論文ゼロで学振DC2に採用された話

今後申請書を書くときの自身に向けた備忘録も兼ねて書きたいと思いました。

はじめに

ここで書く内容は、一般的な学振の申請書の作成方法ではなく、採用された事案の一例としての位置付けです。
それぞれの性格によって申請書の作成方法やポリシーも違うと思いますし、一例に過ぎないということを念頭に置いて眺めてもらえたらと思います。

基本ステータス

最初に考慮すべき基本事項を述べておこうと思います。

私自身のこと
学部→修士で外部の大学院を受験し、研究室および専攻を変更しました。
学振の申請書に関わる研究テーマはM1の後半からスタートしました。

学振申請歴
[DC1]
不採用B。細かい評価は忘れましたが、全体のちょうど中間くらいだったはず。
申請当時の実績は査読論文0本、国内会議4件、国際会議0件。

[DC2]
2次選考免除で採用。
申請当時の実績は査読論文0本、国内会議8件、国際会議1件。

いずれも申請区分は数物系科学 / 天文学およびその関連分野 / 天文学関連。

DC1の敗因

私の研究室では、私を含め4人がDC1に申請し、2人が採用され残りの2人が不採用でした。このため、採用されたものと不採用だったもので、申請書や作成過程を比較することができました。

DC2の申請書を書き始めるときに改めてDC1の採用/不採用の申請書を比較したとき、私のDC1の敗因として大きく2点が存在すると考えました。


1. 具体的な研究対象が明確ではなかった

採用されたものと不採用だったものを比較したとき、明らかに敗因だと感じた点がここだと思います。

どういうことかというと、採用された申請書の研究計画では、「あるX線天体」だとか「あるタイプの銀河」だとか、対象となる天体や現象が明確に存在しました。
一方で私の申請書はというと、巨大ブラックホールの成長過程だとか漠然としたことしか書いていませんでした。

研究対象が明確であるということは、それだけ先行研究も調査しやすく、背景や解決すべき課題も明確にしやすいということです。
そこが明確に書ければ、その後の研究計画に至るまでの流れも自然ですし、説得力も格段に増すと思います。

ある先生に私のDC1の申請書を見せたとき、「最も重要な一貫性がない」というコメントをいただいたことがあります。
これは、申請書を通して明らかにしたい対象がはっきりと存在しなかったため、「『あれもできそう、これもできそう』みたいに主張が行ったり来たりして、結局何がしたいのかがわからない」ためにもらったコメントなのではと今にして思います。

逆に言えば、(少なくとも天文学の場合、)その研究計画で明らかにしたい対象・現象を明確にしさえすれば比較的スムーズに申請書が書けるはずなのだと思います。


2. 修正過程が微妙だった

色んな人に見てもらいながら無限に加筆・修正を繰り返し、締め切り当日の状態のものを最終版として提出することになると思います。

私も例に漏れず、色んな人に見てもらって申請書を修正していきました。
しかしながら、当時の私は、いただけるコメントがどれも似通っており、少し抽象的だと感じていました。

このことは、間違いなく自身の申請書の完成度が甘すぎたことに起因すると思います。
そのため、学振のことを調べて出てくるいろんな記事に書いてある、とにかく色んな人に見せまくるというのは悪手なのではないかと考えました。
正確に言うと、申請書の完成度が低い状態で何も考えず色んな人に見せまくってもあまり得られることがないというのが私自身の考えです。

なので、DC2の申請書作成時にはこの修正過程も改めました。

DC2の申請書を書き始める

私はけっこう前々から準備する方なので、修論の最終版を出し終わってすぐの2月中旬くらいから申請書を書き始めました。
(どうでも良いことですが、私が色んなことを早く準備しがちなのは、自分が他の人より無能なため、計画的に効率よく物事を進めないと能力の差を埋められないと思っているからです。)

初めは、博士に進学した後に行う研究の計画の相談の良い機会だと思い、修論までの内容と関わりがあって当時私が興味のあった研究テーマで一通り申請書を埋め、それを持って指導教官に突撃しました。

