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文脈をデザインする不動産プロデュースのかたち building C|千葉・松戸市

松戸駅西口から歩くこと5分ほど。夜のお店が立ち並んでいたエリアに立つ4階建てのビルを2018年にomusubi不動産がプロデュースしました。ネーミングから内装デザイン、収支計画からテナントの募集までトータルでプロデュースできたのは、地域の仲間たちのおかげでした。ロゴマークやビル全体の設計を担当されたデザイン設計事務所 STAGの小川宏之さん、2階でカフェを営むym.の本庄真由美さんとともに、building Cがどのようにできたのか、これからどんなことをやっていくのかについてお話しました。


プロジェクトのポイント

  • 殿塚が相談を受け、小川さんとともにビルの文脈を活かした企画を立てる

  • 松戸のシェアキッチンOneTableからym.さんが入居し、テナントが揃う

  • ビルとしての主催イベントを初めて行い、エリアの盛り上がりをつくる拠点に


お話を伺った人たち

左:ym. 本庄真由美さん
中:デザイン設計事務所 STAG 小川宏之さん
右:omusubi不動産 代表 殿塚建吾

元風俗ビルという文脈をポジティブに変換するデザインの力


───すごくかっこいいビルですね。こちらはどんなきっかけで立ち上げることになったのでしょうか?

殿塚建吾(以下、殿塚) 地元の同級生のお父さんが山一ハウスという不動産屋さんをやっているのですが。どのように活用するか決まっていない物件があるから相談に乗って欲しいと、同級生から連絡があったんです。近所ですし、すぐに現場を見に行ったんです。

───もともとは何かのテナントビルだったのでしょうか?

殿塚 だいぶ年季の入った風俗ビルでして。駅も近いし立地もいいので、建物の個性や物語をうまく活かせば面白くなるなと直感的に思いました。それで、まず建物は壊さずに活用した方がいいということをまず山一ハウスさんにお話して。具体的な提案ができるタイミングになって、この物件を活かすにはデザインの力が必要だなと思い、小川さんにお声がけさせていただきました。

小川宏之さん(以下、小川) 僕はそのころ東京に住んでいて、設計事務所で働きながら、自分でもフリーランスとして少し働いているという時期でした。地元の茨城にもよく行っていたので、松戸の付近はいつも通っていたんです。それでたまたま見つけたomusubi不動産が運営しているせんぱく工舎というシェアオフィスに事務所スペースを借りることにしたんです。

───それがomusubi不動産との出会いだったんですね。どうやって見つけられたのですか?

小川 ネットでDIYができる物件をいろいろ探していたら、松戸で1万円台というのを見つけまして。都内の駐車場より安いじゃんって(笑)。せんぱく工舎の雰囲気も気に入って、月に数回使うスペースとして使わせてもらうことにしました。

殿塚 小川さんとはせんぱく工舎で会う中で、どんなものを作られているかは少し知っていたので、この物件の企画とデザインにぜひ入ってほしいなと思ったんです。

───初めてここに来た時のことは覚えていますか?

小川 内装も風俗のままでしたね(笑)。ただ、その文脈が面白いなと僕も思いました。普段店舗の設計するときも、ゼロから新しいものをつくるよりも、文脈をデザインするみたいなことは大事にしていて。一見ネガティブなイメージを、ポジティブに変換にしようと話していました。

殿塚 外に出ている看板とかもそのままだったもんね(笑)。

小川 夜の街って色街と呼ばれるじゃないですか。色街の跡地から色っぽいところをなくしていくという意味合いで、今回のデザインコンセプトを「脱色」としたんです。もともと外が小豆色とベージュのタイルに塗り分けられていたのですが、それをそのまま脱色して、既存の看板も透明なパネル部分だけ残して、そこにロゴを入れて。そんな感じで設計プランを考えていきました。

───それでオーナーさんにプレゼンをして、了承をいただいたというかたちで?

殿塚 そうですね。改装費など初期投資を回収する賃料などの計画をomusubi不動産の方で考えさせていただいて、コンセプトやデザインとともに提案しました。それと、「buildingC」という名前も、「Community」「Conversion」「Challenge」「Culture」の頭文字から最初の方に考えていました。

小川 僕の方ではトノが考えたネーミングをロゴにしたり、ブランディングも併せて提案させていただきました。内装の予算を調整するために、共用部とかはDIYのイベントにしたんですよね。building Cのキャップとブルゾンを作って、それを着て塗装して、ペンキで汚れたら完成みたいなイベントにして。

松戸のシェアキッチンから独立し入居。地域のつながりを活かしたリーシング


───オープンしたのは2018年の冬ということですが、テナントさんはどのように募集したのでしょう?

殿塚 プロジェクトの企画を進めているときに、古着屋をやりたいという方からうちに物件のご相談をいただいていて。ぴったりだと思って、ご紹介をして入居が決まりました。小川さんもせんぱく工舎から事務所移転する流れになってたよね?

小川 おかげさまで松戸エリアのお仕事をいただくことが多くなってきたタイミングだったこともあり、会社も辞めて、東京から引っ越してここに入ることにしました。

───本庄さんは2階でym.というお店を営まれていますが、どのようなきっかけで入居されたのですか?

