに叩いてきた。協力隊のメンバーの中にはショックを受けている人もいたが、やはりこういう時は目を合わせないのが一番だと思う。

 そうして「カバン持ちおじさん」たちに10分ほど車を攻撃されながら、やっと車はマダガスカルの首都アンタナナリボの中心街へ向かい始めたのである。

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