結局、私の考えた最強の研究計画は却下されたのですが、その場で指導教官と研究計画の相談をし、DC1の敗因だった明確な研究対象を定めることができました

ここが決まれば、あとはその対象に沿って重要な先行研究をサーベイし、問題点を洗い出すことである程度申請書の大枠ができると確信していましたので、単純作業だと思って申請書を一通り書き直しました。

修正を重ねる

大枠ができあがれば、あとは修正を重ねるわけですが、ここでもDC1からやり方を改めました。

私の指導教官はめちゃめちゃ研究費を取ってくる人です。要するに、申請書作成においては最強の赤ペン先生なわけです。その上面倒見も良く、私自身の研究テーマにも熟知していますし、これを使わない手はありません。

今回は色んな人に見てもらうのではなく、指導教官"だけ"と徹底的に修正を繰り返しました。いまメールボックスを見返したら、申請書の修正をしていたスレッドは47件でした。約20往復くらい指導教官とやり取りしていたことになりますね。

これだけで締め切り間近になっていたので、あとは時間の許す限り色んな人に見せました。
正直指導教官と20往復した時点で申請書としてはかなり完成形に近いと思うのですが、研究計画を隅から隅まで知っている私と指導教官だけだと説明を省略していても気付かない部分などがあったと思います。
そういう伝わりにくい点は色んな人に見て指摘してもらうことで発見がしやすくなると思います。

また、DC1のときは使っていなかった、学内の申請書添削サービス(筑波大学URAの研究費獲得支援)みたいなものも利用したりしました。個人的にこれはかなり役に立ちました。
(半分お世辞だとは思いますが、このサービスで全くの他分野(物理ですらない)の2人の方から「多分いけると思います」と言われたのは自信にもなり、今回の方針がある程度良い方向性だと再確認できました。)

書くときに気をつけたこと

以下、申請書作成にあたり気をつけたことを箇条書きでまとめます。

・文章は短く書く。
・結論を先に述べて、そのあとで「なぜなら〜〜〜」のように繋げる。
・1ページ目の図は、研究背景が一目でわかる図を載せる。
・2ページ目の図は、研究計画が一目でわかる図を載せる。
・見出しはフォントや色を変えて目立たせる。
・強調する部分(太字など)を増やしすぎない。
・「高精度」や「極めて」など曖昧な表現を使わない。
・使用する計算コードや観測機器、研究機関などの名称を具体的に書く。
・研究計画では予想される結果をセットで書くと説得力が増す。
・後半は恥ずかしさを捨てて自分を褒めちぎる。

提出後の所感

DC1のときよりは格段に良い申請書ができたという実感がありました。
正直、当時の私にこれ以上の申請書は書けないと思います。

我ながらけっこう手応えはあったのですが、不安要素に感じていた部分もあります。
それは、
査読論文が0本だった
研究計画の部分でまだ曖昧さを感じていた
の2点です。

査読論文0本に関しては今更どうこうできる問題でもないので放置するしかありませんでしたが、研究計画の部分に関しては、見る人が見たら落とされるのではないかとビクビクしていました。
しかし、締め切りまで残り時間が少ない中、現状より良いものを生み出せる自信がなかったので、なるようになれ!と思ってそのまま出しました。
結果的には採用となりましたが、ここの部分で発生する運ゲー要素は排除できたと思います。

査読論文に関しても、戦略的に研究すれば多くの人が十分間に合う可能性はあると思うので、不安要素は極力減らす努力をすべきだと思います。

最後に

いま色んな博士課程支援がありますけど、お金があった方が良いし、学振は昔から存在して多少の箔もあると思うので、チャンスがあれば採用は目指すべきだと思います。

私ので良ければ、よほど見知らぬ人でない限り落ちた申請書・通った申請書の可能な部分はお見せしますので、TwitterのDMなど気軽にください。

この記事が誰かの役に立てば幸いです。

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