本庄真由美(以下、真由美) 元々蔵前のコーヒーショップで働いていて、その後は独立して、松戸のOne Tableというシェアカフェで週に何日かカフェの営業をしていました。

殿塚 One Tableもomusubi不動産が運営している独立支援型のシェアカフェなのですが。1年半くらい営業していて、そろそろ独立するというタイミングだったのでちょうどよかったんですね。

真由美 自分でテナントを借りてお店をやるならスナックとかの居抜きがいいなって前々から思っていまして...風俗ビルと聞いて、ここしかない!と(笑)。ym.はユキさんという女性と二人でやっているのですが、ユキさんも賛成してくれて、晴れて2階に店舗を構えさせていただくことになりました。

小川 そんなピンポイントな人もなかなかいないよね(笑)。

───オープン当初は、他にネイルサロン、薬膳屋さん、写真家さんの事務所が入っていたということですが、テナントさんはスムーズに集まったのですか?

殿塚 やっぱり1階と2階が開いていないと建物として寂しいわけですが、路面店は賃料も高いので見つかるまでは時間がかかりました。ym.さんが入ることが決まって、すべての部屋が埋まったかたちでしたね。小川さん中心に、つくる過程から一緒に進めているので入居された方は自然とつながっていって、僕らが何かをするまでもなく勝手に交流が生まれていました(笑)。

───小川さんは設計から関わられていて、イメージ通りの場所になりましたか?

小川 どんなお店が入ってほしいとかはあまり想定していませんでした。来るもの拒まずじゃないですけど、前提としてomusubi不動産さんが入居審査をしてくださっているので、そこで入ってくる人たちによって生まれる変化を楽しむというか、それが一番近くで見られるからこっちに引っ越したっていうのもありましたね。

真由美 入居されている方のコミュニティも心強いです。私たちもインスタグラムの発信くらいしかやっていなかったのですが、おかげさまで多くのお客さんに来ていただくことができて。OneTable時代のお客さんも遊びに来てくださって、そういうまちのつながりも感じられて嬉しかったですね。

入居者の取り組みが、そのまま建物の文化になる


───先日、building C全体としての初イベントを開催されたと聞きました。

小川 そうなんです、「ピンクイビルシー」というイベントで。月一くらいでym.さんに集まってご飯を食べたりしていたんですけど、building C全体で何かやりたいねっていう話になり。僕もやる気になっちゃって、企画書を次の日につくってみんなに共有して。

真由美 本当に楽しかったですね。誰も来てくれないかとちょっと不安だったんですけど(笑)。

殿塚 そこは自信なかったんだ(笑)。

小川 テーマがピンクっていうだけだったので(笑)。僕も入り口で人数カウントしていたんですけど、入場制限が必要なくらい来てくださって。たまたま通りかかった人も入ってくださったり。実績もできたので、次はもっといろいろな人に声をかけてやりたいなと計画をはじめています。

ピンクイビルシーイベントの様子

殿塚 一階のテナントさんが退去されるので、次の入居者を見つけなきゃというタイミングだったんですけど、イベントに来てくださった方の中に借りたいという方が声をかけてくださったり、収穫がたくさんあったと思います。

───楽しみながらいろいろ企画される方が集まっているのですね。今計画されていることはありますか?

真由美 うちでいうと今内装を少しリニューアルしていまして。今まで週5日営業だったんですけど、週4日にして、1日はテイクアウトのみにしようとしています。コロナの影響で来たくても来れないという方も多いので、オンライン販売も始めたいなと。

小川 うちは4階でお客さんがいつも息を切らしてくるので、エレベーターを付けたいですね(笑)。イベントは継続してやりたいし、建物の中だけでなく、エリアに広げていけたらなとも思っています。

真由美 あと、アーティストさんのライブをやってもらいたいです。屋上とかうちのお店でも。映画とかミュージックビデオの撮影場所として使っていただければと思いますし、あと屋上で入居者全員で盆踊りもしたいです(笑)。

殿塚 普通にやると怒られそうだけど(笑)、「科学と芸術の丘」でプロジェクトにしちゃえばできるかもね!こういうみなさんの楽しい空気感が、この場所の雰囲気となって、人が集まってくるんだと思うんです。世代が変わっても、そんな空気が長く受け継がれていくビルになることを楽しみにしています。


小川宏之
デザイン設計事務所 STAG 代表
1984年生/茨城県水戸市出身
12年組織事務所にて、不動産営業・設計部門責任者を経て設計事務所として独立。
建築、インテリアに関する企画・設計・監理・それに伴うコミュニケーションデザイン、企業やまちづくりのデザインコンサルティング及びディレクションなど幅広く取り組む。

本庄真由美
ym.店主
1984年生/東京都出身
飲食店に3年ほど勤務。
結婚、出産を経て東京・蔵前にあるコーヒーショップや人形町のコーヒーショップでバリスタ経験を積み、2018年4月元同僚だった渡邉友紀さんとOneTableにてym.をスタート。
2019年12月BuildingCに移転、独立。
カフェ営業だけではなく、イベントや展示会なども行っている。

殿塚建吾
omusubi不動産代表/宅地建物取引士
1984年生/千葉県松戸市出身
中古マンションのリノベ会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元・松戸に戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」にて不動産事業の立ち上げをする。2014年4月に独立し、おこめをつくる不動産屋「omusubi不動産」を設立。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」など多くのシェアアトリエを運営。空き家をDIY可能物件として扱い管理戸数は日本一。2018年より松戸市、アルス・エレクトロニカとの共同で国際アートフェス「科学と芸術の丘」を開催。2020年4月より下北沢BONUS TRACKに参画し、2号店を出店。田んぼをきっかけにした入居者との暮らしづくりに取り組んでいる。


Photo=Hajime Kato
Text=Takehiko Yanase


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